報告90 感情が起こす問題
【1】
水上と途中で別れて、自宅に帰宅した私は、ソファーに座りながら考え事をしていた。スマートフォンを片手に握りしめ、悩んだ末に私は、電話をかけることにした。
「もしもし、北沢です。すみません、テストの採点中に。」
「おや、北沢さん。お疲れ様です。どうしたんですか?」
「成績処理は、今日中に終わりそうです?どうですか、今夜食事に行くというのは。」
「そうですね…。そんなに成績処理に時間もかかりませんし構いませんよ。いつものところで良いですか?」
「すみません。ありがとうございます。」
【2】
その日の夜、私は昨日弟と夕食を摂った、洋食店に飛田を誘った。飛田本人が「ここが良い。」と言った為だ。
「今日は、来て頂きありがとうございます。私の方でお代は出しますので、お好きなものを注文して下さい。」
私が飛田に言うと、飛田はメニューも見ずに私に言った。
「私は、いつものやつでいいよ。」
「オムライスですか?」
「ええ。わかってるじゃないですか。」
私が店員に注文した後、私たちは料理が来るまで、ちょっとした世間話をしていた。
「それで、数学のテストの出来はどうでした?平均点は良さそうですか?」
「ええ。北沢さんのお陰でだいぶ高いですね。他の教科もそうなのですが、高すぎて問題になるかもしれません。」
「次回の期末テストは、例年になく難化すると?」
「ええ。保護者や校長先生から指摘されてしまえば、そうせざるを得ないでしょうね。」
「そんなもの、区の学力調査の結果を見せれば納得するでしょう。うちの学校の成績は、区でもトップになったはずです。ほぼ全員が塾に通っているような状態なのですから。」
「校長先生は納得されても、納得しない保護者が一定数いるでしょうね。」
「それもそうですね。」
そんな会話を続けていると、オムライスが2つ運ばれてきた。飛田は、それを見て私に言った。
「おや?北沢さんもオムライス頼んだのですか?」
「ええ。この間食べた時に美味しかったので。」
「あなたも、この味の良さに気づきましたか。」
(お前、全然食わないけどな!)
「それで、北沢さん。他に話したい事があるんじゃないですか?まさか、今回の数学のテストの出来を聞くだけのために、私を呼んだわけでは無いのでしょう?」
「はい。合唱祭の事で、相談したいことがありまして。」
「合唱祭ですか?北沢さん、合唱祭の指導とかしたことないのですか?」
「そうでは無いです。改めて、自分がどう彼らに関わるべきか分からなくなってしまったのです?」
「というと?」
「自分が中心になって進めていく事は、簡単にできると思います。ですが、私が進めて生徒たちの成長の機会を奪ってしまうのは、教師としてやってはいけない事だと思っています。」
「今のあなたは、教師では無いですけどね。」
「そこはとりあえず、置いておいて下さい。いつまでもクラスの生徒が自律しないでしょ!」
「失礼。冗談です。つまり、あなたがクラスをまとめてしまうと、生徒の為にならない。かと言って、あなたがこのまま何もしないと、今後の練習で支障が出てしまう。そういう事ですか?」
「はい。去年の話を聞く限り、男子は北野先生がつきっきりで面倒を見ていたらしいんです。完全に人に依存する体質が出来上がってしまっています。その状態で私は、どう立ち回ろうかと…。」
「なるほど…。」
飛田は、手に持っていたコップをテーブルに置き、腕を組みながら上を向いた。飛田は、しばらくそうして考えてから、私に言った。
「う〜ん…。難しいですね。ま、結論から言ってしまうと、あなたのやりたいようにやればいいんじゃないですかね?」
「丸投げじゃないですか!」
「今のあなたなら、私が出す答えなんかより、より良い答えを見つけられると思いますよ。北沢さん。あなたも転校してきてからだいぶ変わりましたし。」
「そんな自覚はあまりありませんが…。」
「いえ。大きく変わっています。転校当初のあなたなら、こんな事で悩まない。生徒の自主性第一で自分は身を引くと思いますよ。しかし、今のあなたは迷っている。何でだと思いますか?」
「……。」
「それは、あなたがあの子達ともっと楽しい時間を過ごしたい。素敵な思い出を作りたい。その気持ちが全面に出てきたからではないですか?」
「その気持ちは否定しません。しかし、不要とまでは言いませんが、その気持ちを尊重するのはいかがなものかと思います。」
「なぜ?」
「私は、感情を優先して問題を起こした教師を何人も見てきました。あなたも見てきたはずです。高幡なんてその良い例ですよ。ですから、時にドライな対応をすることも大切だと思います。」
「では、あなたは教師をする上で何を大切にしてきたのですか?」
「究極を言ってしまえば、その学校の教育目標を実現させる為にどのような行動を取るべきかを考えること。そう言った規範が組織の生産性を向上させますから。」
「…なるほど。私から言わせれば、賢しい知恵ですがね。」
「また、ずいぶんなことを言いますね。」
「まあ、いいでしょう。とにかく、あなたは安心してやりたいように今回はやって下さい。問題があればフォローもしますし、助言もします。チーム戦で行きましょう。」
「そうですか。それなら私も安心です。よろしくお願いします。」
私は、社交辞令的にそう言ったが、私と飛田の間で少しづつ意見が対立している事に、警戒し始めていた。
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