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報告89 男子生徒が合唱を嫌がる文化的な理由

【1】


 打ち合わせを終えた後、私と水上は一緒に下校していた。水上は愚痴るように私に言った。


「まったく、どうしてうちの学校の男子は、協力しないの?」


「いや、そうと決まった訳じゃないだろ?」


「でも、今日だって男子のパートリーダー決めるのに何分かかったと思ってるの!?」


「男子が歌わないってのは、たしかによくある事だな。こればかりは日本人である以上、避けて通れない課題の一つだ。」


「どういうことよ?」


「そう言う国民性なんだ。全国の中学・高校で同じように苦労してると思うぞ。例えばさ、ミュージシャンとかダンサーって女子にモテるだろ?」


「そりゃ、そうでしょ。」


「実は、それって世界共通だって知ってるか?」


「え?そうなの?…で、それが何の関係があるの?」


「だから、海外の男性は、女性にモテるために歌やダンスをたしなむ人が多いんだな。一方で、日本の男性は、露骨にモテようとする事を恥ずかしいことだと思うことが多い。考えてみろよ、男ってダンス嫌いなやつ多くないか?それにどうだ?ビーチや繁華街でナンパしてくる男子を水上はどう思う?気持ち悪いとか、遊ばれるだけとか、あやしい人とか思うんじゃないか?」


「たしかにそうだけど…。でも、何でそう言う考えになるのよ?」


「これは、自分なりの考えだが、日本という国は良くも悪くも〝さむらいの国〟だからだと思うぞ。そう言うのをきっと美徳と思わないんだろうな。」


「侍の国って…今どき絶対ないでしょ。何年前の話よ。」


「だが、今まで学校で習ってきた道徳の授業だって、武士道の考え方と一致する部分は、めちゃくちゃ多いんだぞ。気づいていないと思うけどな。他にも、お金儲け主義を変に嫌うのも武士道の特徴だな。そう言うお金持ちってマスコミでよく叩かれるだろ?」


「…確かに。じゃあさ、北沢はパートリーダーやってくれたり、歌の練習を頑張ってたのってさ。モテたいから?」


水上が私に目を向けながらそう聞いてきた。同じくらいの身長のはずなのに、その視線がやけに上目遣いなような気がしてならなかった。私は、少しふざけて答えた。


「何言ってんだ。そんな訳ないだろ?大体、正直にモテたいからって言う男が、そうそういる訳ないだろ?さっきの話聞いてたのか!?」


水上は、またいつもの調子に戻り私に言った。


「うわ!そうやって理屈っぽく言って!だから、彼女出来ないんだよ!!」


「いや、何で彼女いないって言い切れるんだよ!」


「お姉ちゃんが、「彼女いないって」北沢が言ってたってのを言ってたよ。」


桜のやつ、言いやがったな!!何かの間違えで正体バレたらどうすんだ!?


「そもそも、こんな大切な受験期に彼女を作る必要はないしな。」


私がそう言った瞬間、一緒に歩いていた水上の足が止まった。私がその異変に気づき、足を止めて振り返ると、水上は少し俯きながら私に言った。


「…本当にいらないの?」


「どうしたんだ?水上?」


「私、やっぱり自習室で勉強してから帰る。じゃあね。」



水上は、回れ右をしてそそくさと立ち去ってしまった。



【2】


一方でその頃、神田と大崎は、スクールの自習室で今日のテストの見直しをしていた。


「神田、今日はこんなもんにしようぜ。北沢からも今日はテストが終わったから、見直しだけで良いって言われてるしな。」


「そうだね。あ…あのさ…。」


神田は、何かを言いたいようだったが、言い出さないでいた。大崎は、その様子を見て言った。


「今日ぐらい、ゲームでもして遊ぶか?」


「い…いいのか?俺なんかと…?」


「なんだよお前?友達と遊んだことないのかよ。」


「…………。」


神田は、嫌な事を思い出したのか、何も言わずに震え始めた。その様子を見て大崎は慌てて言った。


「すまん!!マジで悪かった!!!!今の忘れろ!!!!とにかく、一回家に帰って携帯ゲーム機取ってこいよ。いつもいる公園で待ってるから!!!!」


大崎は、そう言い残して、その場から逃げ帰った。



【3】


 スクールから、逃げ帰った大崎は家の自室にあったゲーム機を取りだし、公園へと向かった。不登校時代からずっと世話になっている公園だ。彼は、公園に入り、いつも座っているお気に入りのベンチに向かっていた。普段からそのベンチを利用する人間は少なく、自分だけが確保できるからだ。しかし、その日はどう言う訳か先客が居た。大崎は、その先客に声をかけた。


「水上か?どうしたんだ?」


 ベンチには、水上が何をするわけでもなく座っていた。水上は、大崎の方をしばらく見た後に、また正面に首を回した。大崎は、何も言わずすぐ隣のベンチに座わり、スマホを開いた。大崎がスマホをいじりだすと水上が大崎に声をかけてきた。


「大崎…あんた何してんの?」


「神田と遊ぶ約束してんだよ。ま、神田はゲーム機の充電が切れかけてたって連絡あったから、30分後くらいに来るけどな。」


「ふーん。」


水上は、興味なさそうに返事した。今度は大崎が水上に質問する。


「で?お前は、何をしてるんだ?っていうか家にまだ帰ってないだろ?不良か?」


「あんたがそれ言う?…はぁ。何してんだろ私。」


大崎は、それ以上何も聞かず、携帯ゲーム機を起動させゲームを始めた。しばらく2人の沈黙が続いたところで、水上が大崎に言った。


「ねえ、大崎。あんたが学校に通えるようになったのってさ、北沢がなんかしたの?」


大崎は指の動きを止めて、水上に言った。


「どうしてそう思うんだ?」


「私は、北沢に助けられたから。」


「お前もそうなのか?というか、お前が困り事を抱えていた何て意外だな。」


「誰のせいだと思ってんのよ。」


「は?どういうことだよ?」


「大崎が部活来なくなってさ、練習相手が居なくなって、それからずっと練習が物足りなかった。」


「ああ…。確かに、まともに試合できるの俺だけだったな。それは、悪いことをしたな。」


「そんな時、北沢が転校してきてさ、全然勝てなかった…。でも、張り合えるヤツが来たと思って、それがすごく嬉しくて。」


「張り合える仲間を最後の最後で見つけられたんだな。よかったじゃないか。」


「張り合える仲間?」


「仲間だろ?」


「そっか…私、仲間が欲しかったんだ…。そうだよね、私なんかが柄じゃないよね。」


「柄じゃない?何言ってんだお前?」


「私もう帰る。じゃあね。」


「…ああ。また明日な。」


水上は、そう言って走り去っていった。大崎は、ゲームをする手を完全に止めていた。彼は、一度深呼吸するとボソッと独り言を呟いた。



「……北沢先生。やらかした感じか?」




いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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