表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/135

報告88 バカバカしい可能性

【1】


      「おはよう北沢。」


 教室の扉を開けた私に上野が声をかけた。私は、いつも通りの時間に学校に登校し、教室の扉を開けた。にも関わらず、教室にいるクラスメイトの人数がやたらと多かった。それもそのはずで、今日は中間テストの1日目なのだ。誰しもが早めに来て、勉強しているという、素晴らしい気合いのはいようだ。今回のテストは、5教科のみで二日間に分けて行われる。1日目は、国語・英語・社会の3科目だ。


「はい。皆さん席に着いてください。朝の会はじめますよ。」


飛田がテスト問題の入った封筒を持って教室に入ってきた。号令を済ませると飛田は、話を始めた。


「皆さん、気合が入っていますね。何度も言いましたが、このテストは、調査書の内申点に大きく関わります。最後の最後まできちんと取り組みましょう!それでは、休憩後このまま国語のテストを始めますので、時間になったら着席して下さい。」



【2】


「兄さん。お疲れ様。」


今日のテストが終わった後、私は弟を食事に誘った。テストは午前中で終わるため、昼に時間が取れたのだ。


「それよりいいの?明日もテストあるんでしょ?」


弟が私に言った。


「明日は、数学と理科だからな。少しくらい休憩しても問題ないだろう。それに、特に誰かと競っているわけでもないしな。」


私は、弟にそう答えた。


「そんなこと言って。また、大塚さんに負けても知らないよ。それにしても、ここが例の店か〜。」


弟が周囲を見渡しながらそう言った。ここは、私が飛田に連れてこられる洋食店だった。飛田がここでいつもオムライスを注文していることに、弟が興味を持ったので、連れてきたのだ。


「お待たせしました。オムライスです。」


「来たな。」


弟は、オムライスを受け取ると、スマートフォンを取り出し写真を撮った。そして、一口オムライスを口にした。


「うん。ザ・オムライスだね。美味しいよ。」


「そうか。なら良かった。」


「で?兄さん。その読んでるプリントは今日のテスト?それに何でそんな浮かない顔をしているのさ?」


「ん?ああ、すまん。ちょっと国語のテスト問題で気になることがあってな。」


「へー。どんな問題?」


「小説の問題でな…。気になるところがあって。」


「え?難しかったの?問題見せてよ。」


「いや、問題は難しくないんだ。なんなら見ていいぞ。」


私は、問題用紙を弟に手渡した。弟は、その問題を読んで言った。


「別に普通の国語のテストだね。って言うかこのテスト、1学期の中間テストのやつじゃん。どうしてこんなものを今更…。」


「偶然だよな…?」


「ん?何が?」


「オムライス…。」


「…?」


 私は、頭に浮かんでいるある可能性について口にしようとしたが、やっぱりやめることにした。それは、あまりにもバカバカしいことだと判断したからだ。


「いや、何でもないんだ。それより食べよう。」


…本当は、バカバカしいと思ったからではない。口にするのが怖かったのだ。だが、私にはその可能性を確かめる勇気が現時点ではなかった。



【3】


 テスト最終日、といってもこの日の教科は、数学と理科の2科目。言ってしまえば、かつての仕事道具のようなものだ。私は、この2教科を難なく片付け、この後の学活のことを考えていた。この日から、合唱祭のクラス練習が解禁されることになっていたのだ。次の学活では、練習の方針や係について話す予定だ。テスト問題を解き終え、時間を持て余している間、私はどうクラスに関わるべきかをずっと考えていた。


 テストが終わり、学活の時間になった。飛田は初めに、「それじゃ、学級委員さん。この時間を使って話し合ってください。」とだけ言って、教室の後方に移動した。私は、黒板の前に立ち言った。


「さてと、それじゃ。パートリーダーを決めようか?」


 私は、まずパートリーダーを決めることにした。まさか、こんなところで苦労することになるとは、思わなかったが…。女子のパートは、あっさりと名乗り上げたものがいたので、問題はなかった。


 問題は男子だ。どうやら、今まで前の学級委員である高田がずっとパートリーダーを務めて男子をうまく引っ張っていたらしい。そのため誰も立候補しなかった。かと言って、私がパートリーダーになるつもりも毛頭なかった。学校行事は、生徒の協調性や自主性を育てる大事な機会だ。その機会を私が奪うことに強い抵抗があったのだ。


 このクラスには、自らリーダーをやりたがる生徒が驚くほどに居ない。それは、今までリーダーが担任に叩き潰されてきたからだろう。まさに、北野が残した大きな爪痕と言える。私は、痺れを切らして言ってしまった。


「仕方ない…俺がやろう。でも、歌下手だぞ。いいのか?」


それでも、誰も名乗り出なかった。これは、少し大変かもしれない。私は、今後のことを考えながら学活を終えた。



【4】


 その日の放課後、私を含めたパートリーダー3名と伴奏者である水上で、今後の練習の打ち合わせを行うことにした。パートリーダーは、ソプラノ・アルト・テノールから1名ずつ決めたため、自動的に男子は私一人だった。


「それじゃ、去年と同じように、明日の放課後から全体練習をやろうよ。」


大塚がそう言った。彼女は、ソプラノのパートリーダーになっていた。女子をまとめるというより、水上に協力したいというのが本心なのだろう。


「一つ聞いていいか?去年はそれでうまくいったのか?今日の男子の様子を見る限りうまく行かなそうなんだが。」


私は大塚に質問した。今日の学活の様子を見る限り、これでは上手くいきそうにない。大塚は私に答える。


「うん。北野先生が歌わない男子を片っ端から…あ…。」


「………もしかして、これヤバいんじゃ。動画サイトで見たことある。男子が歌わないってのあるあるだって。」


アルトパートのパートリーダーである田端がボソッと言った。



これは、一筋縄ではいかないようだな…。


いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー、評価等を頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ