報告87 一般入試と内申点
【1】
「私立学校が抱えているとある事情、それは生徒の確保が難しくなったと言う事だ。」
「でたよ、大人の事情ってやつでしょ。」
「水上の言う通り大人の事情だ。これを説明する前に、私立の一般入試について、少しおさらいしておこう。一般入試はもちろん、学校によって合格基準は決められるから、本当にペーパーテストだけで決めるところもあるだろう。だが、結論から言うと…。
一般入試であっても、調査書の内申点(学校の成績)を見ている私立の学校は、珍しくない。」
「え!?うそ…。それじゃあ、本やネットに書いてある合格最低点はどうなってるの?」
「確かに合格最低点は、その学校の合格ラインとしていい指標になる。でもあれは、どうやって決まるか。これにはいくつかのパターンがある。
一つは、一定の定員や倍率になるように定める場合、これは機械的に合格ラインを定める。受験生が多い学校で採用される方法だ。もう一つは、危ないと判断した受験生だけが不合格になるように合格ラインを定める方法だ。ここ最近、後者の合格ラインの定め方をする学校が増えてきたんだ。その理由は、言わなくてもわかるだろ?」
「そもそも、定員よりも受験者の人数が少ない、つまり定員割れってこと?」
「その通りだ。さすが、大塚さん!」
「でも、そしたら全員受かっちゃうよ。倍率も1.0倍になっちゃうよ。」
「だから、どうしようもないヤツだけ不合格にするんだ。その判断材料にもってこいなのが、中学校の内申点というわけだな。内申点の酷い受験生は、ペーパーテストの点数も良くないから、そこより少し上に合格ラインを設定するんだ。それから、成績だけでなく、欠席が多い受験生も危険だ。その受験生を不合格にするように合格ラインを設定する場合もある。」
「嘘だろ!?欠席も見るのかよ!?そんなに欠席しないことが大事なのか?」
「簡単な話だ。欠席が多いやつは、高校に進学しても欠席が多くなる可能性が単純に高い。特に高校は、授業時間の3分の1以上を休んでしまうと、その授業を受けたということにならなくなる。これが積み重なると留年になってしまうんだ。そりゃ、欠席の多いやつを取りたくなくなるだろ?」
「うわ…理不尽すぎる。」
「だから、内申点や欠席数が酷い場合は、倍率の高い人気校(偏差値高めの学校)に行くか、ペーパーテストで合格最低点ギリギリではなく、ある程度高い得点が取れるようにしないといけないんだ。」
「うわ…つらすぎるそれ。」
【3】
その日の夜、私は自宅に帰る前にスクールに立ち寄り、自習室を覗き込んだ。そこには、一緒に課題に取り組む、神田と大崎の姿があった。私は、2人に声をかけた。
「2人ともおつかれ。どう?課題終わった?」
「ああ。俺は終わったぞ。神田を待ってる間、明日の分を片付けてる。神田も、もうすぐ終わるだろ?」
大崎は私にそう言った。大崎がそう言い終わると同時に、神田がゆっくりと首を後ろに回して言った。
「い…いま…おわった…。」
ちょっと死にかけている。だが、確実に時間あたりの勉強量は増えているようだった。私は、神田に改めて声をかける。
「やるじゃないか!!で、どうだ?勉強することに慣れてきたか?」
「いや、日に日に辛くなるんだけど…。」
「そうか…。だが、安心してくれ。今こそ俺を信じてくれ。今こそ痛みに耐える時だ。痛みに耐えて耐えて耐えなく。そしたらそのうち、痛みに慣れます!」
「ちょっと待て!!!それ、何にも解決になってないだろ!!!!!」
北野との一件以来、私は神田と冗談を言い合えるくらい、関係が良好になっていた。それは、大崎にも言えることで、神田と大崎の人間関係も徐々に修復されつつあった。
みな、過ごし方は違うものの、それぞれがテストに向かって着々と準備を進めているようだった。
私も油断していられないな。
私は、事務室のデスクに向かい、教科書を開いた。
【4】
私が、デスクで教科書を読んでいると、授業を終えた桜が戻って来た。彼女は、いつも私がパソコンで作業している事を知っていた。そのため、私が教科書を読んでいる事が普段とは、違う行動であることに気づいたのであろう。彼女は、デスクを覗き込むようにして私に尋ねた。
「北沢先生、お疲れ様です。あの…何やってるんですか?社会の本なんか開いて?」
「テスト対策ですよ。とりあえず重要語句を暗記しておこうと思いまして。公民で中学生に負けるのは、やっぱり恥ずかしいですから。」
「大塚さんに負けたことが、ショックだったのですか?」
「まぁ…そんなところです。」
「でも、そんな丸暗記で勝てるんですか?良く言うじゃないですか、点の知識ではダメだって。」
「そうですね。点の知識ではなく、線の知識に、線の知識を面の知識に、なんてよく言いますね。つまり、一つ一つの語句を関連付けたり、時系列に並べたり、時には身近な例を考えたりしながら、覚える必要がありますね。でも、私には必要ありません。」
「何故ですか?」
「今までの勉強で、そう言った作業を沢山こなしてきたからです。語句を覚えれば、自分の頭で勝手に別の知識と紐付けされていきますから。」
「なるほど、そういう人たちが難関大学に合格するわけですね。」
「いいえ。そうではありません。そういう能力は、社会人なら大半の人が持ってると私は思います。というより、身に付けなければ、頭脳労働というものは、出来ないのだと思います。
そして、大半の大人たちはこのことに気づいていません。ですから、資格の勉強をするときも、自分が学生の頃やっていた方法で勉強してしまう。それは、時間がもったいないというのにね。
さて、私はそろそろ帰ります。水上さんも早く帰りましょうね。」
「はい。失礼します。」
そうして、あっという間に中間テストを迎えるのであった。
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