報告84 音痴を改善するための効果的な練習法
【1】
私は、音楽室に入ると、真っ先にリュックの中からノートパソコンやらマイクやらを取り出し机の上に置いた。その後、昨日作ったソフトを起動させた。上野は、その様子を見て若干引きながら私に言った。
「北沢…お前一体何やってるんだ?」
「ああ。ちゃんと飛田先生には、許可もらってるぞ!」
「そういうこと聞いてんじゃねぇーよ。これで何すんだよ!?」
私は、パソコンにマイクとヘッドホンの端子を差し込み、ヘッドホンを首にかけて言った。
「よし、これで準備完了だ。上野、そのマイクに向かってなんか喋ってみろよ。」
上野は、マイクに向かって声を出した。すると、その声に合わせて、音程がパソコンの画面に表示された。
その様子を見て上野は驚きながら言った。
「うわっ!!!何これ、音程が表示されてる。これってもしかして…。」
「ああ。カラオケによくある精密採点だ。昨日、自作した。」
「嘘だろ…。」
「俺が音痴なのは、よく分かった。だが、この精密採点に合わせて歌を歌い、音程を覚え込みさえすれば、マシにはなるんじゃないか?」
「…お前、もう何でもありだな。っていうか、カラオケに行けば問題ないのでは?」
「一応、学校帰りにカラオケに通いまくるのは、よろしくないのでな。」
「変に真面目だな!!!!」
その後、私はヘッドホンをセットし、とりあえず課題曲を歌ってみたのだが…。結果は散々だった。
「ご…50点だと…?そうかそうだよな、これ点数じゃないよな?偏差値だよな?」
「そんなわけないだろ!!平均点、おおむね80点だぞ!!!」
「これは…厳しい戦いになりそうだな。とにかく、合唱祭の本格的な練習が始までに、ある程度形にしなくては!!」
「おう…。北沢…頑張れよ…。」
【2】
それから、私の特訓は始まった。幸い、受験勉強は必要最低限でも構わない。私は、持てる時間のほとんどを合唱練習に充てることにした。放課後から最終下校時刻までの時間、どこかの場所を借りてひたすら歌い続けた。やはり文明の力の賜物である効果はすぐに現れた。
「うむ…コンスタントに60点くらいは、取れるようななったか。100点満点の模試であれば、点数が10点アップするごとに、偏差値はおおむね5アップすると言われている。これは、なかなかの成長なのでは?」
「そんなわけないでしょ!なに、模試と一緒にしてるの!?」
そうツッコミを入れたのは、水上だった。私は、水上に言った。いつから見ていたのだろうか…。
「いつから見てたんだ?」
「ついさっきよ。たまたま通り掛かったら、練習してるところ見つけてさ。」
「そうか…。だが、まだ時間はたっぷりある!もっと点数を上げられるんじゃないか?」
私がそう言うと水上は、首を横に振った。
「厳しいと思うよ。原因が音程を覚えられないこと以外にもあるから。…ねえ、私が教えてあげようか?」
「水上がか?確かに、自分だけで練習するより遥かにに効率良さそうだが…。いいのか?受験勉強もあるだろ?」
「何言ってんの?その代わり私に数学教えてよ!っていうか、上野にも、塚ちゃんにも、大崎にも、挙げ句の果てには神田の勉強も見てるって言うじゃない!!何で、私だけ見ないのよ!!」
水上は、ほっぺたを少し赤くしながらそう言った。
「そういえば…水上には、あんまり勉強を教えてなかったな。いいだろう!ギブアンドテイクだ!!」
「ところでさ、北沢?」
「ん?なんだ?」
「私、北沢のこと、何でも出来るスーパーマンだと思ってた。でも、もしかして、陰でそうやってずっと努力して来たの?」
「そうだな、努力してきたかもしれないな。だが…出来ないことが出来るようになった時の喜びは、計り知れない。だから、ちょっぴり嬉しいんだ、こうやって自分の苦手分野と向き合える事が。大人になったら、そんな機会滅多にやってこない…そう思うんだ。」
「北沢はすごいな…。私、応援する!!一緒に頑張ろ!!!」
「ああ。頼む!!」
私は、もう一度パソコンをセットして歌おうとした。すると水上がそれを止めながら言った。
「はい!ストップ!!さっきも言ったでしょ。それじゃ、これ以上上手くならないって!!」
「そうだ、その理由を聞きたかった。どうしてそう思うんだ?」
「音痴の原因ってね、二つあるの。一つは、音程がズレてしまうこと。これは、北沢が今やってる練習で!音程を覚え込めば何とか誤魔化せる。もう一つは、出せる音程の幅が狭い場合。今、あんたは高い音程が出せていないから、音程を覚えたところで、その音は出さないの。だから、音程を覚える特訓がだけじゃなくて、出せる音域を広げる練習もしないといけないの、わかった?」
なるほど、そう言うことか。特に高い音程が、出せないと言うのも納得がいく。私の声は、中学生になる前と対して変わっていない。おそらく、声帯は大人のままだ。であれば、変声期である中学生向きの合唱曲は、大人にとっては難易度の高いものになるのかもしれない。私は、水上の指摘に納得しながら言った。
「なるほど、そう言うことか。…で、それは練習で改善可能か?」
水上はピアノに座りながら、私に言った。
「改善可能かどうかは、その人次第だよ。とにかく、これからボイストレーニングをやろう。私がピアノ弾くから音に合わせて、声を出して。」
「そうか…。それなら、明日の放課後にアレ作っとくか。」
「アレ?何を作る気?」
私は、不敵な笑みを浮かべて言った。
「ドーピング!」
「真面目に努力するつもりないじゃん。私のさっきの言葉返してよ。」
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