報告83 生活習慣と高校入試
【1】
私は、学校を出るといつものように、スクールの事務室のパソコンで作業をしていた。しばらく作業していると、桜が私に話しかけて来た。
「北沢先生、お疲れ様です。何をやってるんですか?入試対策の教材はもう作り終えたんじゃ。」
「ええ。今日は別のものを作っています。」
桜は、パソコンの画面を覗き込んで不思議そうに言った。
「これは…プログラミング?」
「ちょっと、ソフトを作ってます。」
「先生、そんなことも出来るんですか!?」
「出身が工業高校なんですよ。そこで、プログラミングの基礎は粗方習いました。」
「てっきり、普通科の進学校出身だと思ってました。意外です。ところで、何を作ってるんですか?」
「新しい教材を開発しています。…自分用ですけどね。」
「え?なんて言いました。」
「いえ…何でもありません。それよりも、どうですか?大崎くんの学習状況は?」
「はい、基礎の復習は、何とか間に合いそうです。とりあえずは、入試問題も何とか取り組めそうです。」
「水上さん、前にも言いましたが、彼は欠席数がとんでもなく多くなっています。なので、合格最低点よりも点数を取らないと不合格になる可能性が非常に高い。理想は、各教科合格最低点よりも15点以上取れる事が理想です。」
「分かりました。そんなに欠席数って響くんですね。」
「ええ。残酷ですが、欠席数の多い生徒に対して、私立の高校は、不合格にしたがります。そのため、その子を合格最低点に設定してしまうんです。それを防ぐためには、合格ラインより離れた得点を取るしかありません。さてと…私も、そろそろ仕事して来ます。」
「授業ですか?」
「いえ、面談です。」
【2】
私が面談室で待機をして数分後、一人の生徒が面談室に入ってきた。
「え?北沢?」
「待っていたよ。神田くん。」
「どうしてお前が?」
「約束だ。これから、受験のサポートをするぞ。」
「確かにそんな約束してたけど。俺なんか、ロクな学校に行けないだろ?」
「確かに、成績もあんまり良くないしな。だが、だからといって受験が間に合わないかと言えばそうでもない。」
「いや、そもそも勉強出来ないし。」
「そうだ。そこだよ。高校受験で失敗する者のほとんどは、受験勉強が出来ない。だが、失敗の理由は割とそれだけだったりする。」
「どう言うことだよ?」
「逆に言うと、勉強さえすれば、何とかなってしまう。そして、勉強をするためには、生活習慣を変えてもらう。それだけだ。特別なことなんて出来なくていい。どうだ?聞く気になったか?」
「そんなこと、本当なのか?」
「そうだな、少し根拠を言っておこう。まず英語だ、都立は文法問題が出題されないが、私立だと出題される事が多いよな。これは、基本的な問題だからちょっと復習するだけで、3割くらいは点数が稼げる。数学は、計算問題が出来るだけでも、多いところでは5割近く得点が稼げる。国語は、学校によるが未だに慣用句や文法、熟語、文学史を出す学校は珍しくない。この部分の暗記量は、社会や理科に比べたら圧倒的に少ない。高校入試は、取り組むだけで確実に得点を稼げるんだ。」
「っていうか、何でそんなに詳しいんだよ。」
「(そりゃ、入試問題作ってましたから…なんて言えない。)とにかく、ここで大事なのは、勉強の習慣を身につける事だが…。」
「そうだよ!頑張れないから困ってるんだ。」
「安心しろ!ノルマが終わるまで、この教室に軟禁する。」
「え?嘘でしょ?」
「ちなみにサボろうとしても無駄だ。学校から直接ここに連れてくるだけだ。学校をズル休みする事も許さん。おうちの方から既に許可を頂いている。」
「え!!いつの間にそんな事したんだよ!!!」
「まずは、英文法と英単語の復習からだ。もちろん、君の精神が壊れないよう、ノルマが終わったら、ご褒美のお菓子も用意してあるし、ゲームの相手もしてやろう。」
「そんな…俺、過労死しちまうよ!!」
「大丈夫だ!!過労死した受験生など聞いた事がない!!」
「ひいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
神田にとっての地獄が始まった。
【3】
次の日、私はいつもより大きめのリュックを背負って登校した。その姿を見て、上野と大崎が近づいて来た。
「北沢、どうしたんだ?その荷物?」
上野が言った。
「ああ、これを持って来たんだ。」
私は、リュックのチャックを開けて2人に見せた。上野は中身が何か分からなかったようだが、大崎は何かわかった様子だった。
「これは…パソコンとマイクか?何でこんなものを持って来たんだよ?」
「特訓のためだよ。」
「え!?」
その日の放課後、そそくさと帰る準備をしていた神田に私は声をかけた。
「よぉ、神田!どうしたんだ?そんなに急いで?」
「いや…あのこれは…。」
「大崎!こいつをスクールに連れて行ってくれ。」
「了解!!」
「やめてー!!!!!」
神田は大崎に引っ張って、連れて行かれてしまった。だが、決していじめられているとかそんな雰囲気は、微塵も感じない。中学生同士の健全なやりとりだった。神田もああは言っていたが、構ってくれる相手ができて、満更でもない様子だった。さてと、私もやるべきことをやるとしよう。
私は、リュックに手をかけると上野が声をかけて来た。
「お前もこれから、スクールに行くのか?」
私は、答えた。
「朝行ったろ?特訓するんだ。」
「そういえば、そんなこと言ってたな。…で、何の特訓なんだ?」
「何なら見るか?」
「おお。」
私は、上野を音楽室に案内した。
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