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報告82 北沢の弱点について

【1】


 その日の学活でのこと、今後のクラスでの学活や総合的な学習の時間(2021年度より総合的な探究の時間)は、飛田が北野の代わりとなって進める手筈てはずだった。その予定通り、飛田が教室にやって来て言った。


「今日は、合唱祭のパート、伴奏者、指揮者、パートリーダーなどの係を決める時間にします。それでは、学級委員さん司会をお願いします。」


「わかりました。」


私は、黒板の前に立ち、チョークを持ち待機した。一方でもう一人の学級委員である田端は、教卓の前に立ち話を進め始めた。


「まず、伴奏者を決めましょう。伴奏者は、できる人が限られるからね。このクラスでピアノ弾けるのは…。」


「いいよ。私やる。」


手を挙げたのは水上だった。


「みんな、いいですね。それじゃ、水上さん。名前を書きに来て下さい。」


水上は、前に出ると、黒板に自分の名前を書いた。私は、ボソッと呟いた。


「ピアノ弾けたのか。知らなかった。」


「何!?バカにしてるの?」


「いや、そんなつもりはないが(;´д`)」


「そんなことより自分の心配しなさいよ。」


水上がそう言うと、クラスの生徒たちのボソボソ声が聞こえはじめた。


「うわ、あいつ言いやがったよ。誰も言わなかったのに…。」


私は、水上の言った意味が理解できなかった。もちろん、クラスの生徒がひそひそ話をしている理由も。しかし、飛田の方に目をやると、飛田は笑うのを堪えるかのように、お腹を押さえて震えていた。彼は、事情を知っているようだ。水上は、さらに話を続けた。


「北沢、あんたピアノ弾けないの?」


「ああ。音楽はどうも苦手でな…。」


「ねぇ、みんなの前で答えたくなければ答えなくていいけど、音楽のテスト何点だった?」


「ああ。この間は100点だ。」


「で?成績は。」


「3…だったな。もしかして、みんながヒソヒソしているのって…。」


「みんな、気を使って言って無かったけど、あんた歌下手すぎ!!」


みんな、私に気を使って笑うのを堪えていた。みな、目線が泳いでいる。それを尻目に、教室の後ろでは、飛田が声を出さずに腹を抱えて笑っている。


        あの野郎………。


「お前の言いたいことは、よくわかった!!ならば、俺が指揮者をしよう。それならば、歌う必要はない!どうだろう。」


私は、皆にそう提案した。周りも納得したような様子だった。


「ああ、それならなんとかなるかもなぁ。」


「さすが、北沢。合理的だな。」


そんな声が漏れていた。助かった。これなら迷惑がかからないだろう。私は、黒板の指揮者のところに自分の名前を書こうとした。その時だった。


「ちょっと待ってくれ!」


ある生徒が、そう言って立ち上がった。その生徒は、大崎だった。


「本当にすまないが、北沢、お前リズム感も壊滅的にないぞ!!」


「え?いや…どう言うことだ?」


「夏休みにゲーセンでゲームしたの覚えてるか?その時、一緒に音ゲー(音楽系ゲーム)やったよな?太鼓たたくやつ。」


「確かにやったが…。だが、あれはゲームだろう?」


「いや…。かんたんレベルですがが出来ないのは、どうかと思うぞ…。」


「俺…そんなにひどいのか…。」


私がそう言うと、クラス全員が、無言でうなづいた。確かに心当たりは、ないわけでは無かった。


 私は、かつての勤務校で合唱祭のプログラムに教員合唱も入れようと提案した事があった。その意見は、通ったのだが、私の部下からは、


「え!?先生がそれを言うんッスか!?」


と言われてしまった。それだけではない。職場の同僚や部下たちとカラオケに入った時もそうだ、私が歌っている時に、誰も合いの手を入れてくれなかった。いや、きっと入れられなかったのだろう。そうか、そう言うことだったのか。



【2】


 その日の放課後、上野が私に話しかけて来た。


「まあ、北沢。しょうがないさ、誰にでも欠点はある。やっぱり、ショックか?」


「…そりゃ、何も歌わずに立ってた方がマシって言われたらな。」


「でもさ、みんな今まで、お前を完璧超人だと思ってたからさ、なんか親近感湧いたわ。でも、今度は俺たちが北沢を助けるさ。」


「いや、このままじゃ気が済まない!なんとか克服してやる!!」


「そう言うと思ったよ。とりあえず、手伝える事があったら言ってくれ。それじゃ。」


上野はそう言って、帰って行った。私は、図書室で数冊の本を借りた後に、下駄箱に向かった。その途中で、飛田とすれ違った。私は、ちょうどいい機会だと思い、飛田に質問した。


「飛田先生、私はそんなに音痴なのですか?」


「…はい、残念ながら。終業式で校歌を歌っているときに、素人の私でも気付きました。」


「はぁ……。」



「というか、40年近く生きてきて気がつかなかったんですか!?」



「や!やめて下さい!!結構ショックだったんですから!!」



私は、あたふたしながら言った。どうやら、私の顔は赤面していたようで、その表情を見て飛田は意地悪そうに私に言った。


「北沢さん、いい年のオッサンが中学生の姿で、そんな顔して言わないでくださいよ〜。普通の可愛らしい中学生みたいじゃないですか〜。」




  「やめろ〜〜!!!言うな〜〜!!!!」





いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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