報告77 人間関係が引き起こす不毛な連鎖について
【1】
神田と話し終わり、自分の座席に戻ると上野が私に声をかけてきた。
「北沢!お前、何考えてるんだよ!!今まで神田に何をされたのか忘れたのか?」
「いいじゃないか。もう、やらないって約束してくれたし。」
「だからって、あんなやつほっとけば良いのに。」
「…なあ、上野。みんなを責めるつもりは、これっぽっちもない、神田自身にも悪いところは沢山ある。でもさ、あいつがあそこまでタチの悪い人間になってしまったのは、俺たちにも原因があるんじゃないか?もっとも、良い悪いは別だけどな。俺は、許すことにしたし、放置する事もしない。上野に英語を教えたときと同じようにな。」
「……北沢が良いって言うなら、良いけどよ。まったく、お前はすごいよ。」
【2】
その日の放課後、私は神田をスクールに案内した。彼は今まで、スクールの授業に参加したことは一度もなかった。それは、北野がこのスクールをさんざん否定していた事が1番の原因なのだろう。彼の授業が終わった後、私は神田に話しかけた。
「どうだった?はじめての補習授業は?」
神田は、疲れた顔で言った。
「いや、めちゃめちゃキツイ…。みんな、毎日こんな授業受けてるのかよ!」
「どうやら、集中力がなかなか持続しないようだな。今度、そのことについても説明する必要がありそうだな。ああ、そうだ。朝教えてくれたアイテムの話さ。やっと手に入れたよ。ありがとうな!」
神田は、少し呆れた顔で私に言った。
「学校出てすぐにゲームかよ。優等生ってそう言うのしないと思ってたけど、そんな事ないんだな。」
本当は、大崎に話を合わせるために始めたスマホゲームなのだが、まあいいだろう。私は、彼に続けて言った。
「みんな、同じ人間だからな。みんな大して変わらないさ。だから、今、勉強で悩んでたってそんな差は、あっという間に埋まるさ。(中学校ならなおさらな。)」
神田は、私の言葉を聞いて、少し俯きながら言った。
「みんな同じ…あいつらも…。」
神田はそう呟くと、勢いよく外に飛び出していった。
「あいつどうしたの?」
水上が、私の後ろからヒョコっと顔を出して、私に言った。
「さあな。何考えてんだろうな?今から帰るのか?」
「うん…そうなんだけどさ。」
水上は、そのままこちらを見ている。その目線は、まるで、某ゲームで有名な「仲間になりたそうにこちらを見ている」のそれだった。今日は、特に業務も残っていないしいいだろう。私は、水上に言った。
「じゃ、一緒に帰るか?」
私が言った瞬間、彼女の顔が明るくなった…いや、もう光とか出てるんじゃないだろうか?
【3】
暗い夜道の中、私と水上はいつもの通学路を通って一緒に家に帰っていた。私は、何となく水上の顔色を伺った。はじめて会った時は、仏頂面で言い方のきつい子だったが、一緒に過ごしてその印象は、かなり変わっていた。それは、私自身の感じ方だけの問題ではなく、実際彼女自身も変わったのだと思う。ちょっと可愛らしいと不覚にも思ってしまうことがあるくらいだ。私が、そんな失礼な考え事をしていると、水上が私に向かって言った。
「ねえ、北沢?今日は神田と仲良くしてたみたいだけど、何を企んでるの?」
「水上も気にしてたのか?…水上は、あいつの事をどう思ってるんだ?」
「私は嫌いだよ。」
「うわ。また、ずいぶんとはっきり言うじゃん。」
「私ね。北沢が来る前は、部活で一番強かったんだけど、一年生の時は、一番じゃなかったんだよ。」
「……大崎か?」
「うん。大崎、すごく強かった。あいつに絶対勝ちたい!そう思って練習頑張った。…でも、ある日、大崎が学校に来なくなった。神田が、大崎に嫌がらせをしてたのは、私も知ってた。でも、北野先生にそれを言っても何もしてくれなかった!!それに今度は…。」
水上は、心配そうな顔で私に向かって言った。
「北沢!あんたは、本当にこのままでいいの!?神田に、大崎と同じ目に遭わされて!どうして許せるの!?私は…わたしは、許せないよ…。いやだよ…。」
水上は、そのまま俯いてしまった。私は、足を止めて彼女に言った。
「みんな、散々あいつに振り回されたんだな。」
私がそう言うと、水上は、何も言わずに頷いた。私は続けて言った。
「ただ、ここで仕返しでもしたら。みんなで神田のことを無視したら、邪魔者扱いしたら。いつまでも、状況は変わらないだろうな。もちろん、それを責めれるほど、俺も人間できちゃいない。でも、ここでその不毛な連鎖は止められる。そして、決着をつけてみせる。」
「何でそこまでするの?」
「俺の性格…わかってるだろ?」
「もう…本当にお節介なやつだよ。北沢は。」
水上は、顔を上げ微かに微笑んだ。その直後だった。水上が近くの公園に向かって指をさして言った。
「北沢!あれって。」
その先には、神田の姿があった。彼は、慌てて様子で、公園の中に入っていった。確かこの時間帯は、大崎が………。
……まさか!!!
「水上!!神田を追うぞ!!」
私は、水上を連れて、神田を追いかけた。
……いやな予感がする。
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