報告76 いじめの原因についての考察
【1】
「……私と手を組みませんか?」
私の言葉に神田は、ただ唖然としていた。自分で言っておきながら、彼が呆然とするのも仕方がない事だ。今まで自身の敵だと思っていた人物が、ましてや物取りが完全にバレてしまった彼は、いよいよ反撃を喰らうことになると覚悟していたに違いない。本来持ちかけられる話ではないのだ。神田は、当たり前のように私の真意を確かめるべく質問する。
「お前…。一体何考えてるんだよ!?」
私は、しれっとした態度で神田に言った。
「私の目的、何となくわかってるんじゃないですか?」
「……北野先生をクラスから追い出すつもりだろ。」
「察しがいいじゃないですか。君が私に協力してくれれば、これ以上に目的達成に近づくのでね。」
「協力するわけないだろ!!」
神田は、当然のように言った。それに対して私は、無感情で彼に一言…
「なぜ?」
一瞬その場が凍りついた。神田は、必死に何を言おうか考えているようだった。しばらくして彼は口を開く。
「なぜかって…。お前たちのやってる事が悪いことだからだ。」
神田がいい終わった瞬間、私はその答えに即答した。
「嘘だね。」
私のその言葉に、神田は少しあわてながら返した。
「嘘なわけないだろ!!実際、人を困らせているのはそっちだ!!」
「私の行為の善悪の話じゃない。君が協力しない理由は別にあるのだろう?自分の気持ちに正直になってないな。」
「お前に何がわかるんだよ!!」
「分かりますよ。自分の気持ちに嘘をついてるか、そうでないかくらい。見抜けないとでも、思ってるのですか?なんなら、あなたが協力しない本当の理由を言い当てましょうか?」
「…!?」
神田は、私の言葉に押されて引き気味になっている。私は、さらにたたみかけるように言った。
「君は小学生の頃に、クラスメイトと人間関係が上手くいかなかった時期がありましたね。何があったのかは大体想像がつきます。当時は、攻撃されても自己防衛する手段が無かった。守ってくれる友人が居なかったんでしょう?それでも、中学校に進学して人間関係が変わればきっと大丈夫。そう思って我慢した。でも、状況はあまり変わらなかった。
そんな時、都合のいい道具を見つけた。北野先生です。君は、北野先生に気に入られ、何かあれば庇ってくれるようになった。気に入らない人間がいれば、自分に代わって先生が攻撃してくれる。最強の武器と防具を手に入れたような物です。実際、それにかまけて調子に乗ってしまった事もあったのでしょう。
もし、今、北野先生が居なくなったら、自分を守ってくれる人は誰一人いなくなる。そんなことになったら破滅する。そんなことになったら…」
「もうやめろ!!それ以上言うな!!!分かってるよ!あの人が時々メチャクチャな事を言う事を、せいとを一人不登校に追い込んだ事も!!!でも、悪いのは、お前ら全員だ!!!俺は自分を守るためにやったんだ!!!」
「だから、今度は私が君を守ってやる!!」
「……は?」
「いや、守るは正確ではないな。私が、今の君を救ってあげよう!君が私に協力してくれるのであればね。」
「……そんなこと、出来るのかよ。」
「簡単だよ。…ついでに、君の成績もなんとかしてあげよう。もちろん、これはオマケだが。」
「……………。」
「このまま、北野先生虎の威を借りつづければ、自分を守ることができるでしょう。しかし、あくまで守ってもらうだけです。あなたを取り巻く状況は全く変わりません。いや、悪化します。そんな人間関係など仮初めです。私なら、環境そのものを変えられます、もちろん君自身も変わろうと思えば変わります。
さあ、答えて下さい。私に協力していろんなものを変えるのか!それともこのまま何も変わらず、北野先生に守ってもらうだけなのか!」
「…………。」
「どうしました?どちらを選んでもいいのですよ?さあ、答えなさい。」
「…………あ……。」
「答えろ!!!!」
「わかった!!わかったよ!!協力するよ!!!」
「そうか…。じゃ、臨戦態勢になるのもここまでだな。さっきは急かしたけど、最初のうちは、邪魔さえしなければ何でもいい。それよりも…。」
私は、資料棚からファイルを取り出し、その中身を見ながら神田に言った。
「お前、そろそろ受験勉強、進めないとやばいぞ。」
神田は、少し元気を取り戻しながら言った。
「うるさいな。お前も親みたいなこと言うなよ!」
「親みたいか…違いない。とにかくだ、協力する見返りとして、君の勉強も見てあげよう。」
私が、自信満々にそう言うと、神田はボソッと言った。
「それは、〝みかえり〟ではなくて、〝しかえし〟なのでは…?」
【2】
次の日、クラスの生徒たちは、いつもと違う光景を見てざわついていた。
「なるほど、このアイテムは、今探索してるダンジョンでは手に入らないんだな。何時間やっても出ないわけだ。」
「北沢もゲームやるんだな。勉強しかしてないと思ってたけど。」
私が話していた相手は神田だった。私は、その日から彼と親しく話すことに決めた。周囲は、物珍しい目で私たちを見ている。しばらくすると、神田は私にこっそりと質問した。
「俺なんかと話してて本当にいいのか?」
私は、答えた。
「これが、1番の解決法だからな。」
「どういうことだよ?」
「そうだな…。じゃあ、一つ質問をしよう。いじめの原因ってなんだと思う?」
「そんなの加害者に決まってるだろ!?まさか、被害者が悪いとか言うんじゃないよな!?」
「善悪と原因は、別の話だ。いじめってやつはな、人間関係の歪みから起きるんだ。確かにいじめの直接的な原因は沢山あるだろうな。でもそれは、人間関係から引き起こされるものなんだ。だから、クラス内の人間関係の構造が変化してしまうと、あっさり消失してしまう場合があるんだ。だから、今日からは君の人間関係を少し変える。それだけのことだ。」
「なんか…難しい。…ところで、協力って何をすればいいの?」
「自由だ。何か手伝えそうと思ったことがあったら、それに協力する。それだけだよ。」
私は、不敵な笑みを浮かべながら彼にそう言った。
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