報告75 物取りに対する対抗策
【1】
私のロッカーから教科書が抜き取られていたが、スペアの教科書があったため、特に北野から何も言われることもなく、その日の授業は終わった。授業が終わると神田が私のところに駆け寄り言った。
「北沢、お前その教科書は誰かに借りたのか!?」
「そんなわけないでしょう。自分のものですよ。」
「嘘つけよ!!だってお前の教科書は…。」
神田は、そこまで言いかけて黙った。私は、持っていた教科書を裏返し、自分の名前が書かれている事を見せつけた上で言った。
「で、なぜ私の教科書が無いはずだと思ったのですか?」
「……………。」
「まあ、いいでしょう。心当たりがあるようなら、教えて欲しかったですが、残念ですね。」
私は、そう言い残しロッカーの教材を全てリュックに詰めて、学校を後にした。
次の日は、上履きが無くなっていた。また、ずいぶんと分かりやすい事をしてくれたもんだ。もっとも何をしようと関係ない。私は、リュックからスペアの上履きを取り出し、教室に向かった。教室に入ると、神田がこちらを見て慌てて近寄って来た。
「………………。」
神田は何か言いたげだったが、何も言わなかった。いや、言えなかった。私は、彼に言った。
「どうしましたか?もう満足しましたか?あ〜そうそう、言い忘れていました。今日持って来たはずの筆箱が無いのです。もっともスペアがあるので関係ありませんがね。それにしても困りましたね〜。あなたの体操着袋に入っている、筆箱をどうやって処分しましょうかね〜。誰かに見られでもしたら大変ですね〜。でも仕方ないですよね。
自分でやった事なんだから。」
神田は、何も言わずに席に戻っていった。その姿を見守った直後、水上が私に声をかけてきた。
「北沢!あいつを放っておいていいの!?あいつ北沢のものを勝手に取って隠してるよ。前にもあったんだよ。気に入らない人の物を隠して、北野先生に忘れ物をしている人がいるって告げ口して、怒られるっていうのが。」
「そうか…。やっぱりそうなってたのか。今は、まだいいさ、放っておけば。ちゃんと手は、打ってあるから。」
「そうなの…?」
【2】
次の授業は、体育だった。今日は、バスケットボールの日だ。数人でチームを作りハーフコートで何試合かしたのだが、周囲の様子がいつもと違うようだった。いつも以上に、周囲が私を避けているようである。試合の合間の休憩時間中に、上野が私に言った。
「北沢…。大丈夫か?」
私は、上野にこう答えた。
「特にいつもと変わらんよ。どうしたんだ?」
上野は一度、周囲を確認した後、こっそり私に耳打ちした。
「みんなお前の事を避けてるんだよ。神田に目を付けられると面倒だから…。」
「だろうな。すぐ北野先生が出てくるもんな。だが、それも今日までにしたいものだな。」
「そんなの無理だろ。」
「…上野。一つ頼めるか?」
「なんだよ。」
今度は私が上野に耳打ちをした。彼は、私の要望を聞いて言った。
「俺は、いいけど…。本人が拒否するんじゃないか?」
「それは、交渉次第さ。」
体育の授業が終わり、皆が教室で着替えている時間、神田は一人慌てていた。周囲の男子もある異変に戸惑っていた。どういうわけか、神田の体育着袋の中から、けたたましい音が響いている。神田が慌てて、袋からある物を取り出した。それは、筆箱だった。その筆箱の中から、防犯ブザーの音が聞こえてくる。神田は、あわててその防犯ブザーを止めようとしたが、何をやってもブザーが止まらない。私は神田に近づき、その筆箱と防犯ブザーを手に取り、専用の道具でそのブザーを止めた。教室は一気に静まり返るとともに、周囲の男子達の目線は、神田と私に集まり一気に冷めていった。その様子を確認しながら、私は周囲に聞こえるように神田に言った。
「この防犯ブザーは、この間自作したやつで、止めるには、専用の鍵が必要なんだよな。筆箱に入れておいたんだけど、どうして君がこれを持っているのかな?」
「…………。」
神田は、黙ってしまった。そんな彼に私はボソッと言った。
「放課後、少し話そうぜ?この事を先生に言ったって無駄だぞ。なんせ、全員がこの教室で、この事を見てるんだからな。ましてや、自作とはいえ、防犯ブザーを持ってきては、いけないなんて事もないだろうしな。」
【3】
その日の放課後、私は、神田をスクールの事務室に連れて行った。事務室の壁際には、いつも私が作業をするPCデスクが置かれており、その反対側には、足の低いテーブルとそれを挟むように、2台のソファーが置かれている。私は、彼をソファーに座らせると、コーヒーを2つテーブルに置き、反対側のソファーに座った。その様子を見て、神田は私に対する敵意と猜疑心を抱きながら、コーヒーを指さして言った。
「なんだよこれ?」
「コーヒーいらないのですか?私は飲みながら話すつもりですが。」
神田は、ますます首を傾げ、私に言った。
「お前、何がしたいんだよ!?俺を潰すんじゃないのか!!?」
彼は、強がっては見せているものの、私に対する不気味さと恐怖でいっぱいだった。それは、彼の小刻みに震えている指先を見れば明らかだ。私は、コーヒーをゆっくり口につけ一口飲んだ後、そのコーヒーをテーブルに静かに置いてから彼に言った。
「潰すか…。全くそのつもりはありませんよ。むしろその逆です。」
「逆?」
私は、両手を顔の前で組みながら言った。
「……私と手を組みませんか?」
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