表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/135

報告74 神田の問題行動について

【1】


 弟から録音機を受け取った私は、飛田に電話をかけた。私が学校から姿を突然消したからか、すぐに電話に出た。


「もしもし、北沢です。そちらの様子はどうですか?」


「北沢さん、うまく逃げ出せたようですね。上野くんたちが慌てて学校を出ていったのも、あなたの指示ですか?」


「ええ。そんな所です。長時間、説教されても不毛ですからね。」


「はじめから逃げてしまえば良かったのでは?」


「いえ、どうしても証拠が欲しかったんです。」


「証拠ですか?」


「面談室には、事前に録音機を仕込ませてもらいました。北野が私に行った指導の全てを記録してあります。彼女が私に話した内容はもちろんですが、面談室の鍵をかける音もバッチリとれています。」


「なるほど、鍵をかけるのは…アウトでしょうね。」


「この件は、弟の方から正式に報告させてもらいます。資料作りの足しにして下さい。それと、聞いておきたいことがあります。」


「なんでしょうか?」


「北野は、今何をしてますか?」


「ああ。彼女は今、教室の掲示物を元の配置に戻しています。完全に芽を摘んだと思っているのでしょう。」


「想定通りですね。飛田先生、先生に渡したノートにも書きましたが、明日は遅刻します。」


「ええ、こちらでしっかり監視しておきます。」


「ありがとうございます。それでは、失礼します。」



 通話を終え、私はスマートフォンを机の上に静かに置き、作業を進めようとした時、事務所の扉が開く音が聞こえた。扉の方を見るとそこには、扉の陰から半分だけ体を出した水上の姿があった。


「今日は助かった。どうした?」


私は、彼女に声をかけた。


「北沢の声が聞こえたから。明日遅刻するの?」


「ああ、ちょっと用事があってな。」


「ふーん。それで、これからどうするの?というかそもそも、何がしたいの?」


「全員が安心して過ごせるクラスにする…かな。」


「どゆこと?」


水上は首を傾げたが、私は本当のことを彼女に話す気は、毛頭なかった。私の目指す最後のゴールは、クラスを乗っ取り北野を機能不全にさせる事にある。そして、その先には…。だが、水上から見れば、中学生が担任にしつこくイタズラをしているようにしか映っていないが、大人同士の汚い戦いのようなものだ。そこに中学生を巻き込む事は、あまりにも不健全である。私は、立ち上がり水上に言った。


「さてと、そろそろ行くわ。やらなきゃいけない事があるんでな。」


私は、そう言ってスクールを後にした。去り際に見た水上の立ち姿は、どこか寂しく思えた。



【2】


 次の日の朝、私は今年度はじめて学校を遅刻した。もっとも、私一人が居ないだけで、クラスの生徒たちにとっては、いつも通りの日常だ。


        …そのはずだった。


 北野は、教室の様子を見て凍りつきながらつぶやいた。


        「どうして…。」


 北野が昨日の放課後に直したはずの掲示物が、また元の位置に戻っている。そして、連絡用の黒板にはまたしても連絡事項が書き込まれていた。


「誰がやったの!?」


北野がそう言っても、誰も名乗りを上げる事は無かった。それもそのはずである。この教室に誰もが、犯人ではないのだから。



 その日の昼休み、私は用事を済ませ、職員室で北野に挨拶をした。


「遅くなりました。5時間目から授業に参加します。」


北野は疑いの目をしながら私の方を見て言った。


「なんで昨日は、勝手に帰った?」


「すみません。具合が悪くなってトイレにこもってました。置き手紙でも置いておけばよかったですね。失礼しました。」


「その件は、放課後に話す。それよりも、昨日あれだけ言ったのに、またやったの?」


「何のことですか?」


北野は、周囲の状況などお構いなしの怒号で叫んだ。


「とぼけるんじゃない!!また、掲示物にイタズラしたろ!!!」


「……覚えがないのですが、そもそもそんな事出来る時間あるわけないじゃないですか。」


「……もういい!!戻りなさい。」


「失礼します。」


私は、職員室を後にし、教室へと足を運んだ。


 私は、教室に入り、次の授業の準備を始めた。リュックからノートを取り出し、ロッカーを開いた。その時に気がついた。英語の教科書が無くなっている。私は、そのまま自分の座席に戻り神田の方を見ると、彼は、悪意に満ちた顔で私を眺めていた。おそらく、私のロッカーから教科書を勝手に抜いたのだろう。これで確信した。大崎が追い詰められた原因は、北野の行動だけでなく、神田の問題行動も大きな要因だったようだ。ようやく、神田の問題行動が露呈したわけだ。


 もっとも、そんな事しようが、私には関係ないのだがな。私は、リュックの中から英語の教科書を静かに取り出した。神田はその様子を見て驚きを隠せない様子だった。

いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ