報告71 大人の精神構造
【1】
私が悪巧みを始めて1週間が経った。初めは、貼り替えた掲示物は、毎回元に戻されていたが、最近は諦めたのか戻さなくなっていた。
昼休み、私はいつも本を読んでいるか、昼寝をする事が多かった。しかし、ここ最近は、学校の中をうろつくか他の生徒と世間話をして過ごしていた。世間話といっても、中学3年生のこの時期だ。受験勉強の方法やら、普段の過ごし方やらをよく聞かれるようになっていたのだ。私は、いつものように話をしていると、水上が私に聞いてきた。
「ねえ、北沢。勉強の話とは、全然違うんだけどさ。なんで、掲示物を貼り替えたり、黒板に連絡事項勝手に書いたりしてるの?」
「それは、俺も気になってたんだよ。一体何を企んでるんだよ?」
話を盗み聞きしていた上野も加勢した。
「今に見てれば分かるさ。それより、この間は本当に助かった。手伝ってくれてありがとうな。」
私は、話をはぐらかした。
「でも、不思議なんだよね、北野先生のやってること。本気でなんとかしたいとか思ってるなら、学年集会開くとか、生活指導の先生に話をしてもらうとか、色々できると思うんだけどね。」
そう言ったのは大塚だった。私たちの会話を聞いて、彼女も混ざって来たのだ。それにしても、鋭い分析だ。確かに、問題だと思えば、学年集会を開くなりなんなりすれば良いだろう。…だが、決してそうはならない。私は、確信していた。彼女は、プライドが高く、他人から意見される事を嫌う。自分のクラス(王国)に口出しをされたくないのである。だから、絶対に学年単位で動く事はない。私は、自信を持って3人に言った。
「絶対にそれはないよ。」
「北沢くん?なんで、そう言い切れるの?」
「それが、タチの悪い大人のサガってやつだからな。」
「……あんた一体いくつよ?」
水上が私にボソッとツッコミを入れた。
【2】
その日の放課後、私はある生徒に声をかけられていた。
「北沢くん。ちょっと話したいんだけどいいかな?」
「なんだ?いきなり?」
「場所を変えないか?誰にも聞かれたくない。」
そう私に話を持ちかけたのは、神田という同じクラスの生徒だった。私は、彼が指定する場所へ向かった。
神田が呼び出した場所は、学校から少し離れた公園だった。そこは普段から人気がない場所だった。神田は、公園に着くと開口一番に言い放った。
「なんで呼んだかわかってるよな。」
私は、とぼけながら言った。
「そうだな…。この公園って、人があんまり通らないから、告白スポットになってるよな。…まさかお前!!悪いがそっちの気は無いぞ!」
「違うわ!!お前が今やってることについてだよ!!」
とぼけてもダメだったか…。
「今やってる学級委員の仕事についてか?」
「あれが学級委員の仕事?笑わせんなよ。北野先生が困ってるじゃないか。止めるべきじゃないのか。」
神田は、私にそう言った。彼の行動は、間違って居るかというと、そう言う訳でもない。彼にとっての規範が北野である以上、今の彼の行動は、正しく勇敢な行為であるとも言える。もしかすると、一番可哀想なのは、彼なのかもしれない。私は、もう少し彼と話をしてみることにした。
「意地悪な事を言うかも知れないが、北野先生の言うこと全てが正しいのか?自分で物事の善悪を考えた事はないのか?」
私は、かなり意地悪な事を言ってしまった。それでも彼は怯まなかった。
「そんなものは、屁理屈だ。俺たちは生徒だ。先生の言う事を聞くのは当たり前のことじゃないか!」
ほう…。思春期の男子とは、思えない発言だな。もしかすると、この子も何かしらの課題を抱えて居るのかも知れない。私は、そう勘ぐった。
「北沢。お前、やめない気か?」
「そうだな…考えておこう。ああ、それとこの件を北野先生に伝えても俺は構わんぞ。」
「そうか…。お前も排除しないといけないな。」
神田は、ボソッとそう言った。私は、その言葉を聞いて質問した。
「今、お前〝も〟って言ったな?もしかして、大崎くんのことか?」
「さて、どうだかな!?」
今まで、正義の皮を被っていた神田の顔が剥がれ落ちた。それは、悪意に満ちたそれだった。その瞬間、私もクラスメイトとして接する事を辞めた。
「まあいいでしょう。あなたと話が出来て私も満足です。一つだけ、言っておきます。他人を大切に出来ない者は、いつか自分の行いに裏切られる時が来る。その事を覚えておくといい。私は、そう言う人間を何人も見てきた。もう見たくはないものですね。それでは、この辺で。」
そう言って私はその場から立ち去った。北野との争いが激化したのは、その次の日からだった。
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