報告68 配布物の無断廃棄についての報告
【1】
学校を出た私は、久々に弟を食事に誘った。私は、その際に、大崎のことや今後私が行おうとしている事についてを弟に話した。「クラスを乗っ取る」とは言ったものの、それは前代未聞の荒技である事は言うまでも無い。その時の私は、誰かに相談したいと考えていたのだ。
「指導力不足等教員ねぇ…。そっか、飛田先生は、ずっと前から北野を止めるために準備していたんだね。でもさ、それって保護者が教育委員会とかにクレーム入れちゃえば一発じゃ無いの?現に暴言もたくさんあったでしょ?」
弟は言った。確かに飛田のやっている事は回りくどく感じてしまうのは無理もない。私は、飛田がその選択を取った理由を説明した。
「確かに、教育委員会が問題視すれば、懲戒もあるだろうな。ただ、未だにそれで免職されるケースは、少ないのが現状だ。いいとこ他の学校に飛ばされておしまいだ。飛田は、そうしたく無いんだろう。」
「なるほどね。それでさ、クラスを乗っ取るって何をするつもりなの?もしかして学級崩壊させるとか?」
「確かに学級崩壊させるのが一番簡単なんだがな。それをやってしまうと、一番不幸になるのは生徒だ。それでは、本末転倒だろう。そこでだ…。彼女には、自滅してもらおう。」
「自滅?それはどう言う事だい?」
「北野には、もう一度問題を起こして自滅してもらう。次の問題が起こった時には、永にも立ち会ってもらう。」
「でも、どうやって自滅させるんだい?」
「ヤツが問題を起こすときは決まって生徒が自立した状態になってるときなんだ。
「自立した状態?」
「そう。彼女が一番恐れていることは、生徒たちが担任を必要としないくらい自立してしまうこと。ヤツにとって、クラスは王国で自分は王女様だ。だから、自分のコントロール出来ない範疇になると決まって弾圧してくる。問題を起こす勘違い教師の典型的なパターンだな。このタイプは、まともに意見交換が出来ないし、他人から評価されることも極端に嫌うな。」
「なるほどね。だから、兄さんのノートを見たときに激怒したし、体育祭で作戦を考えてみんなで実行したことも許せなかったわけね。いるよね、プライドだけ高くて、自分の専門分野(領域)に口出しされると怒る人。そう言う人に限って専門性低いし。」
「ま、そう言うことだ。とにかくだ、ヤツが自滅するためには、担任が居なくても生徒だけで、クラスが運営できるようにしてしまえば良いわけだ。」
「兄さんよく言ってたよね。それが理想形だって。でも、中学生でそんなことできるの?」
「そう見せることは可能だ。そのためには、お前の協力も必要だがな。」
「……え!?」
【2】
その次の日の朝、私はいつものように教室で、朝の会が始まるのを待っていた。ただし、いつもよりも明らかに早い時間に登校していた。それは、ある仕込みをしていたからだ。クラスの生徒たちは、その仕込みに真っ先に気付いていた。
「北沢おはよう。」
教室に入ってきた上野が私に挨拶をしてきた。彼は、私に軽く挨拶をした後、自分の机にリュックを置こうとしたときに異変に気がつき、私に質問してきた。
「なぁ、どうなってるんだ?いつも朝の会で配られるプリントが机の上に置いてあるんだけど?」
私は、とぼけながら言った。
「さて、何だろうな一体?先生の気まぐれじゃないか?」
しばらくすると、朝の会が始まった。教壇の上に立った北野は、生徒の机の上に置いてあったプリントを見て驚いていた。
「そのプリントは…どうしてここにあるの!?」
生徒たちは、首を傾げている。机の上に配布されていた配布物は、昨日、北野が配布しなかったプリントだ。私が前日に回収し、クラスの生徒が来る前に配ったのである。
職員室の前には、配布棚というものがあり、配布物を置いておく棚がある。担任によっては、配布棚から配布物を持ち出す仕事を生徒に任せる者もいるだろう。だが、北野の場合は生徒に任せず、自分で管理していた。それだけではなく、彼女は、配布棚の中から、不必要と判断した配布物を勝手に廃棄していた。どういう心理で、そんな事をするのかは全くわからないが、実際にそういう事をする教員は、一定数いるらしい。私も何人かお目にかかった事がある。
私は、その廃棄された配布物を事前に回収しておいたに過ぎない。北野は、朝の会で私たちに配布物の出所を尋ねたが誰も返事をせず、不機嫌そうに教室を出て行った。
その日の、昼休みに私は飛田に呼び出された。
「今日、北野の廃棄したプリントを配布したのは、あなたですか?」
飛田はそう私に尋ねた。私は、飛田に答えた。
「ええ。前から、プリントの廃棄には、気づいていましたからね。修学旅行の荷物の積み込みの件もありましたしね。」
「いやー。今日は彼女機嫌が悪くてね。そのプリントの件、私がやったと思い込まれて、大変でしたよ。」
「それは、失礼しました。」
「まぁ、この件は私がやった事にしておきましょう。その方が北沢さんが動きやすいでしょうから。それで、これからは何をやるつもりですか?」
「彼女の担任業務を一つずつ奪いにかかります。彼女が自滅するまでね。」
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