報告65 全員リレーの裏技
【1】
午後の競技も順調に進み、最後のプログラムである全員リレーが始まろうとしていた。最後の競技ということだけあって、稼げるポイントも比較的高く、どのチームもこのリレーで一位になることに執着していた。とは言っても、私たちのチームは采配が上手くいったため、リレーの結果次第では、一位でなくても優勝できるところまで来ていた。にも関わらず、クラスのメンバーは心配そうな面持ちだった。リレーに関しては、本当に自信が無いようだ。確かに、体育の授業で練習していた時も私たちのクラスは常に最下位だった。自信が無いのも無理は無いかもしれない。しかし、私はその状況を何とか出来るかもしれない秘策を用意していた。
第一走者がスタートラインに並ぶ。本来ならば、第一走者は足の速いものに任せるのだが、私たちのチームの第一走者は、足の速く無い選手にしたのだが、これには事情があった。それは、私たちのクラスで一番足の速い選手は、他クラスの最速の生徒に足の速さで劣っていたためである。第一走者を足の速い選手にする理由は簡単で、内側のレーンを確保することで、バトンパスが有利になるからである。しかし、確実に勝てないのであれば、開き直って最初に差を付けさせて、後から追いついた方がバトンパスもしやすいと考えたのだ。もちろん、秘策はこれだけでは無い。
「位置について…よーい…」
パーンッ!!!
いよいよ、全員リレーがスタートした。当然のように私たちのクラスは、大きく遅れをとった。その様子を見て、水上は私に言った。
「ねえ、ずいぶん差がついちゃったじゃん!!」
私は水上に言った。
「差が付いていいんだ。差がつきすぎたおかげで、一番内側のレーンでバトンパス出来るだろ?それに、あの作戦水上も納得してたじゃ無いか。大丈夫さ。」
私が話している間にも、第二、第三走者と次々にバトンが渡る。そしてようやく、他クラスの生徒が私たちのチームの違和感に気づき始めた。
「ちょっと待て!!あいつら、バトンパスゾーンギリギリでバトンパスしてるぞ!!」
私が提案した作戦は、主に2つだ。まず、リレーの順番を足の遅い者と早い者を交互にする。そして、足の早いものは、バトンパスゾーン手前ギリギリでバトンを受け取り、足の遅いものは、バトンパスゾーン奥ギリギリでバトンを受け取るのだ。
リレーには、バトンパスゾーンと呼ばれるバトンを受け渡すためのゾーンが設定されている。今回のリレーでは、その長さは20mだ。これを逆手に取り、足の遅い者が走る距離を短く、足の早い者が走る距離を長く出来る。ちょっと考えれば気づきそうな作戦だが…。
意外と気付かないもんなんだよな。
当然のように私たちのチームは、徐々に距離を詰めていった。この先はどうなるか、わからない。だが、この後から追いつく作戦にはもう一つのメリットがある。私は水上に話しかけた。
「なぁ、水上。先頭で2つのチームがずっと争ってるよな。応援も過熱してる。こういう時、どんな事が起こると思う?」
「え?いきなりどうしたの?」
「いや、そろそろ起こる頃だなと思ってさ。」
私がそう言った途端だった。他のクラスの生徒たちがざわめき始めた。先頭を走っていた選手が転倒したのだ。一方で2番目のチームもバトンパスに失敗しバトンを落としてしまっている。
「今だ!!行けーーっ!!!」
私たちのクラスは、一気に盛り上がった。そして、間も無くして私たちのクラスが先頭に躍り出てしまった。水上は、私の言ったことに疑問に思ったのか、質問してきた。
「北沢…これを狙ってたの?」
私は当然のように答えた。
「もちろんだ。アスリートがリレーをしてもバトンパスのミスや転倒は、実際に起こるんだ。しかも、本当のリレーは4人で行うものに対して、学校の全員リレーは、走者が30人弱もいる。事故が起こらない方が珍しい。今回は、後から追い上げる作戦だっただろ?あれって走者にプレッシャーがかかりにくいんだ。それに、俺たちのチームは、走る距離を調整するために、わざと助走を付けずにバトンパスをしているだろ?これで、バトンパスのミスを防ぐ事が出来る。プロみたいなバトンパスの技術も無いのに、みんな焦ってプロのバトンパスを真似ようとする。ミスするに決まってると思わないか?だったら、俺たちは無理せずミスを待てばいいだけだ。」
水上は、あきれ顔で私に言った。
「あんた、やっぱりゲスだわ…。」
私の目論見は上手くいき、リレーでは2位になり無事総合優勝を果たす事が出来た。最後の走者がゴールしたときは、それはもう大騒ぎだ。クラスのメンバーは皆、大声を上げて喜んだ。ただ一人を除いては…。
【2】
閉会式と会場の片付けを終えた私たちは、教室に戻り北野から解散の指示を待っていた。クラスメイト達は、担任が優勝という結果に対してどんな言葉をかけてくれるか、期待しながら待っていた。しかし、事実は、彼らの期待とは全く違った。北野は、教卓の前に立ち、説教を始めたのだ。
「最後の全員リレーは、とても最低でした!恥ずかしく無いんですか!?それに、相手の転倒やミスのおかげで勝った事がそんなに嬉しい?人間として最低ね!!!」
優勝に心を躍らせていたクラスの空気は一瞬で凍りついた。何名かの生徒は北野のことを睨んでいる。それもそうだろう、私たちはあくまでルールに乗っ取って、その中で勝つために最善を尽くしたのだから、彼女の言い分は理不尽以外の何物でも無い。当の本人は何もしていないというのに…。中には、涙を堪えている者すらいる。これはもう最悪だ。この最悪な空気に耐えきれなくなったのか、上野が立ち上がって叫んだ。
「ふざけんな!!今まで練習も見にこなかったくせに!!そもそも、ルールを守って勝つべくして勝ったんだ!!!それの何が悪い!!!」
上野は、今までに見たことのないくらいの鋭い目で北野を睨み続けている。しかし、当の本人の気は全く治らない。いや、むしろ逆効果だった。
「誰に口を聞いてるんだ!!!!!」
教室内は、一触即発の状態になった。北野は、自分の思った通りにクラスがまとまらなければ、気が済まないタイプの人間だ。このクラスは彼女にとっての王国だ。私たちが、自分たちで編み出した方法で結果を出したことが許せないのだろう。そして、上野の反抗も絶対にあってはならない事なのだ。北野の怒鳴り声は、さらに大きくなる。
「北沢!!!学級委員は、何をやってる!!!そもそも、こうなった責任をどう取るんだ!!」
怒りの矛先は、いきなり私に向いた。正直なところ、私は北野に何も言いたくなかった。どうせ話が通じないからだ。だが、今回ばかりは…この子たちの為に…。私は立ち上がり北野に言った。
「私たちは、何も悪いことをしたとは、思いません!問題があるなら、飛田先生でも、校長先生でも言えばいい。だから責任は取りません、いや、取りようがありません!!」
北野は私を睨みながら言った。
「そもそも、今回の一件は、どうせ全部お前のせいなんだろ!!だから、学級委員にしたくなかったんだ!!!」
私は、すかさず反論する。
「だったら、今、クラスでもう一度決め直せばいい!それでも納得いかなければ、学年の先生に相談すればいい!!それだけの事じゃないですか…。もっとも、それをしたところで先生の望む結果には、なりませんけどね。」
私の反論を受けて、北野はとんでもない捨て台詞を吐いた。
「わかった。もう好きにしなさい。お前みたいな勝手な人間は、いつか失敗する。いつか、学校に来れなくなる。私が教えた生徒には、そんな子もいた。そうなっても私は助けない。あの子と同じようになればいい。」
ドカン!!!!!
私は、机を思い切り蹴飛ばし、教室を出て行った。
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