報告63 短距離走における効率の良い得点の稼ぎ方
【1】
二学期が始まって数日が経ったある日の夕方。私は久々に弟と飲食店で食事をしていた。私は、弟に確認をする。
「本当に来るのか?」
今日、弟と食事をした理由は、彼の意思を確認するためだった。弟は、迷いなく答えた。
「もちろん見に行くよ。なんか面白そうだし。じゃ、プリント見せて。」
「お前な〜。」
私は困り顔でそう言いながら、弟に一枚のプリントを差し出した。それは、体育祭の実施についてのお知らせだった。前々から、私の学校の体育祭に出席する気マンマンだったのだ。
二学期が始まってからというものの、私は特に問題なく生活していた。そうしながら、気づけば10月になり、体育祭前日を迎えた訳である。弟は、相変わらず、明日の体育祭に期待を膨らませている顔である。私は、少し呆れた顔で弟に言った。
「頼むから目立つ事をしないでくれよ…。」
【2】
次の日の朝、私はいつも通り早くに目覚めた。普段なら、勉強をするのだが今日だけは違い、今日の分の昼食をせっせと作った。給食がないからだ。別に出来合いのものでも構わなかったが、妙にテンションが上がってしまい色々と作り込んでしまい、思ったよりも時間がかかっていたことに気がついた。私は、弁当箱を素早くリュックに詰め、ジャージに着替えて家を出た。
学校に到着した私は、校庭に並べられた座席に座った。校庭には、前日に運び出した教室のイスが扇形に並べられている。その扇の中に白い体操着姿の生徒が散りばめられていた。どうやら、半数以上の生徒が登校しているようだ。それは、受験生である3年生も例外ではなく、この時期の体育祭に対して満更でもない気持ちを抱いているものが大半なのかもしれない。私がリュックからプログラムを取り出して眺めていると、上野が声をかけてきた。
「北沢、おはよう。今日は流石に勉強しないんだな。」
「たまには…な。」
私は、上野にそう言った。上野は私を見ながら言った。
「珍しいこともあるもんだな。それより、北沢の考えた作戦うまく行くと良いな。」
「期待値の話はしたよな。今回は、生徒の身体能力から勝率を割り出し、そこに点数をかけ合わせて期待値を計算した。その期待値が最大になるように組んだんだ、勝てる確率は高い。とは言え、あくまでも確率の話だから、実際のところは時の運だな。」
「確率ってやつは、去年勉強したけどさ。期待値なんて教わったこともなかった。確率って便利なんだな。」
「仕方ないさ。期待値は、高校で習うからな。さて、そろそろ始まるぞ。」
校庭に椅子を並べて座っている生徒たちの所に、ジャージ姿の教師たちが散り散りになって向かってくる。中には、チームカラーのシャツを着ている者も居る。間も無くして、北野が私たちの所に現れ、淡々と注意事項を説明する。その隣では、華やかな掛け声が、聞こえていた。
「よーし!みんな!中学校最後の体育祭だ!勝つことも大事だけど、何より楽しんでいこう!!」
隣でそう叫んでいたのは、隣のクラスの担任である長沼だった。その輝いている目や楽しそうな表情は、若い頃の自分を連想させられ、微笑ましい気持ちになる。彼のクラスの生徒は、彼のその輝きに釣られて、大いに盛り上がっていた。北野が話し終わり、校舎に戻っていくと、隣のクラスの様子を見ながら、上野がつぶやいた。
「長沼先生のクラス楽しそうだな。いいな…。」
その顔は、とても寂しいものに感じた。そんな顔をしていたのは、上野だけではない、クラスのほとんどの生徒が羨ましそうな顔で、他のクラスの様子を眺めていた。実際のところ、私のクラスだけ…北野だけがドライな対応をしていた。放課後の体育祭の練習に一度も見に来なかったのは、彼女だけなのである。その代わりに飛田が何度も見に来たのだが。生徒たちにとってこれほど寂しいものはないだろう。私は、立ち上がりクラスの生徒に言った。
「気にするなよ!主役は先生なんかじゃない!俺たちなんだ!楽しんで行こうぜ!!」
私の声かけに上野が乗っかった。
「そうだよな!俺たちが楽しめば良いじゃん!っていうか勝とうぜ!!」
彼は、こういう時によく乗ってくれる。体育祭の準備の時も場を盛り上げてくれるし、私の提案も他のクラスメイトに拡散してくれている。いわば、このクラスのインフルエンサーなのだ。私は、良い相棒を持ったものである。上野のお陰で、私たちのクラスも徐々に元気が戻ってきたようだった。
まもなく開会式が始まります。生徒の皆さんは整列して下さい…。
【3】
いよいよ、競技が始まった。最初の競技は、100m走だ。六名が一斉にスタートし、その順位に応じて各チームにポイントが入る仕組みになっていた。各クラスから選ばれた生徒たちが、入場門の前で整列している。その様子を見て、他クラスの生徒たちがざわつき始めた。その原因は、私たちのクラスの人選が原因だ。上野が私に質問した。
「他のクラスの奴ら、ざわついてるな。それにしても、何で足の遅いやつだけをエントリーさせたんだ。」
私は、端的に答えた。
「話は簡単で、足が遅くてもポイントが稼げるからだ。」
「どういう事だ!!?」
他の男子生徒が私に尋ねた。学校の100m走がもつ性質を説明した。
「100m走は、出場選手が多いだろ?そうすると、先生たちは、レースの順番をどうやって決めると思う?」
「もしかして…。」
「足の速い選手と遅い選手を別々に固めるんだ。だから、この競技は多少足が遅くてもイーブンな条件になる訳だ。」
「でも、何でわざわざそんなことするんだ?」
「一位と最下位との差があまりにも大きいと、クレームを言ってくる保護者もいるからな。だから、今回はそれを逆手に取らせてもらった。100m走で一番大切なのは、いかに選手を温存しながらポイント差を開かせないかが大切だ。一人が出場できる競技数には制限があるからな。」
「恐ろしい…。」
連絡します。男子1500m走に出場する選手は、入場門に集まって下さい。
「さて、ちょっくら行ってくるか。」
私は席を立ち、入場門に向かった。
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