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報告6 ゴールデンウィークの活動報告

ゴールデンウィークが始まったが、北沢にはやることが多く、休む暇などなかった。

【1】

 ゴールデンウィークが始まった。この期間は本当に忙しい。私がするべきことは主に3つ、一つは上野に勉強を教えること、一つは水上の練習相手になること、最後に今度受験する検定の勉強だ。まず、私は部活の準備を整えて学校に向かった。

 

 学校に着きいつものように、体育館に向かおうとしたのだが、ふと気になったので職員室を覗いてみた。やはり、半数程度の教員が出勤している。教師という仕事は多忙だ、こう言った休日に出勤することなど当たり前なのだ。私はその光景を見て、いつかは解決される日が来るのだろうか?それはいつになるのか?考え込んでしまった。おそらくどの運動部も連休中は部活動なのだろう。連休末には、試合が控えている部もあるだろう。うちの部もそれは例外ではなかった。これから連日練習し試合をしなければならないのだ。そんなことを考えながら体育館に向かった。


 水上は、この短期間でかなり上達した。やはり、対戦相手が出来たことや、高校生向けの練習も取り入れたからだろう。試合をする毎に、手強くなっているのを感じていた。それと同時に水上の表情も生き生きとしてきている。心なしか笑顔が増えているような気がする。やはり、生徒の変化が見れるというのは良いものだ。彼らの成長は自分にやりがいを与えてくれる。私も教師だったのだなとつくづく自覚した。


 練習が終わると他の部員から声から遊びの誘いを受けることも多かったが、私は忙しいと言って断った。部活の後にもやることがあるのだ。私は、部活が終わると近くの図書館に行き談話スペースに向かう。連休中は、この場所で上野に勉強を教えているのだ。上野も英語の勉強が、かなり出来るようになっていた。そのため私も合間を縫って検定の勉強ができた。仕事がないとこうも勉強がはかどるのか。私自身も驚いている。連休はあっという間に過ぎていった。



【2】

 試合前日、この日は、調整を行うことをメインのメニューで軽く体を動かした後に試合をして終わった。練習が終わった後に、水上に声をかけられた。

「この後、時間ある?行きたい場所があるんだけど。」

水上からこんな話が来るとは珍しい。私はその誘いに乗ることにした。


 電車に乗って数分、その後歩いて私たちは、神社の境内にやってきた。

「この神社は…。」

「北沢来たことあるの?」

忘れもしない。ここは、私が子供の姿になってしまった神社だ。まさかここに来ることになろうとは。

「私、試合前とか、いつもこの神社でお願い事するんだ。」

(そうか…私が子供の姿になってしまったのは、この子のお願いのせいなのかもしれないな。…なんてな。)

「ここの神社。よく願いが叶うって評判なんだよ。北沢も何かお願いしたら?」

(なら、元に戻してくれよ…。いや、もうこのままでも良いか。)


 私たちは、お参りを済ませ、振り返り帰ろうとしたが、その時後ろに見たことのある人物を見かけた。水上がその人物に近づき声をかける。

「お姉ちゃん。こんなところでどうしたの?」

水上の姉である桜だった。彼女を見るのは二ヶ月ぶりだろうか。髪も明るい色に染め、化粧もしているのだろうか。すっかり大学生だ。桜は妹に言った。

「高校でお世話になった先生が行方不明になったって言ったでしょ。その人にもう一度会って話ししたいってお願いしにときどきこの神社に来るの。」

(はい!願いがなってますよー!!あなたの探している人は、妹の隣にいる人ですよ!!)

まるで、コントでもしてるいるかのような異様な光景だ。すると、桜が私の方を見ながら妹に聞いた。

「あの子が、この間話していた転校生?」

「いつも、妹がお世話になってます。」

私はすかさず、返事を返そうとしたが思いとどまった。体は若返ったが、声はそこまで変わっていない。声を出したら気づくんじゃないか。そう思い、何も言わずに会釈だけで済ませ、その場を後にした。


 電車で自宅の最寄駅まで移動中、私は水上に話しかけられた。

「お姉ちゃんと会った時、北沢素っ気なかったよね?もしかして、人見知りするタイプ?」

「そんなわけないだろ」

「まあいいや。北沢は、試合出なくていいの?」

「転校してきたんだ。仕方ないだろ。(出場したら反則だろ。)それよりも、明日は頑張れよ。俺は男子の応援に行くから応援は行けないけど、応援してるからな。」

普通の中学生はこんなこと言わないのだろう、どうしても教師の条件反射でこう言った言葉が出てしまう。私の答えに水上は答えた。

「北沢、何言ってんだよwww」

そりゃそうなるわ。



【3】

 試合当日、男子は全員一回戦か二回戦止まりで、あっさり負けた。男子は午前中には解散し、みんな家に帰っていた。私も移動しようとしたところで、飛田に声をかけられた。

「水上さんがまだ勝ち残ってるみたいですよ。北沢くん、応援に行きたいですか?」

私は、飛田の車で一緒に試合会場に向かった。その道中、私は飛田と話をした。

「水上はここ最近急激に強くなったね。高校生みたいなプレーをする様になったしね。なぁ、北沢くん。もしかして君が教えたんじゃないかい?」

この飛田という男もよく見ている。私は質問を質問で返した。

「どうしてそう思うんですか?」

「最初に君が本気になって水上と試合をした時のプレースタイルに似ているからだよ。マネだけで身に付かないよ、あれは。」

ここまで言われたらとぼける必要もあるまい。私は正直に答えた。

「確かに、部活のない休日に教えてました。」

「やっぱりそうか、水上の面倒を見てくれて本当に感謝しているよ。ありがとう。そういえば、上野くんはどうだい?」

「このままいけば大丈夫だと思います。」

「彼も最近、英語の授業の取り組みはよくなってるって報告も入ってる。本当に君には驚かされるよ。学校の先生でもやってたんじゃないかって疑うくらいだよ。」

飛田の発言は偶然なのか、わざとなのかそれは分からないが、本当によく見ている。


 しばらく、車を走らせていると、道が思いがけなく混み始めた。飛田は少し焦りながら言った。

「あれ?普段は混まないんだけどな。ごめんね北沢くん、間に合わないかもしれない。」

こう言った展開は、ドラマや小説などでよく見る。主人公は時間に間に合うため、車を降り全力で走るのだ。だが、あいにく私は、そのようなヒーローになる気はない。5月とはいえ外は暑い。そんな中走れというのか。私は、全く別の方法を考えていた。

「先生、この辺りの道詳しいので裏道教えます。」

 私たちは悠々と試合会場に向かうのだった。



【4】

 私と飛田が、試合会場に着いた頃、水上の決勝戦が始まっていた。まあ、なんとか間に合ったと言って良いだろう。水上は私たちに気づいていないようだ。別に大きな声を上げて応援することもない。私は静かに彼女を見守っていた。決勝戦の相手は、かなり手強そうだ、おそらくクラブチームに所属している子だ。水上は、苦戦していた。どんなにラリーを早くしても返される。このままでは勝つのは厳しいだろう。水上はそのまま1ゲームを取られてしまった。


 バドミントンは、2ゲーム先取でゲームの間にはインターバルという、数分の休憩時間がある。私はインターバルに彼女の元に駆け寄った。

「北沢。なんで来てるの?」

「そんなことはどうでもいい。水上、お前スマッシュ打ち過ぎだ。もっと奥に打つ打球増やせ、以上。」

「ちょっと、待ってよ。」

2ゲーム目はすぐに始まった。これで水上が素直に聞いてくれれば、このゲームは分からない。


 2ゲーム目は、アドバイスをきちんと聞いてくれたのか、相手のペースを乱して順調にポイントを稼いでいった。今まで私がわざわざ時間を割いて教えたのだ、何も出来ずに終わってしまうのは納得いかない。私の身勝手な思いに彼女は答えたのか2ゲーム目は水上が取った。もう十分だろう。水上は決勝戦で敗退した。


 帰り支度を済ませ、私たちは解散した。決勝戦の相手は相手が悪過ぎた。水上が2ゲーム目を取った途端、別人かのように強くなり、あっという間3ゲームを取られてしまった。この手の選手にはよくあることなのだが。だが、決勝戦で1ゲーム取る事が出来たのだ。称賛に値すると言っていいだろう。帰ろうと動こうとしたとき、水上が私に礼を言ってきた。

「練習付き合ってくれてありがとう。北沢がいなかったら強くなれなかった。」


 私はこの言葉がどうにも引っかかった。

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