報告58 成績を上げるための要因
【1】
気がつくと、私は保健室のベッドで寝ていた。どうやら、飛田の話を聞いて気を失っていたらしい。病院の病室と同じような作りになっており、ベッドの周りをカーテンが取り囲んでいた。私は、カーテンを開け、様子を確認しようとしたその時、話し声が聞こえて来た。それは、聞き慣れた声だった。
「そう言うことだったんですね。で、兄さんは今休んでいると…。」
「ええ。相当ショックだったのでしょう。机に突っ伏してぐったりしてしまったので、お呼びしたわけです。」
どうやら、弟と飛田が話しているようだった。私は、一旦カーテンを開ける手を止めた。弟はさらに話を続けた。
「飛田先生、このまま兄さんが何も知らずに卒業する事が、一番だったのではないですか?なぜ、兄さんに、過去の話をしたのですか!?ましてや、一番のトラウマである高幡のことまで!!」
弟は、かなり強い口調で、飛田に言った。カーテン越しで、影だけしか見えないが、弟が飛田を掴みかかっているように見えた。私は、慌ててカーテンを開けた。
「兄さん…。」
弟は、掴みかかってはいなかったものの、今にも掴みかかりそうな雰囲気だった。
「落ち着け、いいんだ。」
「兄さん!それでいいの!?」
「飛田先生が、話さなかったとしても、いずれ北野とは、何かしらのトラブルになってた可能性が高い。そうしたら、もっと最悪な事態になってたかも知れない。」
「兄さん!もう、この学校に通うのやめよう!危険だよ!!」
「危険か…。そうかもな…。」
私は、飛田を見て言った。
「飛田先生、今日のところは、これで帰ります。今後のことは、また落ち着いたらお話ししましょう。今は、スクールの夏期講習も仕上げの段階です。ほっぽり出す訳にも行きませんから。
ですが、これだけは言わせていただきたい。あなたは、言いましたね。北野を止めると。それについては、協力するつもりはありません。私は、あくまで生徒の学習指導と進路指導のお手伝いをさせてもらうだけです。構いませんね。」
飛田は、これまでになく真面目な顔で答えた。
「ええ、それで構いません。その件に、あなたたちを巻き込まないと誓いましょう!最後に私のわがままですが、北沢さんには、私や北野の今後の行く末をどうか、見守っていて欲しい。そう思っています。」
「それについては…考えておきましょう。」
私と弟は、学校から立ち去った。
【2】
飛田から真実を聞いた後も、スクールの業務は通常通り続けていた。とは言っても、大学が夏休みに入ったおかげで、だいぶ仕事量も減り、余裕はできていた。私が、授業を担当している生徒も気がつけば、大崎だけになっていた。長い間、学校に来ていない分を取り返すのには骨が折れたが、なんとか夏までに、英語と数学は仕上がりそうだった。
だが、それよりも問題になっている生徒がいた。なかなか出来るようにならないと言う事で、私が授業を引き受けることにしたのだが…。
「北沢…。ここの計算が何回やっても合わないんだけど。」
「これか?……繰り上がり忘れてるな。それから、こっちの計算は、約分のミスだな。」
「あー!!出来ないよ!!こんなの!!」
「うん!大声は、誰もいないときに出そうな!」
数学に四苦八苦しているのは、水上だった。全体的に進度がイマイチだったのだが、数学は特にひどい。おそらくこれは、小学校の後半からつまづいているパターンだ。しかも、可哀想なのが…。
ちゃんと宿題をやってくるんだよな〜。
中学生の成績を上げるためには、ほとんどの場合、教材・教師・学習効率などの質を上げることよりも、生活習慣を改善させるだけで良かったりする。普通に勉強すれば、それなりに結果が得られるのだ。だが、きちんとした生活習慣を身につけていながら、成績が振るわない生徒も時たま居る。これが、なかなか厄介なパターンで、水上もその典型だった。
こうなってくると、学習方法を見直さないといけないな…。私は、水上に質問してみることにした。
「今までは、どうやって勉強してたんだ?」
「宿題をきちんとやってた。テスト前は、ノートを作って…。」
「ああ。そう言うことか。もしかしたら、勉強法を変えるだけで解決するかもな。もしかして、そのノートを作るってやつ。受験勉強でもやってるのか?」
「うん。特に苦手な数学は。」
「それ、ほとんど意味ないぞ。」
「え!?じゃ、どうすればいいの?」
「簡単だ。問題集を自分で解いて、自分で丸をつければいい。丸をつけた数だけ、成績が上がるぞ。」
「でもそれ、勉強した気にならない。」
「問題解かないと身につかないぞ。」
「…分かった。そうする。」
もしかしたら、これで、解決するかもしれない。とはいえ、勉強が遅れている事は事実だ。後は間に合うかどうかだな。
私は、授業の最後に宿題を出した。その量を見て水上は、不満そうに言った。
「え?量が今までの倍なんだけど…。」
「その代わり、そのノートを作るってやつやらなくていいぞ。そうすれば、早く終わると思うが。」
「…わかった。」
彼女は、仏頂面でそう答えた。私が、教室から去ろうとしたとき、水上が私に声をかけて来た。
「ねぇ、北沢。明後日って時間空いてる?」
「どうしたんだ?」
「明後日、何の日か知らないの?」
「明後日…。お前の誕生日か?おめでとう。」
「ちがうわ!!花火大会だよ!!」
「ああ。そんな事もあったな。」
「その日くらい、みんな息抜きしようって話になったんだよ。北沢も来るでしょ?」
「受験生だろお前ら…。俺は、ここの手伝いもあるしな…。」
「いいじゃないか!行って来なよ!授業コマ外しとくからさ!」
弟が、急に割り込んで、そう言った。水上は、弟に勝手に礼を行った。
「ありがとうございます。それじゃ、明くんは連れて行きますので!北沢、後でまた連絡するからよろしく。」
そう言って水上は、帰って行った。私は、弟に言った。
「別に気を使わなくて良かったんだぞ。」
「まあまあ。兄さんも疲れているだろうから、ここらでひと息入れなよ。…そうだ!夏期講習の最後の日に、スクールでバーベキューでも企画しようかな!受験生最後の息抜きって事で。」
「そういうの好きだよな。まあ、私は一向に構わんが。それにしても、花火大会か…。悲しいことに教師になってから、縁がなかったな。その時期は、部活と補習でとんでもないことになってたし。」
「教師って悲しい…。」
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