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報告52 非行グループの行動パターンについての考察

【1】


 私は、大塚と大崎を席に着かせ、二人に質問をした。


「さて、今日から夏期講習が始まる訳だけど、その前に一つ質問だ。この夏期講習での目的はなんだと思う?」


「入試問題を解けるようにするかな?」


大塚は私に言った。私は彼女の解答に答える。


「確かに、入試問題を解けるようにする事も大切だな。夏期講習でそのレベルに到達することも、もちろん可能だが、まずは土台づくりを行うぞ。」


「基礎の完成だろ?」


そう言ったのは、大崎だった。流石に、成績優秀だっただけのことはある、彼の解答は完璧だった。


「その通り!まずは基礎固めを行う。まず、得意分野と苦手分野を確認する事から始めよう。大崎くんは、このプリントを解いてもらうぞ。」


「これは…テストか?」


「まずは、苦手な分野を炙り出す。今日は、そのテストで苦手分野を見つけてもらう。大塚さんの苦手分野は、学校の実力テストで把握済みだから、今日はその中でも、文字式を使った複雑な証明問題をやって行こうか。」


「うん。分かった。」


「それじゃ、始めるか。」



【2】


 その日の全ての授業を終えた私は、大崎のテストの採点を事務室で行っていた。採点をしている私に、弟が話しかけて来た。


「兄さん、どうだった?久しぶりの授業は?」


「懐かしいな、まったく…。それにしても8時間ぶっ通しは、厳しいのだが?もう少しなんとかならなかったのか?」


「しょうがないよ兄さん。大学生の講師たちは、テスト期間真っ只中だよ。」


「そうか…そうだったな。大学のテスト期間は、7月末から8月の一週ごろだもんな。つまり、この1週間は耐えないと行けないという事か…。」


「そうだね。そこさえカバーし切れれば、こちらも楽になるね。ところで、大崎くんだっけ?その後の様子は、どうだったんだい?」


「ああ、実はな…。学校に来ていないとは思えないくらい、出来るんだ。」


「やっぱり、成績優秀だったってだけのことはあるね。」


「いや、違うんだ。変なんだ。」


「どういうこと?」


「確かに、学校の授業を受けずとも、独学で勉強出来る生徒はもちろんいる。だが、そう言った生徒は元々のポテンシャルが高いから、応用問題を解く力や文章を読み取る力もそれなりにあるんだ。なのに彼にはそれが全く見られない。これは…どうなっているんだ!?」


「今までに見た事がないパターンっこと?」


「いや、見たことはある。塾で予習をしているものの、大して身についていない生徒によく見られるパターンだ。だが、彼は塾や家庭教師を中学生になってから利用していないと言っていたな…。」


「不思議な子なんだね。」


「まあ、基礎がある程度出来ているだけ、ありがたいのだが。…さてと、そろそろ行くか。」


「ん?兄さん帰るの?」


「いや、大崎くんの様子を見に行ってくる。彼は、この時間になると、他校の高校生と遊びに行くらしいからな。」


「それって非行グループの子たち?」


「ああ。大崎くんから聞いた話だが、彼らとの付き合いは、割と最近だったみたいだ。ゲームセンターでメダルゲームをやってたときに声をかけられたんだと。彼の話を聞く限りでは、そろそろ頃合いなんだよな。」


「頃合い?一体何の?」


「裏切り…。」


「え?」



【3】


 辺りはすっかり暗くなり、人通りも少なくなった頃、大崎は人気の少ない公園で何人かの高校生と話をしていた。


「なんだよ、メダルもう、ねーのかよ。」


「そんな…もうこれ以上は無理です。」


大崎は、日頃から彼らにゲームセンターのメダルをせびられていた。やがて、せびる量は少しづつ増え、しまいには、現金までも、たかられるようになっていた。


「あっそ。じゃ、金は持って来てるよな?」


別の高校生が大崎に言った。


「もう、現金も待ち合わせがないです…。」


「なんだよ!使えねーな!」


その高校生は、大崎の髪の毛を掴みながら言った。


「だったら今日はお前一人で金集めてこいよ!」


そう言いながら、その男は遠くのベンチの方に目線を送った。そこには、大人しそうな学生が座っていた。要するに、ベンチに座っているその少年から金を巻き上げてこい!ということだろう。


「わ…わかったよ。」


大崎は、しぶしぶベンチに座っている学生の所へ向かう。そして、顔を判別できるくらい近づいたところで、彼は硬直し声を漏らした。


「き…北沢か?」


そのベンチに座っていた学生とは、私のことだった。大崎が、どのようなやり取りをしたのかは、直接聞けたわけではなかったが、彼の様子から大体の状況が読み取れた。私は、彼に確認する。


「そろそろ、あの高校生たちから、切り捨てられるんじゃないかって思っていたよ。初めは、仲良く遊んでたんだろ?気前よくメダルゲームのメダルを配りながら。そして、徐々に強請ねだられるメダルの数は増えていき、しまいには現金も取られるようになったんじゃないか?挙げ句の果てに、「そこの中学生カツアゲしてこい!」みたいなこと命令されたんじゃないか?」



「………お見通しなんだな。その通りだ。」



大崎は、右手に握りしめた金属バットを音が鳴るくらい、さらに強く握った。彼は、私に小さな声で言った。


「……逃げろ。」


「ん?」


「俺が失敗したことにすれば良いから、お前は逃げろ。」


「そんなことしたら、お前袋叩きにされるぞ?」


「じゃあ!どうすればいいんだよ!!」


「この時を待っていたんだ。」


「は?お前何言ってんだ?」



「そのバット、俺に貸してくれないか?」



私は、大崎から半ば強引に金属バットを奪い取った。



【4】


「あいつ、ちゃんと金持ってくるか?」

「別に失敗したら、俺らが行けば良いだろ?」

木の影に隠れている男子高校生たちは、ベンチに座っている私を見ながら、何やら物騒な会話をしている。私は、大崎から借りた金属バットを握りしめ、彼らのところに近づいた。

初めは、様子を伺っていた高校生たちも、向かって来ている人物が大崎ではないことに気づき、全員が身構え始めた。私は彼らに向かって高らかに言った。


「今どき、お前らみたいな連中が居るなんてな。ずいぶんと身勝手な青春をしてるんだな。」


「は?なにお前?馬鹿なのか?この人数相手にやる気?」


「まさか。交渉しに来ただけだ。金は無いからお望み通りとは言わないが、金になるものならくれてやるよ。」


そう言って私は、懐に手を入れ、そこから腕時計を取り出し、彼らに向かって放り投げた。


「その腕時計は、結構な値打ちでな。商店街の時計屋に行けば20万ぐらいで買い取ってくれるぞ。」


「ほう…。じゃ、ありがたくいただきまーす。」


「ただし、大崎とは今後関わらないようにしてもらおう。」


「はいはい、お安い御用だ。(守るわけねーだろ!馬鹿じゃねーかコイツは!)」


「それと、忠告はしておく!それを受け取ったら、お前らは、もう戻れないぞ。20万円だ。社会人にとっても十分な大金だ。それを持っていくって事の重さが分かっているのなら。足を洗うことを勧める!じゃあな。」


私は、彼らに背を向け大崎の所へと向かった。すると高校生グループのうちの一人が、金属バットを振り上げ、私に襲い掛かろうとして来た。


「本当に馬鹿だな。」


私は、そう呟くと同時に、振り向き様に金属バットで高校生を薙ぎ払った。いくら中学生の腕力でも、金属バットで殴られては、大の高校生でも無事では済まない。その様子を見て、他の高校生たちは、私に襲いかかることをやめた。


「忠告はしたからな。」


そう言って、私は大崎を連れて公園を後にした。



いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー、評価等、頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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