表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/135

報告49 北野との面談記録

【1】


「北沢、大丈夫?なんか、ノート全部持っていかれたって聞いたけど?」


 そう聞いてきたのは、水上だった。昨日の帰りの会で北野にノートを取り上げられた後、帰り際に全てのノートを持ってくるように言われた。そして今日の帰りの会で全てのノートを回収されてしまった。


「さぁな、何を考えているんだろうな?」


 私はそう言って少し、とぼけて見せた。彼女が私のノートを取り上げた理由は、大方想像がついている。あのノートには、教員がどのような授業をしているのかが明確に記録してある。いわば、授業の採点をしているようなものだ。その行為が、彼女の逆鱗に触れたのだと思われる。明日には、私の三者面談がある。まったく、面倒な事になってしまったものだ。しかし、ここで考えたところでどうしようも無い。私は、水上に言った。


「今、ノートの事で悩んでもしょうがないさ。明日の面談で話をすれば良い。そろそろ、スクールに行くとするよ。」


そう言って、私はリュックを背負った。それに合わせるかのように、水上が言う。


「待って、私も行く。」


私は、水上と一緒にわかばスクールに向かった。



【2】


 水上と一緒に通学路を歩きながら、今日あった事について話をしていると、私のスマホから着信音が聞こえた。水上は私に尋ねた。


「誰から?」


私は、画面を見て言った。


「飛田先生からだ。ノートの件相談したたんだよ。悪い、電話に出るぞ。」


そう言って私は電話に出た。


「もしもし、北沢です。」


「もしもし、飛田です。とんだ災難でしたね。」


「それで、北野先生はどうしていますか?」


「うん。北沢さんから、ノートの件を聞いてすぐに彼女から事情を聞いたのですが。思い込みと憤怒のオンパレードでした。「きっとあのノートは、親にそう書けと言われているに違いない!そうやって、我々にクレームを入れるつもりだ!」とか、「北沢は、大人を見下している!!」とか、言ったましたよ。」


「呼び捨てにされているんですね。」


「ああなると、もう誰の言う事も聞かなくなるんです。もし、明日の面談で問題になる行動が見られたら、私に報告して下さい。私も、もう少し彼女と話をして見ます。」


「ありがとうございます。では、失礼します。」


私は、そう言って電話を切りながら、ため息をつく。その様子を伺うかのように、水上は私の顔を覗き込んだ。


「北沢、大丈夫?」


「大丈夫だ。」


「でも北沢、スゴイ顔してたよ…。」


「本当か?自覚なかったな…。」


 水上は気を使って、そう言ったのだろうか。それとも無意識のうちに、その様な表情になっていたのだろうか。私は北野に対して特段、何も感じていないはずなのだが…。私は、胸の奥に何かがつかえている気がした。



【3】


 次の日の放課後。私と弟は、空き教室で面談の順番が来るのを待っていた。その日は、私たちが最後らしく、空き教室には、私たち以外誰も居なかった。この面談の順番も、おそらく意図的に組まれている。一番最後ならば、いくらでも面談時間を延長できるからだ。弟が小声で私に話しかける。


「それにしても、彼女は面談で何を言う気なんだろうね?」


「さあな。説教でもするんじゃないか?ノートの間については、こちらに何も落ち度がないと言うのにな。しかも、大の大人に対して、どんな説教をするんだろうな。全く滑稽な話だ。」


私がそう言うと、弟が私に少し驚いたように言った。


「兄さん。もしかして少し怒ってる?珍しいね。こう言う事であんまり怒んないのに。」


「いや、そんなつもりは無いんだ。面談頼んだぞ。」


私が弟にそう言ってまもなく、北野が教室に入ってきた。


「北沢さん。お待たせしました。こちらへどうぞ。」


 私たちは、面談をする教室へと向かった。



【4】


 私と弟は、北野に案内され教室に入った。普段から過ごしている教室には、四つの机が向かい合って置かれていた。その机の上には、私のノートが積まれている。きっと、ノートについての話もあるのだろう。少し不安な気持ちを抱きながら、椅子に座った。


「今日は、暑い中来て頂きありがとうございます。」


北野はそう言った。


「とんでもない。こちらこそお忙しい中、面談をして頂きありがとうございます。」


弟が北野の挨拶を受けてそう返した。


「では、時間もありませんので、早速始めます。まず見て頂きたいものがあります。」


そう言って北野は、私のノートを広げて見せて来た。


「これは…?」


弟がとぼけたように、北野に質問した。北野は、胸を張って答える。


あきらくんの授業ノートです。ここには、先生がどんな授業を行なったのか、どんな説明をしているのかが、記録されています。授業の内容を覚えると言う本来の目的から外れていますし、こう言った事を容認することは、大人を見下す事に繋がりますよね!どんなに勉強が出来ても、こんな態度では人間として失格です!まず、ご家庭でこのような事が2度と起こらいように、注意をして下さい!!明くんには、全教科の先生に頭を下げさせに行かせます!!」


 北野のとんでも理論が炸裂した!


 どんな説教が飛んで来るのか、若干興味があったのだが、予想の遥か上を行っている。まず、私のノートの取り方が、授業の内容を定着させるという趣旨から外れることは、百歩譲って認めるとしよう。それでも、果たしてこのノートが大人を見下している事になるのだろうか。全く訳が分からない。ここまで来ると一周回って怒らすら湧いてこなかった。

 

 そして、もう一点。彼女は、「どんなに勉強が出来ても、こんな態度では人間として失格です!」そう言ったが、これは完全にNGワードである。まず、勉強が出来ることと、生活態度のことについては切り離して指導することが絶対である。つまり、良いことは褒めて、悪いことは指導しなければならない。ところが、今の発言は、勉強のことも否定をしてしまっている。これは、不適切であると言わざるおえない。そして、「人間として失格」これは完全にアウトである。一体どうやって、何年も問題を起こさずに教師として生き残れたのだろうか。私たちがあっけに取られていると、彼女は弟に向かって続けて言った。


「北沢さん、わかばスクールの運営をされているのですよね?そんな事をしているから、明くんが調子に乗るんです!!」


 私は、彼女の話を聞き流石に反論しようと口を開いた。だが、それよりも先に弟が話し始めた。


「なるほど。それでそのノートには、先生方への誹謗中傷などは、書かれていましたか?」


「………。」


「私の見る限り見当たりませんが、本当にこれは問題のある事なのですか?」


「何を言ってるんですか!!教わる立場の人間が生意気にも、教えている立場の人間を評価しているんですよ!!」


北野のボルテージが上がり始めた。しかし、弟は冷静に質問を重ね続けた。


「その教わる立場の人間を評価することは、問題のあることなのですか?」


「当たり前です!!そんなこともわからないのですか!?」


「では、そうだとして。このノートが先生方への評価をしていると判断された根拠は何でしょう?」


「あなたは、私に喧嘩を売っているのですか!?」


「いえいえ。ただ、このノートには先生方が、どの様な説明や授業を行なったのか、生徒はどんな様子だったのか、どんな意図があったのか、そのような記録が見られます。ですが、これは本当に教師の評価なのでしょうか?」


弟は冷たい目をしながら淡々とそう言うと、北野が声を荒げて言った。


「あんたなんだろ!!この子に、こんなノートを書かせたのは!!このノートには、導入や展開、生徒観、指導観、教師が使う専門用語がいくつも書かれてる!中学生がこんな言葉知ってる訳がない!!自分の塾の情報収集に自分の子供を使うのか!!どこまで汚いんだ!!」


「いえいえ、とんでもない。そもそも、私が教育業界に足を踏み入れたのは今年になってからです。お恥ずかしながら、まだまだ勉強中ですから、明に指示するどころか、自分でもこんなノート作れませんよ。


 そもそも、授業の評価をすることと、教員を見下すことは本来切り離して考えるべきです。例えば、学校単位で授業アンケートを取ることも多いはずですよね。あなたの言い分では、学校全体が大人を見下すよう、教育していることになりませんか?」


「……………。」


北野は黙って、私たちを睨んでいる。その様子を見て弟が言った。


「さて、そろそろ時間ですね。申し訳ありません、これでも忙しい身でして、これで失礼します。明、帰るぞ。」


弟は、そう言って席を立った。それと同時に北野が大声で叫んだ!!


「逃げるのか!!この卑怯者!!どこまでも自分の非を認めないのか!?」


弟は振り返り、今まで以上に冷たい目で、北野を睨みながら言た。 


「覚えのない事を言われても仕方がないですからね。それよりも、あなたにお話ししたいことは、沢山あります。うちのスクールは、この学校の生徒さんの学習支援を目的に作られました。期末テストの試験範囲についても、うちに情報を提供するよう通達があったはずです。先生だけですよ、情報を提供していないのは。」


「私は、塾と手を組む気はない!!」


「いえ、うちのスクールは塾ではありませんよ。塾と同じ様に見えますが、事業の仕組みが違いますから。ご存知のはずでしょう?

 試験範囲をこちらに伝達しなかったことは、本来は職務命令違反です。…が、明の担任の先生と言うことで、この事は不問にしていたのですが…。では、私たちはこれで失礼します。」


そう言って、弟は私の腕を引っ張って、私を外に連れ出した。





いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ