報告46 期末テストについての報告
【1】
いよいよ、期末テスト当日となった。私はいつもの時刻に教室に入ったが、いつもより人数が多い。やはり、受験の内申点に関わる重要なテストだ。ほとんどの生徒はモチベーションを上げられずには、いられないだろう。私が先に着くと、上野が声をかけてきた。
「おはよう北沢。今回は、一教科くらいはお前に勝ってやるからな!」
まったく、随分な挨拶だな。私は、上野の宣戦布告を軽く受け流すように言った。
「せっかく、塾を紹介したし、勉強も教えたんだ。一教科くらい俺に勝てなきゃ困る。」
「言ったな!本当に勝つからな!!何も5教科とは言っていないからな!!」
期末テストでは、5教科に加えて、実技教科(保健、音楽、技術、家庭科、音楽)のテストがある。確かに、中学生でも大人に勝てるチャンスは、十分あるだろう。もちろん、実技教科で成績を取れば、都立入試に有利になることは言うまでもなく、それはそれで望ましい事だ。
ともかく、今回のテストは、自分だけの闘いではない。以下に平均点を上げるかで、塾の評価につながる。いよいよ本番だ!
【2】
一教科目の国語のテストが始まった。国語のテストは、採点に時間がかかるという性質から、どの学校でも最初に行われる事が多い。最初の教科だ。ここで自信を持って解ければ、この後のテストも自信を持って受けれるだろう。
国語のテスト問題は、基本的に授業内で扱った作品から出題される。そのため、その作品についての内容やポイントを叩き込んでしまえば、読解力が余りなくても解けてしまう。個人的には、それで本当の国語力が身についているかと聞かれれば疑問だが…。ともかくやり込めば、簡単に成績が上がるのだ。書店でも教科書ガイドと呼ばれる参考書は手に入るので、そこに記載されているポイントと授業で説明されるポイントを覚え込むだけで、悲しい事に点が取れてしまう。今回の問題の内容も、私が作成したプリントの中から出題されているようだ。これならば、皆高得点が期待できるだろう。
その後の教科も、私の作成したプリントの中から出題されているものが、ほとんどだった。特に今回は、実技教科の対策プリントが作れた事が何よりも大きい。これは、高得点が期待できそうだ。
【3】
「乾杯!とりあえず兄さんお疲れ様!」
試験最終日の夜、私は久々に弟から食事に誘われた。期末テストに向けて、私が教材を作ったそのお礼という名目だった。弟は、ワインを一口飲んでから言った。
「ごめんね。もっと早く東京に戻ってくるつもりだったんだけどさ。色々と忙しくなってきてね。それで、生徒の出来はどうだった?」
「ああ、後は生徒の努力次第だが、まあまあの結果は出るんじゃないか?内申は稼げそうだぞ。」
「そっか、都立の上位校にたくさん入れられれば嬉しいけど…。」
「そうだな、中学の学習塾は、都立高校の合格実績が一番の宣伝になるからな。楽しみだな。」
「まったくだよ。でも、これから夏期講習が始まって忙しくなるね。」
「ああ。中学の総復習をしなければならないし、ここからが腕の見せ所と言ったところだろう。それもそうなんだが、実はもう一つ問題があってな。」
私がそう言うと、弟は不安そうな顔で私に、「え?なに!?」と尋ねた。私はすかさず、一枚のプリントを差し出す。そのプリントには、三者面談のご案内と記載されていた。弟は、その表題を見てすぐに察し、言った。
「げ!もしかして、あの担任と面談するの?」
「すまん!永!頼む!」
「しんどいな…。」
【4】
試験が終わって数日が経った。噂によると、今日からテストが返却され、5教科に関して今日の授業で全て返却されるらしい。登校すると、クラスの中その話題で持ちきりだった。何人か、テストに自信のある者は、私に声をかけてきた。
「なあ、北沢。今回は数学出来か?今回は、勝てる気がする!数学がダメだったとしても、保健とか技術ならワンチャンあるし!絶対勝ってやる!!」
上野だった。相変わらず元気なやつだ。次に声をかけてきたのは、大塚だった。
「私も、わかばスクールの対策おかげで今回はすごく調子が良いよ。満点も狙えるかも。5教科で一つくらいは北沢くんに勝ちたいな。」
二人は今回特に勉強を頑張っていた事を私は誰よりも知っていた。よほど結果が楽しみなのだろう。私は、大塚の隣にいる水上に声をかけた。
「で?水上はどうだったんだ?」
「うっ…。どうせアンタ達には敵わないわよ。」
「でも、いつも以上に出来たんだろ?」
「…うん。」
「勝負することも大切だけどさ、今は自分の進歩に喜ぼうぜ。本当によく頑張ったと思うぞ。特に、苦手な数学を逃げずに何度もトライしたことも、素晴らしいことだ。絶対にいい結果になるさ。」
「…うん。ありがと。」
水上は少しうつむきながら返事をした。
【5】
放課後になると、いつもの上野、大塚、水上の三人が私のところにやってきた。上野は、テストの解答用紙を握り締めながら私に言った。
「さて、北沢。勝負の時間だ。せめて一教科お前に勝ってやる!さ!テストを見せるがいい!」
個人的にはこのようなやりとりは、あまり好きではないのだが、この子達は頑張ったのだ。この子達の勝負に付き合ってやるべきだろう。私は、「わかった。」とだけいい、リュックから解答用紙を取り出した。上野は、まず国語のテストから取り出した。
「どうだ!70点だ!!」
「よくそれで勝てると思ったな。はい、92点」
「ちっくしょょょょ!!」
「なんだ上野、私より国語出来てないじゃん。」
水上が解答用紙を見せて言った。
「うぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃ!!」
「まだだ!国語は5教科の中でも最弱!次は、社会だ!!北沢何点だ!?」
「今回、勉強時間が全然なかったからな、出来が悪いんだ。94点だな。」
「出来が悪いとは…?」
「じゃ、英語行きますか!!」
「なんだ?上野?英語に自信があるのか?」
「当たり前だ!!北沢のおかげでできるようになったからな!くらえ!!90点だ!!」
私はその解答を見て素直に喜びながら言った。
「凄いじゃないか!こんなに英語ができるようになるなんて!本当に頑張ったんだな。でも、悪い。俺の勝ちだ。」
水上が、私たちの勝負を見て若干引き始めている。彼女は、私たちに言った。
「点数、インフレしすぎでしょ。もう次元が違うんだけど。」
一方で大塚は、静かにテストの点数を見て黙っていた。…が、私たちの幼稚な背比べはまだまだ続いた。今度は、私が上野に聞いてみた。
「で、上野。理科はどうなんだ?」
「それがさ、理科苦手なんだけど今回できたんだよ。ほら、75点も取れてる。で?北沢は?」
「え?100点」
「は!?何者だよ!!」
理科教師なのだ、これくらいは出来なければ恥だろう。さて、これだけ数学を勿体ぶっていると言うことは、きっといい点数なのだろう。それは、推測だけではなく、上野の怪しい表情からもそう読み取れた。上野は、自信満々に数学の解答用紙を私の机の上に置いた。
「どうだ!!100点だ!!!」
「流石だな上野、引き分けだ。」
「ちっくしよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
上野は頭を抱えながら叫んだ。本当に分かりやすいやつだ。とは言っても、彼は本当によく頑張っている。だが、流石に私が負けることはないだろう。これでも私は、いい大人だ。ましてや元教師だ。中学生に負ける訳がない。
その時だった。今まで黙っていた大塚が、ボソッと言った。
「あれ?もしかして…。」
【6】
上野との点数勝負を終えてすぐに私は飛田に呼び出された。飛田は私に言った。
「北沢さん。今回は本当にありがとうございました。わかばスクールに通っていた生徒たちは、皆成績が急上昇していますよ!!こんな景気の良い数字初めてかもしれません。特に、大塚さんは本当によく出来ていました。ところで北沢さん…。」
「大塚さんに5教科の合計点で負けてますね。中学生に負けるなんて恥ずかしいですね〜。」
飛田はそう言って、私をからかってきた。…そうだな、上野の言葉を借りるとするならば。
ちっくしよぉぉぉぉぉぉ!!!!
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