報告43 大崎の行動記録
【1】
水上との面談を終えると、いつものように飛田が面談室に入ってきた。
「北沢さん。本当にご苦労様です。これで、北野先生の面談も大丈夫そうですね。」
「よく言いますね。今までの面談、全部隣の部屋で聞いていたのでしょう?まったく…。何を考えているんですか。」
「おや?バレてたんですか?」
「いつも、タイミングよく生徒が面談室に入って来ますからね。どこかで様子を見ているのだなと思っていましたよ。」
「まぁまぁ。そうカリカリしなくてもいいじゃないですか?北沢さんどうでしょう?面談のお礼と言っては何ですが、食事でも行きませんか?ご馳走しますよ。」
「分かりました。いいでしょう。」
私がそう返事をすると、飛田は1枚のメモ紙を渡してきた。
「私の行きつけの洋食屋です。別々に行きましょう。さすがに、一緒に入るところを他人に見られると面倒なことになるかも知れないので。」
飛田はそう言い残して、部屋から出て行った。
【2】
中学校の最寄駅から、二駅離れた場所に私は来ていた。夜の時刻では、あったもののまだ少し空が明るく、夏が近づいていることを感じさせた。
(メモに書かれている、洋食屋はこの辺りのはずなのだが…。)
私は辺りを見渡し、それらしき建物に入っていった。中は、いくつか個室のある小綺麗な洋食屋だ。私は、待ち合わせであることを店員に伝えると、個室へと案内された。個室には、すでに飛田が座席に座り私を待っていた。飛田は、私が席に着くと、メニューを私に渡しながら言った。
「ここのお店、前からよく通っててね。昔ながらって感じが好きなんだよ。私は、頼むもの決めてあるから、北沢さん選んじゃってよ。」
私はメニューをしばらく見た後に店員に声をかけた。
「注文お願いします。」
私がそう言うと、中年の店員がやって来て、飛田に声をかけた。
「飛田さん、今日はお子さん連れて来たんですか?珍しいですね。」
「いえいえ、違いますよ。彼は私のちょっとした知り合いでね。それで、北沢くん。何を頼むんだい?」
本当に常連客なのだな。そう思いながら、私は店員に注文をした。
「ビーフシチューとガーリックトーストをお願いします。」
私がそう言うと、飛田も続けて言った。
「私は、いつものやつで頼むよ。」
「かしこまりました。」
店員は、厨房へと戻って行った。それにしても、「いつもの」と注文する人初めて見た…。
しばらくすると、料理が運ばれて来た。飛田のテーブルには、昔ながらのオムライスが運ばれて来た。
「昔ながらって感じのオムライスですね。」
「でしょう?私の大好物なんです。さぁ、いただきましょう。」
私たちは、世間話をしながら食事を楽しんだ。なるほど、確かに悪くない味だ。常連になるのも納得がいく。ちょうど、飛田がオムライスを三分の一くらい食べた後だろうか、彼は食べる手を止め、私にある事を尋ねた。
「今日、北沢さん誘ったのは、お礼というのもありますが、一つ聞きたいことがあるんですよ。」
「何でしょう?」
「大崎くんの件です。その後の準備はどうなってるのか知りたくて。」
私は、彼からこのような質問が来る事は、大方検討がついていた。そのため、今まで調べて判明したことを、容易に話すことができた。
「こちらが、把握していることは、彼の行動パターンです。彼は、いつも学校の制服を着て朝、家をきちんと出るようです。その後、学校には登校せず、午前中はブラブラしているようです。午後になると、他校の生徒と集合して遊んでいるようですね。その生徒たちは、学校に登校することが多いようです。」
「なるほど、それじゃ、学校に登校しない生徒は、そのグループの中では大崎くんだけなんだね。」
「はい、そうなると大崎くんの抱えている事情は、グループ内での生徒たちの事情と異なるかも知れないです。」
「わかりました。では、私からもあなたに報告しましょう。私も、大崎くんの件は、改めて調べました。まず、登校していた時の交友関係についてですが、中がよかった生徒は大塚さんです。どうやら、小学生の頃に通っていた塾が一緒だったみたいです。一年生のときには、大塚さんとトップを争っていました。彼女から話を聞いてみてもいいかも知れませんね。
それから何人かに聞いた話ですが、小学生の頃までは、明るく活発で真面目な子だったそうですが、中学に入学してからは、大人しく目立たない生徒に変わったようです。それでも、特に大きな問題は、起こしていないようですね。
彼が、不登校になり始めてからは、いじめの調査もしたことがありました。改めて保管してある調査シートを確認しましたが、やはりいじめにつながる手がかりはありません。」
「ええ。こちらも探偵に依頼はしてみたのですが、手掛かりはありませんでした。ですが、学校に何かしらの原因が潜んでいるのかも知れないですね。」
「それで、北沢さんはこれからどうしますか?」
「明日、学校を休ませてもらいます。彼が一人で、いる時間を狙って接触してみます。」
「分かりました。ストレートに学校休みますと言われても立場上困りますが、いいでしょう。何かあればすぐに連絡して下さい。万全の体制でサポートしますから。私の方でも調査は進めておきます。」
「はい、よろしくお願いします。」
私は、飛田との密談を終え店を後にした。明日は、いよいよ大崎と接触する。これでも入念に準備をしたはずだ。自信を持って接触すれば良い。にも関わらず、私の手は気づいたときには震えていた。そしてそれは、武者振るいの類によるものではなかった。
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