報告37 生徒指導を行うための参考資料
北沢先生の用語解説
生徒指導提要とは
生徒指導に関する学校・教職員向けの基本書。要するにマニュアルのようなものである。文部科学省が作成したもので、インターネットなどで閲覧が出来るほか、販売もされており簡単に手に入る。
【1】
私は、ついに桜に正体を明かした。桜は、溢れそうな気持ちを抑えるかのような、か細い声で呟いた。
「先生が生きていて…本当によかった。」
「今まで黙ってて、本当に申し訳なかったね。」
「どうして…今まで隠していたんですか?」
小さな声で桜が言った。
「隠すつもりは、これっぽっちもありません。ただ、自分の素性をそのまま話せるほど、簡単な状況でないことは、あなたなら分かるでしょう。」
「そうですよね…。私も同じ状況なら、同じことをするかも知れません。」
桜が落ち着いたところで、私は彼女に言った。
「さてと、これで私たちの疑いは晴れましたか?」
桜は少し意地悪そうな顔をして言った。
「そうですね。大体のことは納得しました。でも、ちょっと納得いかないこともあります。」
「何ですか?」
「先生は覚えていますか?私が、先生に数学の授業をしたときのことを。あれって、私を試していたのですか?」
「あれは、済まなかったね。ついでに、君の指導力を見たくなってついね。」
「それで、私の授業はどうでした?」
「ここで言うのも何ですから、また今度きちんとお話ししましょう。簡単に言えば、まだまだ努力が必要ですね。私の正体を知ったんです。今度、特訓してもらいますので覚悟して下さい。」
「本当に遠慮なく言いますね。先生らしいです…。この感じ、ちょっと懐かしいです。私が受験生のときも、そうやってズバズバ言ってましたよね。」
「そうでしたか?」
私たちは、しばらく思い出話に花を咲かせた。最後に、桜は私に言った。
「とにかく、また先生に会えてよかったです。」
【2】
「そっか、水上さんに正体話したんだ。」
電話の相手は、弟の永だった。桜を家に送り届けた後、弟に報告の電話をしていたのだ。
「ああ。こっちは大丈夫だ。それで、依頼の方はどうだった?」
「うん。身辺調査に1・2週間くらいかかるって。」
「そうか、じゃあその間に進路面談の問題を解決するか…。さて、どうしたものか。」
「えーっと。たぶん、それなら大丈夫だと思うよ。」
「どういうことだ?」
「飛田先生がそう言ってた。とにかく、兄さんは面談の準備してて、だってさ。3日後に行うって。」
「あいつ何をする気だ…。」
【3】
次の日の放課後、私は飛田に進路面談の件について質問した。
「飛田先生、進路面談の件ですが本当に大丈夫なのですか?」
飛田は自信満々な様子で答えた。
「手は考えてあります!任せなさい。だから、北沢さんは面談の準備をして下さいね。生徒と北沢さんの一対一の面談になると思います。それは、そうと…。」
飛田は、少し前のめりになって私の目を見つめながら質問した。
「大崎くんの指導については、どう準備していますか?」
私は、鞄に手を入れ本を探しながら答えた。
「ええ。もちろん準備しています。私には、非行の生徒の指導経験はありませんからね。久々に読み直しましたよ…。」
私は、鞄から青い冊子を取り出し、飛田に見せた。
「ほう、生徒指導提要ですか。やはり読んでいましたか。」
「ええ。今は、彼が普段どんな行動をしているのか、事実確認を調査しています。そして、ここからは私にしか出来ない方法をとります。」
「何をする気ですか?」
「クラスメイトとして彼に接触してみます。彼が非行に走っている背景を知らないと、指導できませんし。」
「分かりました。とりあえずは、北沢さんに任せるとしましょう。ただし、状況は逐一報告して下さい。必要があれば、すぐに動きますので。ちなみに、いつ頃彼に接触する予定ですか?」
「事実確認に1・2週間かかります。その後ですね。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
【3】
あれから2日経ち、面談初日の朝になった。とくに飛田に目立つ動きは無かったのだが、大丈夫だろうか?しかし、1時間目の数学の授業の最後に彼は仕掛けてきた。授業の最後に彼は、全員にこう言った。
「今から呼ばれた人は、数学の補習を行います。今日は学校に残って下さい。…。」
飛田は、数名の生徒を指名した。その中には、上野や大塚も居た。呼ばれた生徒たちには、特に共通点もなく。数学が苦手なわけでもない。まさか、飛田のやつ、とんでもない事考えてないよな…。
【4】
その日の放課後、私は面談室に待機していた。飛田は一体どうやって生徒をここに呼ぶつもりなのだろうか来るのか?そもそも、ちゃんと生徒は来るのだろうか?甚だ疑問だが、しばらく待機すると、面談室に上野が入ってきた。
「失礼します…って北沢じゃん!?」
「おお!?本当に来たよ。一体、飛田先生に何を言われたんだ?」
「ああ…。数学の補習、受けてたらいきなり、面談室にいる人と面談してこいって言われてさ。」
飛田のやつ、いくらなんでもストレートすぎるだろ!!普通怪しまれるだろこんなの!!
「でもさ、北沢が面談してくれた方がありがたいわ。」
上野が続けて言った。
意外と文句は出ないのかも知れないな。そう思い、気を取り直して、話を切り出した。
「あくまでもこれは、北野先生の面談に向けての準備だと思ってくれればいい。早速始めようか!」
久々の大仕事が始まった!
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