報告36 北沢明の告白
【1】
会議室で、私と弟は、呆然としたまま、椅子に腰掛けていた。このままでは、ラチがあかないと感じた私は、弟に確認のための質問をした。
「なあ、今のって俺の正体バレたってことか?」
「そこは気付いていないと思うよ。ただ、僕たちが隠し事をしていることは、分かっているだろうね。兄さん…どうする?」
私は、天井を見上げながら考え、弟に言った。
「とにかく、私が話をしよう。桜が、私の正体に気がつくか、気がつかないかは、この際問題ではない。私の敵になるか、ならないかの方が問題だ。教え子に辛い思いはさせたくない。ついでに、妹の千歳に内緒にしてくれると、ありがたいのだが…。」
「分かったよ、兄さん。じゃ、僕はその代わりに、探偵への依頼をやっておくよ。」
「ああ。よろしく頼む。」
そう言って私は、大崎に関する資料を弟に渡した。
【2】
数時間が経ち、桜の授業が終わる時間になった。弟は、すでに知り合いの探偵に会いに行ったため外出している。私は一人、弟のデスクで桜を待っていた。
しばらくして、桜が私の元にやって来て言った。
「明くん。お父さんは、居ないのですか?」
桜は、顔をしかめながら言った。私は、彼女に提案する。
「ちゃんとお話ししますから、場所を変えませんか?」
彼女は、しかめ面のまま答えた。
「分かりました。いいでしょう。」
「タクシーを呼んであります。代金はこちらで持たせて頂きます。」
とにかく、彼女の警戒心を解くところから始めよう。
私は、桜をタクシーに乗せてある場所へと移動した。その移動の途中、私は桜に質問した。
「水上先生。私は嘘をつくつもりは、全くありません。あなたの知りたいことを塾長の代わりにきちんと説明するつもりです。何を説明すれば良いですか?」
全くもって、苦し紛れの逃げだ。彼女は、私たちが逃げれないような、的確な質問をして来た。
「明くん。私は、君とお父さんが隠している事を知りたい。そして、塾長のお兄さんである、北沢先生のことを教えて欲しいだけです。」
やっぱりそう来たか。彼女の口振りからして、私の正体には、気づいていないだろう。おそらく彼女は、青葉学園の北沢明の行方について、私たちが隠し事をしていると思っている。私の正体が分かれば、彼女は私たちに敵対することは恐らくない。
しかし、問題は、私の正体について信じてくれるかどうかだが。もし、信じてくれなければ、私たちへの疑いが強くなり、彼女は講師を辞めてしまうかもしれない。最悪、妹の千歳にも何かを吹き込むかも知れない。そうなると、後々面倒だ。私は今更になって、自身の正体を隠す事よりも、明かすことの方が遥かに難しいことに気付かされた。私は、あの日の事を振り返りながら話を進めた。
「今からいう話は、常識では考えられない話です。もしかしたら、先生は信じないかも知れない。それでも、私たちを信じて欲しい…。順を追って説明します。私が、永と養子縁組を組んだのは、3月の事です。お気づきだと思いますが、あなたの高校の先生である北沢先生が失踪したのと同じ時期です。」
「何で、君がそのことを…。」
「3月5日、あの日に全ては始まりました。彼はあの日、仕事を終え、仲間と食事をしていました。その後、ある場所に言ったんです。」
「明くん。それは何の話ですか?それにある場所って何ですか?」
桜がそう言った直後、ちょうどタクシーは、目的地に着いた。私は運転手に代金を支払い、桜を案内した。
「着きました。こちらに来て下さい。歩きながら話の続きをしましょう。」
私たちは、タクシーを降り、石階段を歩いていた。私は、歩きながら話を続けた。
「水上先生にも心当たりがあるはずです。3月5日はあなたにとっても大切な日でしょう?」
「……?」
彼女は、気付いていないようだった。私は彼女に言った。
「3月5日は、先生が高校を卒業した日でしょう?」
「何で、その事を…。」
「私は、先生が式を終え、帰宅したその頃、この場所に来ていました。そこで全ては始まりました。」
階段を登り切り私たちは、目的の場所にたどり着いた。その場所は、全ての始まりである例の神社だった。
「この場所は、青葉学園からも近くて、よく合格祈願をしに来るんです。そしたら、急に意識を失って、目が覚めたらこのザマです。」
「……え?」
桜は、理解が追いついていないようだ。私は、あえて答えを言わずもう少しヒントを与える事にした。
「昔、何人かを天体観測に連れて行ったこともありましたね。その時に、勝手に妹を連れて来ましたっけ?でも君は、妹と違って本当に良くできる子でしたね。今も自分の目的のために頑張っているようですしね。いつも私は言ってますもんね、〝過去に囚われず、未来に臆おくせず、今を生きろ〟ってね。本当に君は、努力家ですね。」
「ま…まさか…。」
気づけば、桜は口を両手で覆っていた。その瞳は、涙で濡れていた。どんな顔をすれば良いのだろう。私には分からない。ただ、なんとなく、微笑みながらが良いのだろうか。そう思いながら、私は彼女に言った、
「水上先生…いや、水上さん。今まで黙っててごめんね。私が、あなたの探している北沢明です。」
私はついに、自身の正体を桜に明かした。
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