表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/135

報告35 非行グループの調査方法

【1】


 次の日の放課後、私は飛田に生徒指導室で密談をしていた。生徒指導室は、他の教員や生徒から会話が聞かれることもない。話すならピッタリの場所だ。私と飛田は、ここで昨日の、進路面談の件について、話をしていた。


「北沢さん。生徒の進路面談の件、引き受けてくれますか?」


「構いませんが、生徒が納得して面談を受けてくれるように、ちゃんとフォローして下さいね。」


「もちろんです。最善を尽くすとしましょう。」


結局、生徒との進路面談は、私が行うということで落ち着いた。


「それから、本件とは関係無いのですが、一つお願いがあります。」


私は、昨日の公園で起こった出来事を確認するために飛田に聞いた。


「何ですか?」


「生徒の顔写真と名前を記録した台帳を見せてもらえませんか?」


「写真台帳ですか?どうして急に…。」


私は、昨日公園で起こった出来事を飛田に説明した。


「昨日、中高生のグループに遭ったんです。彼らの身なりから、おそらく何校かの高校生と中学生が集まって出来た、非行グループだと思われます。その中に、うちの中学の制服を着ている人間がいたんです。」


「本当に!?ちょっと待っててね!すぐに持ってくるから!!」


 飛田は、そう言うと職員室に台帳を取りに行った。


 私は、非行グループの中にいた、生徒に心当たりがあった。非行グループに居たメンバーに、誰一人見覚えのある者は居なかった。にも関わらず、自分と同じ制服を着ている生徒がいた。この事から考えられる可能性は2つだ。一つは、本校の卒業生である可能性。そしてもう一つは…。

本校の不登校の生徒である可能性だ。うちの学校で不登校になっている生徒が1名だけいる。しかも、私の所属しているクラスだ。私は、自分のクラスで不登校になっているその生徒が、非行グループに関わっているのではないかと睨んでいた。


 しばらくすると、飛田は写真台帳を持ってきた。


「どうぞ。今年度の生徒分です。」


 私は、すぐに自分のクラス全員の写真をチェックした。残念ながら、私の予想は当たってしまったようだ。私が抱いた残念な気持ちは、声となって微かに開いた口から漏れ出していた。


「残念ながら居ますね…。」


私は、大崎保久おおさきやすひさと記載されている顔写真に指を指していた。飛田は、分かっていたかのように、言った。


「彼ですか……。」


「先生も心当たりが、あるようですね。どんな生徒ですか?」


飛田は、大崎について話し始めた。


「彼が学校に来なくなったのは、去年の夏休みが明けた頃でしたね。まず、学校が把握している範囲では、いじめなどの人間関係のトラブルはありません。家庭環境も、特に特筆すべき点はありません。学習面も特に問題はありませんね。むしろ成績は優秀な方です。」


「彼が不登校になったきっかけは、あったのですか?」


「こちらでは把握出来ていません。ただ、他校の生徒と交友関係にあったことは、前々から知っていました。夏休みに入り、他校の生徒とよく遊ぶようになったと報告も聞いています。その報告を担任から受けた後ぐらいですね、来なくなったのは。

ところで、北沢さん。この話を聞いてあなたはどうするつもりですか?」


「そうですね。できることなら、わかばスクールにだけ通わせようかなと。とりあえず、彼の生活を改善させます!」


私は、さも当然だと言わんばかりに返事をした。対して、飛田は私に対して、厳しく尋ねた。


「北沢さん。公立中学校では、時たまこのような問題が起こります。私立でも起こるでしょうが、その場合、退学にしてしまうでしょう?つまり、あなたが経験したことのない指導と言う事になります。この手の問題は、闇が深いですよ。それに、あなたには、私たちに指導を任せると言う手もあります。それに、大崎とは全く面識がないでしょう。あなたが、彼を更生させる道義がないように思えるのですが。」


 飛田から、そう言われる事は予想できた。確かに彼の言う通り、この手の生徒指導は、私立の教員には無縁だ。かつての私なら、報告だけして後は放置していたかもしれない。だが、今はそんな気分になれない。私は飛田に言った。


「もちろん、先生方に指導はお願いしますが、私にも手伝わせて欲しい。それだけです。」


私の言葉を聞いた、飛田の表情は少し穏やかになった。彼は、分かっていたかのように言った。


「そうですか。まず、北沢さんの意見を聞きたいですね。何から始めましょうか?」


「まずは、事実確認からですね。彼がどんなことをして過ごしているのか。その後は、彼に接触を試みてみます。少し時間はかかるとは思いますが…。」


「そうですね。あなたには、直接生徒として接触すると言う、最強のカードがありますからね。まずは、お互いに情報収集と行きましょうか。」


「では、私は彼を探してきます。」


そう言って私は、部屋を出た。


「だいぶ、戻ってきましたね…あの頃に。でも、ここからが本番ですよ…。」



【2】


 学校を出た私は、わかばスクールの会議室で、弟に昨日の出来事と、今日、飛田と話した内容について話していた。


「それにしても兄さん。また、また随分な厄介事に首を突っ込んだね。でも、非行グループなんて指導したことないんでしょ?」


「そりゃ、私立の教員だったから、あんまり縁が無かったな。そんなやつ、私立なら速攻で退学だからな。だが、私には2つの強力な武器がある。一つは、私が中学生であることだ。この立場で相手に接触できるアドバンテージは大きい。まずは、接点を持って信頼を勝ち取る。」


「それで、もう一つの武器は?」


「もう一つは、財力と人脈だ。永、お前が時々利用している探偵を紹介してくれないか?彼に、大崎くんの行動を記録してもらい情報を収集する。」


「教員なら一発アウトなやり方だね。いいよ、紹介してあげる。」


「いつも、済まないな。ところで、何でお前は、探偵にどんな事を依頼しているんだ?」


「それは…秘密だよ。あ!そうだ!兄さんに言っておかないといけない事があったんだ。」


「な…なんだよ?」


「その探偵の人から連絡があってね。兄さんの事を調べている人が居るみたいだよ。依頼主は教えてくれなかったけど。」


「そうか…。まぁ、私は正体を隠しているわけでもないし、面倒くさいことにならなければ、それで良いのだがな。」


「うん。とにかく、誰が依頼したかも分からないし、用心に越した事はないよ。兄さん。」


 永が、「兄さん」と言ったその時だった。突然、会議室の扉が開き、一人の講師が入ってきた。その講師は、驚いたように言った。


「塾長!お兄さん…北沢先生を見つけたのですか!!?」


その講師は、桜だった。桜は、会議室に居る人物が、私と永だけである状況を見ると、状況を理解できないのか固まってしまった。弟が、桜に聞いた。


「水上先生、どうしたのですか?ここに兄は居ませんが…。」


「いや、会議室の会話少し聞こえていたので…。あの、一体どう言う事か、説明してもらっても良いですか?」


永は、しどろもどろになりながら言い訳を探した。


「いや、兄さんが見つかってさ。電話で話をしてたんだよ。」


しかし、弟の嘘は、簡単に見抜かれてしまう。


「でも、塾長のデスクにスマホ置いてありましたけど!」


「と…とにかく、水上先生、これから授業でしょ。時間作るから、授業が終わってからお話ししませんか?」


弟が、桜に提案した。桜は、まだ納得していない様子ではあったが、弟の提案を飲んだ。


「分かりました。授業に行ってきます。」


そう言って桜は、会議室の扉を静かに閉めた。弟は、私と目を合わせ言った。


「兄さん…これって。」

「ああ…。」


「面倒くさいことになったな…。」


いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ