報告33 一学期の入試対策
【1】
飛田と別れた後、私は、飛田が言った言葉の真意について考え込んでいた。だが、いくら考えても答えは、見えてこなかった。悩んでいても仕方がない、と思った私は、いつものように、わかばスクールへと向かった。スクールに到着すると、永が私に話しかけてきた。
「兄さんお疲れ。さっき飛田先生から連絡あってさ。ちょっと打ち合わせしてくるね。」
「そうか、俺も行った方が、いいか?」
「いや、僕だけで大丈夫だよ。それから、飛田先生が今日補習に送った子よろしくって言ってたよ。それよりも、緊急の会議なんて…1人足りないよ。」
飛田のやつ、もう動き始めたのか。それにしても、彼は一体何をする気なのだろうか?しかし、その事を考えるのは時間の無駄だ。私は、永に講師の出勤状況を確認することにした。
「どこが足りていないんだ?」
「そうだね。補習組は、なんとか足りてるけど…。補習に送り込まれた生徒が多くてさ、一般コースに配置できる講師がいないんだよね。」
「分かった。俺がいこう。補習のシステムは、もう少し考えた方が良さそうだな。一般コースは個別指導でいいんだよな?人数は?」
「人数は2名だよ。2人とも兄さんのクラスの子。」
「分かった。こっちの方は、任せてくれ。」
私は教材を持って、個別指導のブースに向かった。すでにいくつかのブースは、数学の補習で埋まっていた。
「あそこだな…。」
私は、講師が不在のブースを見つけ、そこの講師席に座った。そのブースに座っていたのは、大塚と上野だった。
「あれ?北沢くん?」
「どうしたんだよ?北沢?」
「今日は俺が授業を担当する。」
「え!?どういう状況!?」
上野はもっともな事を言った。私は、口八丁で誤魔化した。
「親の仕事を手伝ってるだけだ。それにここにいる講師の誰よりも、俺は教えるの上手いぞ。」
「確かに…北沢だもんな。ま、いいか。」
誤魔化し切れたのかは分からないが、授業は始められそうだ。
「さて、それじゃ始まるか。2人とも何の科目を受けるかは決めてきたか?」
「俺は、数学やりたい。」
「私も、数学!」
「分かった、今日は初回だから、当面の目標や勉強法も含めて話をしよう。」
【2】
「それじゃ。まずは、数学では、何をやっていくかについて話すぞ。2人とも数学は出来るんだよな?」
「ああ。いつも3か4だな。」
「私は、4か5かな。」
「じゃ、ある程度数学が、出来るんだな。まず、2人の当面の目標は、次の期末テストだ。」
「え?受験対策しなくていいの?」
「確かに、早めに受験対策をしたくなるとは思うが、2人とも中間テストの成績が悪くないから、内申点を稼いでおくことが先決だ。これには、いくつかの理由がある。
まず、言うまでもないが、都立入試では、内申点が高い配点で得点化される。都立を受けるならまず、内申を稼いでしまった方が良い。」
「まぁ、そりゃそうだ。」
「もちろん、私立受験でも内申点は重要だ。推薦入試はもちろん、最近は私立併願入試を行う私立学校も目立つようになってきたからな。その場合は内申が必要になる。」
「でも、今から受験の準備をしないで間に合うか、ちょっと不安だな。」
「その点は、そんなに心配いらないぞ。なぜなら、次の試験範囲の二次関数は、高校入試でも頻出かつ難易度が高いから、この部分は時間をかけても十分に、お釣りが来るんだ。それに、計算問題対策も最近学校の朝学習でやってるでしょ?」
「確かに…。」
「本格的な復習は、夏休みに回して、今は二次関数や一次関数をマスターしちゃおう。一次関数は、中学2年生の内容だけど、試験に出すみたいだから。」
「どうして、そんな事が言えるの?」
「この塾は、学校と連携しているからな、試験範囲把握してるんだよ。他の塾にはないアドバンテージだよな。という事で、使う問題集を上野に渡そう。」
「あ!これ、前に英語教えてもらった時と同じ問題集。」
「ああ。学校の定期テスト対策には、これが一番良いからな。大塚さんには、これを渡しておこう。」
「この問題集は?」
「上野に渡した問題集よりもレベルが若干高いものになる。大塚さんは、難関私立高校も考えてるでしょ?そうすると、これくらいはやっておかないといけないね。それでも、標準レベルなんだけどな。とにかく、この時期に大切なのは、応用問題に取り組む事ではなく、基本を完璧にする事だ。じゃ、ここからは解説をしていくから問題を解いていこう!」
「了解!!」
【3】
その後、特に問題もなく授業を終えた私は、弟からの連絡を待っていた。しばらく待っていると、弟の連絡よりも先に、帰り支度を済ませた水上が、こちらに近づいてきた。おそらく、数学の補習をしていたのだろう。私は、水上に声をかけた。
「なんだ水上。補習だったのか?」
「そうだよ…。疲れた…。」
「数学、苦手だもんな。テスト大丈夫そうか?」
「ぜんぜんダメ。不安しかない。」
「そうか…。ちなみに今日は何をやったんだ?」
「ひたすら、計算してた…。もうダメ。北沢助けて。」
これは、数学は苦戦するかもしれないな。もしかすると、うちの講師たちでは役不足かもしれないな。
「分かったよ。いつでも見てやるよ。」
そんな会話をしていると、水上の背後から視線を感じた。少し背伸びをして覗いてみると、桜がこちらの様子を見ていた。桜は、私に見つかった事に気づくと、水上に近づいて言った。
「千歳。お母さんから連絡があって、買い忘れた食材があるから買ってきて欲しいんだって。帰るついでに買ってきてくれないかな?買う食材は、千歳のスマホに送っといたから。」
「え?私が行くの?しょうがないな…。」
水上は、スマホで確認をしながら教室を出ていった。桜は、それを確認した後に私に声をかけてきた。
「ねぇ、北沢くん。北沢くんって千歳と仲良いの?」
うわ…めんどくさいのがきたよ…。とにかく、適当に流すしかないな…。
「同じ部活ですからね。多少は仲良いですよ。」
「ふーん。北沢くんは好きな子とかいないの?」
「さー。どうでしょう。」
私が、桜の対応に困っていると、ちょうどいいタイミングで電話がかかってきた。どうやら弟からだ。
「すみません。親からの電話です。失礼します。」
ふう…。まったくもって面倒くさい。
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