報告31 北沢明のDNA鑑定結果
【1】
会議が終わった後、私は、スマートフォンに着信通知が来ていることに気がついた。私は、その着信通知を見てすぐに電話を繋いだ。
「もしもし、北沢か?」
電話の相手は澁谷だった。おそらく、私のDNA鑑定の結果が出たのだろう。私は単刀直入に質問した。
「結果はどうだったんだ?」
「DNA解析の結果から、お前が北沢明であることは確定だな。」
「やっぱりそうか。」
「だが、テロメアの長さについては…。」
「年相応だったのか?」
「いや…長すぎる。」
「なに!?」
テロメアは、細胞分裂に関わるDNAの領域(正確には染色体の末端に存在する領域のことだ。)細胞分裂が行われるたびに、この領域は短くなり、最後は細胞分裂ができなくなってしまう。そのため、テロメアの長さでその個体の肉体年齢が大体わかると思ったのだが…。
「中学生のテロメアの長さじゃなかった。というか、人間のテロメアの長さを遥かに超えていた。」
「それは、想定外だな。」
「私が生物学の研究をしていなくて良かったな!今頃、監禁してモルモットだったぞwww。すぐにでも、うちの大学に来て欲しいくらいだよ」
「おいおい…勘弁しろよ」
「冗談だよ。でも…すぐにでも大学に来て詳しく検査させてくれ!お前のDNAの配列は異常である事は明白だ。どこか身体に問題が生じているかもしれない。」
「それってどれくらいの期間調べるんだ?」
「たぶん短くて1ヶ月だ。」
彼の主張は大変まともだ。しかし、今、立ち止まっているわけにはいかない。私は彼の提案を断った。
「すまない、澁谷…。私には、今すぐにやるべき事があるんだ。少しだけ時間をくれないか?」
「何言ってんだよ!命に関わる事だぞ!!お前らしくもない!」
「頼む!今はダメなんだ!!」
「そうか…。分かった。何かあったら連絡してくれよ。」
「すまないな…。」
そう言って私は、電話を切った。私の身体は、今後どうなってしまうのか、分からない。かつての私なら、全てのことを投げ出しても、早急に検査を受けていたのだろう。私も中学生になって少し変わったのだろうか…。私は、自分の身体が持つことをただ願うだけだった。
【2】
私が、澁谷と電話のやり取りをしていた一方で、帰宅した桜が妹の千歳に質問をしていた。
「ねえ、千歳。北沢くんってどんな子なの?」
「え?北沢!?なんでそんなこと聞くの?」
「今日、北沢くんの授業したんだけど、すごい数学出来ててさ。不思議な子だったな〜と思って。」
「そうだね…。あいつバケモノだからね。」
「やっぱり勉強出来るんだ。」
「うん。英検は二級持ってるし、数検に関しては準一級だし。」
「え!?数検準一級!?私、今日中3の内容教えてほしいって言われたんだけど。」
「それ、絶対試されてるよ。そういうヤツだから。」
「え!?ショック。私、基礎の内容教えちゃった。」
「それだけじゃないよ。バドミントンは、私より強いし。受験とか学校事情に詳しいし、教えるのすごくうまいし…。なんだかんだ、いいヤツだし。」
「そうなんだ…。一体何者なのその子。それにしても…。」
桜は、少しニヤついて千歳に言った。
「私は、北沢くんの学力のことを聞いてるのに…。珍しいね、千歳がクラスの男子のことをそこまで話すなんて。今までは、愚痴しか言わなかったのにね?」
「べ…別に!」
「あれでしょ、ゴールデンウィークの時に一緒にいた男の子、北沢くんでしょ?千歳が好きな人ってもしかして」
「かっ…勝手に言ってれば!!」
そう言って、千歳は自室に戻っていった。
【3】
次の日、私はいつものように早めに登校し、教室で勉強していた。
「よぉ、北沢おはよう。」
「ああ。おはよう。」
上野が私に挨拶をしてきた。いつの間にか、上野と朝に他愛もない話をする事が日課になっていたのだ。
「なぁ、噂で聞いたんだけど、授業についていけなくなると、あの塾で補習しないといけないって本当か?」
「ああ、そうだぞ。そのために作ったんだからな。」
「げ!マジかよ。」
「いや、もうお前は大丈夫だろ。今週から本格的にスタートだからな。呼ばれるヤツも出てくるだろうな。たぶん数学から」
「そういえば、1時間目数学だったな。」
しばらくして、飛田の数学の授業が始まった。なんて事はない、平凡な授業だ、最後を除けば。授業の最後に飛田はこんなことを言った。
「それでは最後に、確認テストを行います。結果の悪かった者は、わかばスクールの補習に行ってもらいます。」
「ええええええええええ!!!」
早速、利用してくれたようだ。クラスのメンバーも補習は嫌なようで、必死に問題を解いている。後で、学年全員のテスト結果を見せてもらおう。そう思いながら、私はテストを解いたのだった。
その日の放課後、私は、飛田に生徒指導室の呼び出された。飛田は世間話をするかのように話を切り出した。
「北沢さん。どうですか?早速わかばスクールを利用してみたのですが。」
「ありがとうございます。後はこちらで面倒をみますので。ところで、本題は何ですか?」
「はい。実は、1教室だけ整備されていた、大型電子黒板が全教室に入る事が決定したんです。」
「へー。よかったじゃないですか。」
「それを受けて、電子黒板の活用についての研修を行うことになったんですが、活用法が分からなくて困っているんです。どこかで活用法を教えてくれませんか?」
「分かりました。私はいつでも構いません。いつがいいですか?」
「そうだね、明日の放課後でどうだい?」
「分かりました。ところで、うちの学校に電子黒板を使う先生は居ないのですか?」
「いや、一人だけ居るんだけどさ…。」
「北野先生ですか…。」
「はい。任せられません。それに、私が研修で話すとなると、文句も言ってくるでしょうね。」
「はぁーーーー……。」
私と飛田は、頭を抱ると同時にため息をついた。
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