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報告28 質の高いアルバイト講師を確保するための方策


 飛田との密談を終えた私たちは、改装した塾の教室で準備をしていた。これから、講師を希望する学生に説明を行う準備だ。永は、スクリーンとプロジェクターを準備しながら私に聞いた。

「それにしても兄さん。本当にこれ上手くいくかね?」

永は少し不安そうだった。私は、弟が不安にならないよう、自信を持って答えた。

「なるようになるさ。と言っても、私は別の部屋から見守ることしか出来ないが…。」


 準備を終えて1時間が経った頃、私が永に頼んで呼んでもらった、大学生たちが集まって来た。まもなく、予定していた説明会の開始時刻だ。私は隣の部屋からモニターで様子を観察していた。今回集めた大学生たちは皆かつての教え子たちだ。私は、久しぶりに彼らに会えたことの嬉しさと直接会話ができないことの寂しさを抱き、まるで天国から彼らの様子を見守るかのような気持ちでモニターを眺めていた。間も無くして、永がスクリーンの前に立ち説明を始めた。


「皆さん、本日はお集まり頂きありがとうございます。代表の北沢永です。今回は、ここでの仕事内容と待遇について私から説明させていただきます。その上で、承諾していただければ、明日から来ていただく事になります。」


「まず、仕事についてですが、これはもちろん、生徒の学習指導になります。当塾では、個別指導を中心として生徒に授業を行います。特に、学力の低い子の指導が中心になると思います。また、授業以外でも生徒が先生に質問できる仕組みを作っています。これについては、学力の高い子が利用すると思われます。また、テスト前には、特別講座という形で集団授業をお願いする場合もあります。」


 私が、集めた大学生たちは静かに聞いていた。彼らには、ある共通点がある。全員が教員を志望しているのだ。教員志望の学生に絞った理由は2つある。


 1つは、意欲の高さだ。教員志望の学生は、アルバイト講師であっても高いモチベーションを持っている。特に個別指導の塾において、授業の質を上げるためには、いかに、完成された教材に沿って真面目に授業を進められるか。この一点に尽きると言っても良い。教員志望の学生は、この要件を満たしている者が多いため、質の高い指導が可能になる。


 そして、もう一点のメリットは、こちらが提供できる、賃金以外の待遇についてだ。学校と連携した塾だからこそ、教員志望の学生にとって魅力的な待遇を用意できるのだ。


 永は、待遇面について説明を始めた。


「次に待遇面についてです。賃金は時給で1300円になります。正直なところ、余り高い他は言えません。しかし、皆さんにとって魅力的な特典を用意しております。」


「1点目は、教員採用試験へのサポートについてです。塾内でも、採用試験の対策を無償で行います。また、当塾の活動は教育委員会に認められた、学校ボランティアに該当しますので、公立の面接試験での材料になる事は間違い無いでしょう。」


「2点目としては、現職の教員から話を聞ける事です。当塾の活動は、通常の塾とは異なり、学校と連携して活動を行なっていきます。ですから、定期的に学校の先生と連絡を取り合う事も出てきます。そのため、現職教員から話を聞く機会も当然あるでしょう。また、現職教員をゲストに招いた座談会などを企画しておりますし、林間学校、スキー教室などの学校行事の臨時スタッフの応募なども行う予定です。」


「3点目は、勉強ができない生徒を知ることが出来ることです。当塾は、学校の授業の補填がメインとなるため、勉強の出来ない生徒が、集まってきます。一方で、一般的な学習塾には、本当に勉強ができない子は居ません。なので、より皆さんの教科指導力が問われるとともに、当塾での活動がスキルアップに繋がると確信しています。」


永がこのように説明をすると、一人の学生が質問をしてきた。


「一つ質問なのですが、なぜ一般の学習塾には、本当に勉強が出来ない子が居ないのですか?」


永は迷うことなく答えた。


「それは、学習塾が営利団体であるからです。勉強が出来ない原因について、まず考えられるのが、家庭の経済状況が悪く、勉強が出来る環境が整っていないことです。経済状況が悪ければ当然、学習塾に通うお金も無いわけですから当然、そう言った生徒は居ません。」


「そしてもう一つは、勉強が出来ないことが地域内で有名になっている生徒。これも学習塾にはいません。学習塾にとって地域に悪い口コミが流れる事は死活問題です。ですから、こう言った生徒の受け入れを拒否する場合が多いのです。例えば、中学2年生になっても正負の計算がまともに出来ないなどの、そう言ったレベルの生徒がこれに当たります。このような生徒たちを救うことも、私たちの役目になります。」


 大学生たちは、永の説明に納得しているようだった。私が事前に準備をして、弟に説明をしていたこともあるが、永自信も調べていたのだろう。彼らのほとんどは、承諾書を書き、永に提出した。とりあえず人材確保については、概ね成功と言えるだろう。すると、一人の学生がさらに質問してきた。


「あの、プライベートな質問になってしまって申し訳ないんですが…。その…お兄さんは…。北沢明先生は今、どうしているのですか…?」


永は、少し間を開けてから口を開いた。


「兄は、去年の3月から行方不明になりました。まだ、見つかっていません…。」


「そうですか…。行方不明になった事は聞いていたのですが…残念です。」

その学生は悲しそうな表情で呟いた。今度は別の学生が口を開いた。


「私たちは、北沢先生の授業やサポートのおかげで大学に合格できました。だから、今度は私たちが恩を返す番です。出来る限りの協力をさせていただきます。」


この声に賛同して、周りの学生たちも立ち上がった。この様子を見て私自信、これほど嬉しく思った事はないのだが…。



盛り上がるのはいいのだが、私を勝手に殺さないでくれ…。



いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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