報告26 入試を意識させる教科指導
前章のあらまし
高校教師として働いていた北沢明は、ある日突然、中学生の姿に戻ってしまう。彼は、とある中学校の中学3年生としてクラスメイトの悩みを解決しながら、中学校生活を送っていた。
そんなある日、北沢は担任の北野と些細なことからトラブルになり、教師になったばかりの頃の自分を思い出す。その中で北沢は、自分が生徒に負の影響を与えてしまうのではと思い、関わりを絶とうとする。
しかし、修学旅行を通して、彼らが自身を友人として接している事に気付かされ、もう一度彼らのために自身の力を奮うことを決意する。一方、飛田は、北沢の正体に気づき、一緒に生徒を指導しないかと話を持ちかける。北沢はこれを快諾。そして彼が取った行動とは…。
【1】
修学旅行が終わった次の日、この日は修学旅行の振替休日ということで、3年の先生も生徒も静養していた。そんな日の午後、私と弟の永は料亭の個室で客人を待っていた。永が私に声をかける。
「ついに正体がバレちゃったんだね兄さん。」
「思ったより早かったな。だが、想定の範囲内だ。」
「そうだね、そのために事前準備してた訳だし。」
「もう、親のふりしなくて大丈夫だぞ。」
「それは助かる。」
しばらくすると、個室にスーツを着た男性が入ってきた。私と、立ち上がり声をかける。
「飛田先生お待ちしていました。こちらは弟の永です。」
弟は立ち上がり、飛田に改めて挨拶した。
「改めて、明の弟の永です。兄がお世話になっております。」
「ご丁寧にありがとうございます。弟さんだったんですね。改めてよろしくお願いします。」
「さ、飛田先生おかけ下さい。」
「ありがとう。では、失礼します。」
飛田はゆっくりと腰掛けた。それに合わせて私たちもゆっくりと座った。私はその後、飛田に声をかけた。
「今日の分は全て私の方で支払いますので遠慮せずに召し上がって下さい。ここの懐石料理美味しいんですよ。なに飲まれますか?」
「いや、実は私お酒飲まないんだよ。すまないね。ウーロン茶をお願い出来ますか?」
「分かりました。私もこの体になってからお酒が飲めなくなってしまったので気にしないでください。」
「北沢さん。一つ聞いていいですか?」
「はい。何でしょう?」
「ここのお店高いよね?懐石料理なんだよね?」
「別に大したことないですよ。」
「君、教員だよね?私とそんなに年収変わらないはずだよね!?」
「いえ、教職以外の収入もあるので公立の先生よりも収入はありますよ。」
「うそ〜ん。」
【2】
「さてと、本題に入りましょう飛田先生。まず、私に具体的に依頼したい事があるんじゃないですか。」
「そうだね。まず、お願いしたい事は、初任者研修ですね。」
「初任者研修…もしかして長沼先生の事ですか?」
初任者研修とは、一年目の教員が受ける研修の事で、学校外の研修と学校内の研修の2種類がある。おそらく、飛田は学校内研修の担当なのだろう。
飛田は、話を続けた。
「その通り。彼に授業の進め方を教えているんだけど、せっかくだから理科の先生の意見を聞きたくてね。そろそろ、都立入試も意識させないと行けない時期ですし、何か方法があれば教えて頂きたい。」
「それから、もう一つは朝学習についてです。今、朝の時間に読書をしてますよね。ですが、より学力アップを期待できるものに変えたいと思っています。何かいい案があれば。」
「お任せください。まずは、受験を意識させるための教科指導についてお話ししましょう。」
【3】
飛田との密談から3日後、長沼の授業スタイルが突然変わった。授業が始まるや否や、彼は生徒一人一人にノートを配布した。ノートの最初のページには、入試問題のプリントが貼られていた。彼は説明を始めた。
「では、皆さん。今日から応用問題を使って中学理科を復習していきます。今日は中学一年生の植物の復習です。」
これは、私が飛田に言って仕掛けてもらったものだ。私は飛田にこう言った。
「まず、長沼先生に過去6年分の都立の過去問と去年と都立模試の問題を解かせてください。
その中から、特に今年狙われそうな問題を30問厳選します。これを、週に2回から3回程度、授業開始の15分で取り組ませます、5分で解答、10分で解説と言った具合です。これが、入試への意識づけ教材『応用問題解決ノート』です!
使い方のポイントとしては、必ず見開きの左側に問題を貼り付け、右のページに解答と解説を書き込み、左ページの余白に重要事項を書き込ませます。
この教材は入試への意識づけが自然と出来ることと、受験勉強に対するモチベーションの向上が見込めます。まず、これを導入しましょう。もちろんこれは理科以外の科目でも使えます。」
私が今まで行ってきた学習法が、徐々に、この学年に導入され始めて行った。
【4】
次の日、いつも朝は読書のはずだが、今日はプリントが配られた。北野が不機嫌そうに言った。
「今日から読書の代わりに、このプリントをやります。今、配った文章を読んで、意見を200字でまとめて下さい。」
これは、都立の入試対策だ。都立の大門4では、毎年200字の作文が出題される。その練習をするとともに読解力を向上させる教材だ。私が知り合いから教材を提供してもらいそのデータを事前に飛田に渡していたのだ。だが、この教材には欠点がある。飛田もその事に気づいていたようで、密談をしたときに質問をしてきた。
「意見文の添削が結構大変で、北野先生が協力しないと思う。」
私は、飛田の懸念に対して自信満々に答えた。
「その場合は飛田先生が全て預かってしまってください。代わりに私が全て添削します!」
北野の不機嫌そうな様子から、おそらく意見文の添削は、こちらに回ってくるだろう望むところだ!
だが、私の仕掛けはこれだけでは終わらない。やるからには徹底的にやらせてもらう。
私は、週末に再び飛田を呼び出した。
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