報告25 二章エピローグ:修学旅行における生徒の変容
【1】
テーマパークの散策を終えた私たちは、宿に戻り、夕食を済ませた。その後、何をするのかを告げられることなく外の広場に集合させられた。今回引率に来た教員は5人いる、今この場には、北野、長沼と校長先生の3人がいた。残りは養護の先生、彼女は体調不良の生徒の面倒を見ているのだろう。だが、飛田はどこに行ったのだろう…?そうこう考えていると、長沼が話を始めた。
「皆さん、3日間どうでしたか?明日には、京都を出発して東京に帰ります。そこで、先生たちから君たちにサプライズを用意しました!!」
そう言い終わると同時に、大きな花火が打ち上がった。生徒たちの歓声が立ち込める。私たちは、それぞれ好きな場所で花火を眺めながらこの3日間を振り返っていた。
学校行事というものは、生徒自身や生徒間の人間関係に大きな影響を与える。しかしそれは、もうすぐ40を迎える私にも例外なく訪れた。
私は、上野に勉強を教え、水上にバドミントンを教え、そして戸惑った。自分のした事が、再び過去の悲劇を生んでしまうのではないか。だから、彼らと距離を取った。自分は教師として黒子に徹しよう、そう思った。しかし、この修学旅行で気づかされたのだ。こんな自分を彼らは友達だと思ってくれている。その期待には、応えなくてはならないだろう。
私は生徒の卒業メッセージにこんな事を書いていた、「過去に囚われず、未来に臆せず、今を生きろ。」だが皮肉にも、私自身が教員であった過去の為に、そして、自分がどうなってしまうのか分からない未来への恐怖の為に、今!私を大切にしてくれている友人と向き合わず、歩みを止めていたのだ。
孔子の論語には、こんな一節がある。「四十にして惑わず」不惑の四十ってやつだ。なんだよ、いい歳して全然、迷ってるじゃないか。
だからもう…。
目を背けることはやめよう!!!!
そんな事を考えていると、突然、上野が私に声をかけて来た。
「よ!北沢楽しんでるか!?」
私は笑みを浮かべながら言った。
「なんだよそれ。で、何の用だよ?」
「いや、とりあえず、今日のお化け屋敷でのこと謝ろうかと…。」
「なんだ、そんな事か。別にいいよ。元はと言えば、水上にちょっかい出したの俺なんだし。」
「なんかさ、1日目に不良やっつけてる北沢見てさ、お前でもそんな一面あるんだなって。今までは、実は見た目は子供だけど、中身は大人なんじゃないかって疑ってたけどさ」
「はは…。(大当だわ!!!)」
「でも、お前も俺たちと同じだ。大切な友達、いや相棒だ!そうだろ北沢。」
上野はそう言って、右手の拳を差し出した。私は彼のその誠意…いや、違うな。男の友情と言えば良いのだろうか、に応えるよう、拳を軽くぶつけて言った。
「ありがとう…相棒。」
「じゃ、俺、向こうに行ってくるわ。北野が手持ち花火配ってるらしいから。お前も行こうぜ。」
「そうだな…。」
そう言って私と上野は、手持ち花火をもらいに走った。
【2】
花火大会が終わった後、私はロビーに行き、待ち合わせしていた飛田に会った。飛田は私を見るなり話しかけてきた。
「教師も生徒から学べることはたくさんあるってのは、よく言ったもんだよね。2度目の修学旅行はどうでしたか?北沢さん。」
「悪くは無いですね。」
「大人の返事じゃないですか。中学生らしい返事でよかったんですよ、別に。さてと、本題に入りましょうか。」
私は飛田に一枚の紙を渡した。
「そのお店に来て下さい。代金はこちらで待ちますのでご安心ください。」
「日時は?」
「明後日は、修学旅行の振替休日なのでしょう?その日の19時からでいかがですか?」
「思ったより早いじゃないですか。気合入ってますね。」
「私は、クラスメイトたちとは一線を引いて接してきたつもりです。だから、先生のお誘いは断ろうと思っていました。ですが、今は少し考え方が変わりました。」
「ほう…。どう、変わったのですか?」
「そんな私に対しても友人と接してくれている、生徒…いや、仲間がいます。だからといって、私は彼らと本当の友人になることは、おそらく出来ないでしょう。だからせめて、私の持てる力の全てを使って彼らの力になりたい。そう思ったんです。」
「そうですか。それはよかったです。そう言えば、もう一つ伝えておく事があります。水上さんが君の事を探しててね。外に出てっちゃったから連れ戻してきて。」
「それ、使いっ走りじゃないですか…。っていうか何で外にいると思ったんだあの子は。」
そう言って、私は外に出た。
「さて、あの2人を見たい所ですが…。これ以上はやめておきますか。」
【3】
私は、宿の外に出て左右を見渡した。すると先ほどの駐車場で水上が星を眺めていた。はっきり言って似合っていない。けれども、その姿を私はどこかで見たような気がした。私は彼女に声をかけた。
「水上。なにやってんだ?」
「北沢?なんか、星が綺麗だったから。」
「星…好きなのか?」
「前にね、お姉ちゃんの学校行事で天体観測ってのがあって、一緒に参加させてもらった事があるの。その時の星が綺麗でさ…。それに、そのとき説明してくれた先生、お姉ちゃんの担任の先生だったんだけど、説明が面白くて、理科はあんまり好きじゃないけど、星を見るのが好きになったんだ。」
思い出した。あれは、私が水上の姉の担任をしていたときの事だ、当時は姉の桜が中2だったから、妹の千歳は小学生だ。私は確かに飛び入りで参加した小学生に星座の話や宇宙の話をした事を思い出した。もしかしたら、私がこの姿になって彼女と出会うことは、決められていた運命だったのかもしれない。そう思わされた。水上は話を続けた。
「あのさ…。北沢はこの学校に転校してきて良かった?」
「そうだな。おかげでたくさん良いものを貰ったよ。もちろん、水上からもな。」
「え?なにそれwww」
しばらくして、水上は口を開く。
「えっと、私は北沢が転校してきて嬉しかったよ。自分より強い相手が出来たし、真面目に練習付き合ってくれたし、それに引退試合も…。」
「受験終わったらまた、練習の相手してね。」
「ああ。」
「でもその前に、勉強も教えて…。」
「そうだな、そっちの方が心配だな。」
「それから……いや何でもない。そろそろ戻ろ?」
「そうだな。」
水上が、私のことをどう思っているのか、分からない。でも、いつか彼女が私に気持ちをぶつけてきたら、必ず答えよう。
この修学旅行で、私は決意というものを学んだ、そんな気がした。
【4】
部屋に戻ると、枕投げ大会が始まっていた。同じ生活班の篠崎が声をかけて来た。
「北沢!!ここは俺が食い止める!!お前だけでも生き延びてくれ!!!!」
「いや!どう言う状況!??入っていけないんだけど!!!」
私は深いため息をつきながら思った。
中学生ってバカだなぁ〜。でも、悪い気はしない。
こうして、2度目の修学旅行は幕を閉じた。
いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。
これにて、長かった修学旅行編はおしまいです。次回より新章スタートです。ご期待ください。
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