報告23 恋愛の教育的な意義について
【1】
「失礼します。校長先生お話というのは?」
「北沢先生、残念なお話なのですが、白河清くんが亡くなりました。」
「そんな…。」
私は何も考えられずに職員室に戻る。そこで先輩の先生が私に声をかけてきた。
「言ったでしょう!何もかも背負いすぎなのよ!!あなたが彼に介入しなければ、こんなことにならなかったのよ。」
「勝手すぎるんだよ!!!」
「うるせぇ!!!黙れ!!!!!!」
私は目を覚ました。最悪の目覚めだ。
【2】
時間は朝の5時半いつも通りの起床時間だ。私は昨日と同じくロビーのソファーに腰掛けた。だが、昨日とは違い勉強道具は持ってきていなかった。ここ最近、教員になったばかりの頃の夢をたびたび見る。あの頃は私も色々と無茶苦茶だった。そのためトラブルを起こし、公立の教員をあっという間に辞めて、私立の教員となった訳だ。
ともあれ、学んだことも多かった。生徒のために尽力する。大切なことだ、だが時に手段と目的が逆転してしまうことがある。
例えば、読書感想文の宿題などがその良い礼である。生徒に読書という機会に触れさせることが本来の目的であり、感想文はその証拠提出のようなものである。にも関わらず、あまりにも感想文を書く負担が大きいし、時間もかかる。それならば、その時間を読書に当てたような良いような気もするのだが…。
ともあれ私も生徒の成長を願って、面倒を見てきたが、知らず知らずに面倒を見ること自体が目的にすり替わっていたのだろう。そして、それは組織の人間関係をガタガタにするという最悪の結末を招いた。だからこそ、BestではなくBetterを探し、組織の歯車として機能することが大切なのだ。私が得た教訓は、生徒のためを考えるのであれば尚更、一歩引き冷静になるべきであると言うことだ。
そう物思いにふけっていると、昨日と同じように飛田が声をかけてきた。
「北沢くん。おはようございます。」
「さん付けしないんですね。」
「誰が見てるかわからないからね。それより、今日は勉強しないのかい?」
「私にもそういう気分の時だってあります。」
「そうか。さて、いよいよ修学旅行も折り返しだね。私もだいぶ疲れが溜まってきたよ。」
「特に公立中学校の修学旅行は大変ですからね。ほとんど寝れないって聞きますし。本当に頭が下がります。」
「ありがとう。やっぱり愚痴を聞いてくれる人が居るって良いもんだな。よくよく考えたら、1番歳の近い男性ってこの場では君だしね。変な話だよまったく。じゃ、私は旅行会社さんと打ち合わせしてくるよ。」
その場を立ち去ろうとした彼に私は声をかけた。
「飛田先生、一つ聞いてもいいですか?」
「なんだい?」
「先生言いましたよね?修学旅行って男女の距離縮まるじゃない?北沢くん告白されるかもよって。もし、先生が私と同じ立場なら教師としてどうしますか?」
「ふっ。難しい質問だね。でも、自分がどう思ったかって気持ちはきちんと伝えるかもね。」
そう言って飛田は去っていった。
そろそろ、こっちも決着をつけないとな…。
【3】
3日目の朝、昨日と同様にビュッフェ形式の食事だ。私は食事を摂りながら昨日の班別行動の事を考えていた。
水上が私に好意を持っている可能性が高い…。が、確信はまだ出来なかった。ただ一つ間違いない事がある。大塚が、私と水上をくっつけようとしている。よくよく思い返したら、新幹線でのポッキーゲームを提案した女子生徒に大塚が耳打ちをしていたし、今も私と水上に交互に目配りしている。
「ねえ、北沢くん。今日の千歳ちゃんの服どう?可愛くない。一緒に買いに行ったんだよ。」
ほら来た。私に可愛いと言わせようとしている。だが、私には…。
いい歳して独身である!!
というか、彼女出来たことない!!
こういうとき、素直にかわいいと言った方が良いのか。私は、飛田の「自分がどう思ったかはきちんと伝えたほうがいいよ。」と言った事を思い出す。そして私は、水上の格好を見た。なるほど、サイズもきちんとしているし、生地の質やデザイン、ワンポイントにちょっとした刺繍も入っている。なるほど、収入のある家庭なんだなぁ…。
「結構高かったでしょ。」
しまった!感想ではなく分析をしてしまった!!!そう思った時、端のテーブルから咳をしている飛田の声がした。彼はこちらを見ながら、むせていた。っていうか笑ってないかあいつ。
後で覚えてろよ!
【3】
私たちは、バスに乗り清水寺へと向かった。午前中は、この清水寺を散策することになっていた。クラスごとに一通りの建築物を見学しその後、自由行動になった。
私もここには仕事(修学旅行の引率)でよく来たものだ。正直見飽きている。私は清水寺でも有名な清水の舞台で特にやることもなくただただ景色を眺めていた。しばらくすると、私の元に飛田がやって来て話しかけて来た。
「どうしたの北沢くん?回らなくていいの?」
若干からかわれている。私は、呆れた様子で返事をした。
「ここには何回も引率で来ているんです。正直、見飽きましたよ。で、何のようですか?」
「そんなもんかねー。いやね、うちの部のお嬢様が君のこと探してたからさ。伝えようと思って。」
「お嬢様?」
飛田はそう言うと、何かに気がついたように後ろを見て言った。
「ほら、お嬢様が来たよ。」
「北沢、約束!」
そこに居たのは水上だった。飛田が私に言った。
「北沢くん、知ってますか?清水寺は、恋愛成就のご利益があることで有名なんですよ。」
こいつ、私をからかってやがる!そんなことくらい知っとるわ!!本当に後で覚えてろよ!!
「悪い、今行く。」
私は水上の元に走っていった。
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