報告22 友情についての考察
【1】
「北沢さん。私と組みませんか?」
確かに飛田はそう言った。私はその言葉の真意を掴みきれずにいた。
「どういう事でしょうか?」
「青葉学園での君の活躍はよく知ってるよ。ここ数年で偏差値も急上昇してるしね。だから、仕事を手伝ってもらおうと思って。」
飛田は話を続けた。
「北沢さんもう、うちの学年が問題だらけなのは気づいているんじゃないですか。」
「ええ。先生の前で、こんなこと言うのも申し訳ないですが酷いもんです。」
「む…。ずいぶんストレートに言いますね。でも、あなたの言う通りです。特に教員間の連携がガッタガタです。ここまでひどいのは私も初めてです。情けない話、進路指導どころの話じゃないんです。でも、もしここであなたが協力してくれれば、今の生徒たちも救えるかもしれません。」
確かに彼の言う通りだ、この学年は連絡系統すら危うい。現に、荷物の積み込みの件は、私たちのクラスに伝わっていなかったし、修学旅行の事前学習は遅れに遅れて結局宿題になっている。私はこの学年主任に哀れみさえ感じていた。飛田は愚痴をこぼすかのように話を続けた。
「先日、北沢さんが理科の授業で試薬を作るの手伝ってましたよね。昼休みに担任に呼び出されたやつ。あの後、長沼さん(北沢の理科を担当していた先生)北野さんにボロクソに言われてね。誰にでも失敗はあるし、彼まだ新人なのにね。私もフォローしたつもりなんですが…。」
「彼女が全く言う事を聞かないんですね。」
「ええ。でも一番心配なのは進路指導です。この間、進路希望調査書を提出したよね。彼女それもちゃんと有効に使えるのか心配なんです。経験だけで語っちゃうから。だから、きちんと進路指導について知識のある人がフォローしてあげないといけない。そこに、ちょうどあなたが現れてくれたってわけです。どうでしょう、あの子たちの進路指導をしてみませんか?」
「私を呼び出して、こんな話までして…。そんなに北野先生の指導はひどいって事ですか?」
「まあ、あまり言いたくはありませんが…。それに、私は、利用できるものは、利用するたちなので。あなたは今、中学生と言う事になっています。私が、どこでどんな密談をしてそれが漏洩したとしても、その内容を誰も信じないでしょう。どんな悪巧みもしたい放題です(笑)」
「私も大概ですが、あなたも相当ですね。」
「お返事や具体的なお話は東京に戻ってからにしましょう。もちろん、見返りも用意するつもりです。なんならお酒でも飲みながらね。さて、悪巧みについてはここまでです。もう少し聞きたいことがあるのですが良いですか?」
「なんでしょう?」
【2】
「いや、これは単純な興味なのですが、学校卒業後の進路はどうするのですか?」
「まだ考えられていないんです。とりあえず、せっかく貰ったチャンスです。教師以外の仕事を目指しても面白いかなとは思っています。むしろ、飛田先生あなただったらどうしますか?」
「私は、この仕事しか出来ませんよ。きっともう一度教師をするのでしょうね。それから、もう一つ聞いていいですか?」
「北沢さん…。いや、北沢くん。新しい友達は出来ましたか?」
「…………。」
返す言葉が見当たらなかった。気づけば、飛田の様子がいつもの調子に戻っていた。
飛田は私に続けて言った。
「確かに、あなたにとってクラスメイトの友達を作る事には抵抗があるかもしれません。ましてや、あなたは教師ですしね。でも、あなたを大切な友人だと思ってくれている人がいる事は決して忘れないで下さい。そしてその子の貴重な時間の一部はあなたは共有しているんです。この事だけは言っておきます。」
彼の言葉に、私の心は動いた…訳ではなかったが、少し安心した気持ちになった。彼の言う通りだ、私は今までクラスメイトに影響を与えすぎてしまう事にひどく怯えていた。今後もそれはきっと変わらない。なぜなら、彼らの時間は私と違い戻ってこないのだから。それでも、そのことから目を晒し考える事を私は辞めていた。これからは、きちんと向き合っていこう。そう心に決意した。
「それでは、そろそろ生徒のところに…いやクラスメイトのところに戻ります。お返事はまた今度別の場所にしましょう。良い店を知ってるんです。久々に大人と話せて気が休まりました。ありがとうございます。では、失礼します…。」
「ええ、こちらこそありがとう。」
私は部屋の扉を静かに閉めた。
【3】
私は部屋を出て部屋に戻ろうとしたが、飛田からもらった缶コーヒーを右手に持ったままである事に気がついた。仕方なく私は、一階にある自動販売機横のゴミ箱に空き缶を捨てに行く事にした。そこには、ジュースを購入してる上野の姿があった。上野は私を見て声をかけてきた。
「北沢、飛田に呼び出されたんだろ?大丈夫か!?まさか、京大に行ったことがバレたとか?」
「いや、そんなんじゃなかったよ。別に怒られた訳でもないし。」
「そうか、なら良いんだけどさ。」
上野はそう言って、ロビーのソファーに座った。私もソファーに腰掛ける。私は彼のことで気になっていることがあった。そのことについて、良い機会だと思い質問した。
「なあ、上野。どうして、サッカー部の奴らじゃなく俺と同じ班に入ったんだ?」
上野は、サッカー部の部員だ。それに部員同士との仲も悪くない。大浴場で他の部員と一緒にふざけていたのがその証拠だ。にも関わらず、同じ行動班になっていたことに私は疑問を持っていたのだ。上野は少し照れ臭そうに答えた。
「だってさ。俺がいないと北沢は1人になっちゃうだろ?確かにサッカー部の友達は大切だけど、それと同じくらい、北沢も大切だし感謝してるんだぞ。」
ああ。そうか、お前はずっと友達でいてくれたんだな。こんな、私のことを思ってくれていたのだな。
「ありがとう…上野。」
無意識に言葉が漏れ出した。彼とどのように接するべきか、今後も悩み続けるだろう。しかし私は、彼のために友人として接していかなければならないと心に決めたのだった。
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