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報告18 しりとりで理系用語を禁止にした方が良い理由

北沢先生の用語解説


リュードベリ定数とは

原子の発光と吸収スペクトルの関係式に用いられる定数の名前。高校物理の原子分野で登場する。

【1】

 私は、ある神社の境内で佇んでいた。班別行動で、この神社に来ることを決めていたのだ。この神社に来れば、私がなぜ子供の姿になってしまったのか、その理由を探ることができるような気がしたからだ。だが、この神社の名前がなぜか思い出せない。なぜか、意識が混濁している。

 私は、お参りを済ませた後におみくじを引いてみる事にした。そこにはこう書かれていた。


ウマレカワッタイミヲ、カンガエロ…。


私はその言葉に恐怖を抱きながらも、そのおみくじを裏返した、そこには、さっきまで書かれていなかった文字が浮かび上がっていた。


オマエガスルベキコトハナニカヲ、カンガエロ…。


私はそのおみくじを見て、今まで抱えていたものをいっぺんに吐き出した。


「ふざけるな!!何をしろっていうんだ!!!」


 突然視界が明るくなり、意識が鮮明になる。そして気がつくと、宿の部屋の布団にくるまっていたことに気がついた。


…なんてひどい夢なんだ。


時計を見ると、時計の針は5時半を指していた。私がいつも起床する時間だ。どうも二度寝する気にはなれない。私は、問題集と筆記用具を持ってロビーに向かった。


 この身体になってからずっと、毎朝決まって、理系教科の勉強をすることが日課になっていた。私は、いつものように数学の問題集を開き問題を解いていた。しばらくして、誰かが近づき、声をかけて来た。

「北沢くん、それは…定積分の計算かい?」

飛田だった。私は答えた。

「はい。いつもこの時間は数学の勉強をするって決めているので。」

「数学の勉強ねぇ…。数学は得意かい?」

「物理や化学の方が得意ですかね…。(本業そっちだし…。)」

「そうかい…。まあいいや、夢中になりすぎて朝食に遅れないようにね。」

飛田は静かに去っていった。



【2】

 朝食は、バイキング形式で皆、好きな料理を皿に盛り付け行動班ごとに席につき朝食を摂っていた。今日は行動班ごとで1日行動する班別行動の日だ。班別行動への期待に胸いっぱいの様子が各テーブルから伝わってくる。そんな様子を微笑ましく思いながら、私はサラダを口に運んでいた。上野が私に声をかける。

「北沢って見かけによらず、結構食うよな。」

「そうか?お前らが食わないだけじゃないか?」

素性を隠すために、割と嘘をついている私だが、今回言ったことは本心だ。最近の中学生は食べる量が減っていると私は感じていた。食材の値段が昔に比べて高騰したからだろうか?だとしたらかわいそうな話である。私は、そう思いながらブラックコーヒーを啜った。

 

 すると、反対側で水上が渋い顔をしていた。よく見ると彼女もブラックコーヒーを飲んでいる。私の行動を真似しているのかも知れない。このような行動はミラーリングと呼ばれており、相手に親近感を持たせたり、好意を抱かせる働きがある。もし、そのような意図で彼女が、コーヒーを飲んでいるのなら、私の悩みの種が増えることになるのだが…。ああ、今度は無理やり飲んでむせてしまっている。これは、班別行動で少し彼女の言動を観察した方が良いだろう。それにしても…。不覚にも、ちょっとかわいいと思ってしまった。



【3】

 いよいよ班別行動が始まった。これから私を含めた4人で行動する事になる。まず私たちは金閣寺を見ることになっていた。宿の近くのバス停からバスに乗り、概ね40分と言ったところだろう。私たちは1番後方の長い椅子に横一列になって座った。バスが走っている道中、暇つぶしにしりとりをしようということになり、大塚、水上、私、上野の順番でしりとりをしていた。私は、上野をせかした。


「ほら上野の番だぞ。」

「えっと…。ムササビ!」

「ビー玉」「まり」「リチウム」


「む!?えっと…むかしばなし!」

「鹿」「カモメ」「メンデレビウム」

「メンデレビウム!?なんだよそれ?」

「原子番号101番の元素だよ。どうした上野?頑張れよ。」


「えっと…ムカデ!」

「電気」「キャンプ」「プルトニウム」

「ちょっと待て!元素禁止!!!」

上野が不満そうに言った。私は笑いながら返す。

「プルトニウムが元素だってよく分かったな。すごいぞ上野。」


「流石に10回連続でやられたら解るわ!!」


「いいだろう。それじゃ、元素は禁止にしよう。”プ”だったな。それじゃ、プランク定数」


「ウニ!」「入道雲」「森」


「リュードベリ定数」


「もうこいつの隣、イヤだ!!!!!」


 そんなやり取りをしながら、私たちはしりとりをした。なんだかんだ3人とも楽しそうに笑っている。その笑顔がとても眩しい。そう、私には眩しすぎるのだ。私と3人のこの距離感に寂しさを感じながら私たちはバスを降りた。



【4】

 バス停を降りるとすぐそこに金閣寺の入り口がある。私たちは入場料を支払い、中に入った。正直なところ、私はあまり関心がなかった。いくら外側が金だからと言っても、建物を外から眺めるだけというのは面白くないと感じていたからである。3人は結構はしゃぎながら金閣寺の写真を撮っている。その温度差の中で、私は金閣寺を取り囲む池の水面みなもを眺めていた。そこで私は、興味を引くものを発見する。


 池には、関東ではあまり見られない黒い色の水鳥が泳いでいた。この水鳥は、オオバンという名前で、東京ではほとんど見られない。私は、思わずスマホで写真を撮ってしまった。私は、今まで珍しい生き物を見ると授業のネタに使えるかもと思って写真を撮りためていた。今回も条件反射で写真を撮ってしまったのだが…。


もう、教師じゃないんだよな…。


少し寂しい気持ちでまた水面を眺めていると、水上が私に声をかけて来た。

「北沢、鳥が好きなの?」

「いや、別に…。」

「あっそ…。」

「……。」

水上は話したさそうにしているが、言葉が出てこないようだった。私は水上に話しかけた。

「せっかく来たから班で写真撮ろうか。」

そう提案すると少し水上の表情が明るくなったように感じた。


いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 不器用ながら、ちゃんと青春しているところですね。 [一言] しりとりとしてはある意味反則負けですよね。
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