報告14 修学旅行前夜における生徒の行動について
北沢先生の小話
ちょっとどうでもいい設定について。
どうも北沢です。この話の登場人物の名前についてちょっとした小話をしたいと思います。
気づいている方もいるかもわかりませんが。登場人物の名前は全て首都圏ほ駅名で構成されています。今のところ、命名に使わせていただいた路線は以下のようになっています。
京王線・京王井の頭線・京王相模原線
JR山手線
東京メトロ 半蔵門線
今後路線は増えますが…
例えば、私、北沢明は…。
上北沢、下北沢の北沢と、明大前の明からとっています。他にも
飛田領 → 飛田給・国領
水上千歳 → 桜上水・千歳烏山
上野 → 上野 そのままですね
また、路線によって登場人物の役割を振り分けています。水上だけ例外ですが、これは物語を作る上での諸事情です。もし良ければこの事も含めてお楽しみください。
【1】
次の日に私は、四人で作成した班別行動の計画書を北野に提出し、事なきを得た。後は、修学旅行本番を待つばかりである。
それから数日経ち、修学旅行を来週に控えた日曜日。私はタクシーに乗ってある場所に向かっていた。それにしても、制服姿の中学生が付き添いもなしにタクシーを利用するとは、運転手もさぞ不思議だろう。そしてちょっと気まずい。
次第に、窓に写っていた建物の数も次第に少なくなり、人通りの少ない道を進み、やがて車は目的地に着いた。周囲には建物もなく、とても静かで穏やかな場所だ。私は迷いなく奥に進む。その奥には墓地がある。私は、毎年この時期にこの墓地に訪れるのだ。いつもはスーツで来るのだが、今年は仕方なく学校の制服を着てここに来た。
「やっぱりこの墓はあるんだな…。」
白河家と書かれた墓石の前で、つい呟いてしまった。この体が中学生に戻るなんて、超常現象が起こったのだ。彼が亡くなったという事実も消えているのではないかと淡い期待をしていたのだが…。それは期待でしか無かったようだ。私はいつものようにその墓に花を添え、線香を焚き、拝むのだった。
「さて、そろそろ帰るか。」
そう思った矢先だった。私は見慣れた人影を目にした。私は、駐車場付近の自動販売機でコーヒーを飲んでいたその人物に近づき声をかけた。
「飛田先生、どうしてこんなところに。」
「え?北沢くん!?」
私は飛田に挨拶をした後に少し世間話をした。彼もこの時期に毎年墓参りをしているらしい。しばらく話をしていると飛田が私に質問してきた。
「それにしても一人でどうやってここに来たの?」
「えっと…。タクシーを使いました。」
「タクシー!?リッチだね。…帰り、最寄り駅まで送ろうか?」
飛田が提案してきた。すかさず返事をする。
「いえ、悪いですよ。」
「いや、なんか心配だし。乗ってきなよ。」
「そうですか…。」
私は、内心ついてると思いながらも飛田の好意に甘え、私たちは墓地を後にした。
【2】
私は車の助手席に座り外の景色をぼんやり眺めていた。しばらくして飛田が私に話しかけてきた。
「修学旅行も近づいてきたね。楽しみかい?」
全く困ってしまう質問だ。三十過ぎたオッサンが修学旅行というのも複雑な気分だ。これは、正直に答えた方が良いのだろうか。中学生らしい答えを返すべきだろうか?
「まぁ…。」
私は、お茶を濁すような返事をした。
「なんか微妙な返事だね。先生から言うのもなんだけどさ、修学旅行って男女の距離縮まるじゃない?北沢くん告白されるかもよ。もっと楽しく行こうよ。」
「藪から棒に何言ってるんですか!」
だが、確かに可能性は0ではない。しかし、そうなったらどうするんだ!?これでも元教師だぞ、どうすればいいんだ?付き合うのか?あまり考えたくは無いものだ。それに、クラスメイトを一度も友人として見たことは無く、生徒のように感じていた。それにクラスの女子たちを想像してみても…。私は呟いてしまった。
「無いな…。」
「君の方が酷いこと言ってない!?」
私と飛田の談笑は続いた。飛田がまた口を開く。
「それにしても北沢くん。中間試験の結果素晴らしかったよ。それに英検二級も合格したんだってすごいじゃないか。」
「そのせいで、北野先生と揉めましたけどね。」
「ああ。すまなかったね。私からも彼女には言っておいたからさ。」
「あの。生徒にそんな事、言っていいんですか?」
「いや、ほら北沢くん大人だからさ。」
「え?」
「冗談だよ。」
この人は一体何を考えているのだろうか。私にはさっぱり読めない。そんな私の困惑とは裏腹に彼は話すことをやめなかった。
「ところで、数学の出来も良かったよね?テスト満点だったし。もしかして数学検定とかも受けたんじゃないの?」
「はい、受けました。」
「やっぱり。で、何級受けたの?準一級とか?」
「よく分りましたね。準一級受かりました。」
「冗談のつもりだったんだけどな…。」
「あの、そう言えば気になることがあるんですけど」
私はふと、ある事が気になり飛田に質問した。
「なんだい?」
「最近の修学旅行は荷物を事前に宅急便で持っていく場合が多いですよね?うちの学校はやらないんですか?」
「え?明日の朝積み込みだよ?話聞いてなかったの?っていうか先週プリントも作ったと思うんだけど…。」
「いえ、北野先生言ってなかったですし、プリントも配り忘れてます。」
「あぁぁぁぁ!!!!」
人って追い詰められると叫ぶんだな…。実は、積み込みの日程を他クラスから確認して全員にこっそり連絡したけど、面白そうだからちょっと黙っとこう。それにしても、この学年主任、本当に大変だな。私だったら精神が持たないかもしれない。
【3】
一方その頃、水上と大塚は修学旅行の服やら何やらを準備する為、買い物をしていた。買い物を終えた2人は、喫茶店で飲み物を飲みながら話をしていた。
「それにしても、明日荷物の積み込みだったなんて、誰かが教えてくれなかったら大変だったね。」
大塚が言った。
「確かに大変な事になってたかもね。慌てて買い物したから本当に疲れた。服選ぶの手伝ってくれてありがとう。」
水上はそう言って礼を言った。
「でも、ずいぶん急な話だったね。何かあったの。」
「実は昨日お姉ちゃんにさ…。あなた、その服で修学旅行行く気?日曜日にちゃんと服買ってきなよ。って言われて。」
「別に、普段の私服、そんなに悪く無いと思うけどな。なんでそんな事言ったんだろう?やっぱり修学旅行だから?」
「…うーん。」
水上は口をつぐんで黙ってしまった。その様子を見て大塚は何かを察したのか、それ以上聞かなかった。
「ただいま。」
水上はそう言って、家の扉を開け、自分の部屋に買ってきた服やら何らやを持ち込み整理し始めた。これから、荷造りをしようとしたそのとき、姉の桜が部屋に入ってきた。
「千歳、帰って来たの?ちゃんと服買ってきた?」
「もー。買って来たよ。そんなに楽しい。」
「妹から、好きな人出来たなんて言われたの初めてだからね。」
「……。」
水上はいつもの仏頂面を姉に見せつけた。
「ほら、その顔やめなさい。可愛く無いわよ。笑顔だよ、笑顔。修学旅行で告白するんでしょ?」
「し…しないよ!!」
水上は顔を赤くしながら言った。
【4】
修学旅行前日、この日は授業を午前中に切り上げて、明日の確認を行いそのまま帰された。帰宅してすぐに私は、ある場所へと出かけた。電車に乗り数分、私が向かった先は、この生活が始まったきっかけとなったあの神社だった。特に何もすることなく、神社の外れにあるベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲みながら考え事をしていた。
私は、このまま中学生の姿で過ごすのだろうか?それとも、いつか大人の姿に戻るのだろうか?別に、元の姿に戻る事について肯定的でも否定的な訳でもない。しかし、いつか、それも近いうちに大人に戻ってしまうのであれば、今のクラスメイト達はどうなってしまうのだろうか。私に関係する記憶は消えるのだろうか?いや、中学生の姿になったときには、みな私についての記憶があった。その線はないだろう。だとすれば、私はこのままクラスメイトと関わって良いのだろうか。ましてや、飛田の言っていたように、恋愛感情を私に抱いているものが万が一現れたら、その子は辛い思いをするかもしれない。私はどうするべきなのだろうか。
私の頭の中では、今後の未来はどうなるのか?そうなったときのクラスの生徒はどうなるのか?私はどう立ち回れば良いのか?何度も思考がループした。気づけば日が暮れている。結局、考えたところで結論は出せなかった。
私は、帰宅後すぐにパソコンを起動させ、あるホームページを眺めていた。そこに、自分の求める答えがあるかもしれない。そう思いながら、ビールテイスト飲料を飲み干す。それは、修学旅行の班別行動で立ち寄る神社について記載された記事だった。私はその記事を眺めながら、固まらない決意を胸に抱き眠りについた。
いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。
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