報告123 千歳の計画
報告122の選択肢でBを選んだ場合、こちらの章になります。Aを選んだ場合の結末は終章Aをご覧ください。
【1】
次の日から私は、学校に登校し始めた。私が、早めに教室に向かうとそこには、ただ一人机で勉強をしている生徒がいた。私はその彼に話しかけた。
「おはよう上野。がんばってんな。」
「ああ・・・おはよう。都立入試もうすぐだからな。必死だよ。」
「さてと・・・約束通り勉強を教えよう!」
「ああ!!頼む!!」
私は、上野と都立入試までの間、勉強を教える約束をしていた。上野は、自分の取り組んだ予想問題の中から解けなかった問題をひたすら私に質問してきた。私は、その問題を解説し、問題集から類似問題をひたすら引っ張り出し解かせていった。ふと、上野がこんなことを言い出した。
「懐かしいな……。覚えてるか?」
「何をだ?」
「北沢が転校してすぐ、俺に英語教えてくれたことあったろ?」
「もちろん覚えているさ」
「俺、北沢が居なかったら、一生英語に苦しめられたかもしれない。北沢のおかげで英語が好きになったし、これからも英語を勉強したいって思うようになった。あんなに嫌いだったのにさ。ほかの人から見たら大したことはないんだろうけどさ、俺にとっては奇跡なんだよ。」
「奇跡か……」
上野の言葉は、私の心をじんわりと温めた。こんな、穏やかな時間がこれからも続いてほしいものだ。
しばらく上野に勉強を教えていると、知らぬ間に朝の会の時間になっていた。私と上野は、慌てて席についた。そのとき、誰もが異変に気付いた。教卓の前に居るのが、飛田ではなく副担任の先生なのである。今日は、休みなのだろうか?千歳は、副担任の先生に質問する。
「平山先生、飛田先生はお休みですか?」
「……………飛田先生は……。しばらく学校をお休みすることになりました。」
副担任のその言葉に、クラス中がどよめいた。それを受けてか、平山は私たちにフォローを入れる。
「卒業式までには、戻ってくる予定ですから。安心してください!」
平山のその言葉に、クラスの大半が安堵したが、私はその時、気づいていた。平山の言ったことがおそらく嘘であることに。だが、それをクラスの生徒に伝えるわけにもいかない。それに、これはあくまでも仮定の話で、もしかしたら戻ってくるかもしれない。私は、自身の予想が的中しないことをただ願うばかりだった。
【2】
放課後になり、私は何人かのクラスメイトに勉強を教えていた。皆、都立の一般入試を受験する予定の生徒たちだ。とはいっても、もう付きっ切りで教えてはいない。本当に躓いているところを解説するだけだ。数分も立たないうちに、一人また一人とスクールの自習室へと移動していった。1時間ほど解説をしたころだろうか、質問をしてきた全員が下校した。私は一息つき、部活に行こうとすると、練習着の恰好をした千歳が、教室に入ってきて言った。
「終わったの?」
「ああ。ちょうど終わったところだ」
「また、部活に来ないのね」
「ああ、すまん。勉強教えてた。今から行くよ」
「あきれた。そんな風に練習さぼってると、今度こそ私に負けちゃうかもよ」
「うむ……そうかもしれないな」
「ねぇ、北沢……。都立の一般入試の日、部活あるよね。その日に試合をしない?」
「別に構わないぞ、なんならこの後でも」
「いや、今はまだいいの。練習したいから。覚えてる?前にテストの点数で勝負をして私が負けたじゃん?だからリベンジしたいの?」
「もしかして……。」
「勝った方が、一つ相手の言うことを聞くっての、もう一回やろうよ」
私は、少し考えてから千歳に言った。
「いいだろう」
「今度は負けないからね」
「それは楽しみだ。それじゃ、練習に行こうか」
【3】
私と千歳が体育館に向かうと、体育館で部員たちが休んでいた。飛田が学校を休んでしまったため、統制が取れなくなっている。おそらく、何を練習したらいいかわからないのだろう。千歳が私を迎えに来たことも納得がいった。千歳は、ひとまず部員全員を集め、私に尋ねる。
「北沢、これからどうしよう?」
「とりあえず、ノックやっとくか…………ん?」
私は、部員の中に大崎が混じっていることに気が付いた。そういえば、彼も部員だったのか。彼が、転生する前もバドミントン部だったか。あの時は、一度でいいから彼と試合をしてみたいと思ったものだ……。いけない、つい思い出に浸ってしまった。私は、ノックの準備をし、順番に練習をみていった。
ノック練習が終わり、休憩をしていると大崎が小声で私に話しかけてきた。
「北沢先生……俺と試合してみませんか?」
私は、小さな声で返した。
「構いませんよ。やってみましょうか。」
私は、高をくくって大崎と試合をしたのだが……。
「21ー18ゲームセット!」
「あ……あぶなかった……」
私は、手の甲を額に当てながら、肝を冷やしていた。確かに私の練習不足もあるだろうが、単純に彼が強かった。いや、もともと彼の方が練習量が少ない。もしかして、実力は上なのかもしれない。焦っている私の元に、大崎が近寄り言った。
「これでも……30年生きてますから」
「え!怖っ!!!」
練習が終わり、私や大崎は更衣室に向かおうとした。そのとき、千歳が大崎を引き留めて言った。
「大崎、ちょっとお願いがあるんだけど。」
「おお……なんだ?」
「ちょっと来て」
千歳は大崎を体育館の隅に連れて行って言った。
「私、北沢に勝ちたいの。特訓に付き合ってくれないかな?」
「北沢に?……別に直接北沢に教わればいいだろ。たぶんちゃんと教えてくれると思うぞ」
「北沢の力なしで勝ちたいの!」
「う~ん。そうか……とりあえず、練習のない日は近くの体育館に打ちに行くか」
「うん。ありがとう」
私の知らないところで、千歳の計画は着々と進行していった。
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