報告127 壊れていく日常
報告122の選択肢でAを選んだ場合、こちらの章になります。Bを選んだ場合の結末は終章Bをご覧ください。
【1】
……ガバッ!!!
私は、意識を取り戻し、勢いよく体を起こした。そこは、どういうわけか自宅のソファーの上だった。慌てて、部屋の中を探し回ると、自分の寝室に寝ている千歳の姿が目に映った。そして、彼女の姿は元の中学生の姿に戻っていた。あれは……夢だったのだろうか。あらゆる可能性を考えてみたが、答えは見つからなかった。しばらくして千歳も目を覚まし、私に言った。
「ん?あれ……?元の姿に戻ってる。」
その口ぶりから、千歳が大人の姿になってしまったことは、夢などではなかったらしい。私は、彼女に声をかけた。
「ああ。目を覚ましたか。もとに戻ったみたいだな」
「うん……。でも北沢も……」
「……え?」
千歳にそう言われた私は、慌てて自分の姿を確認した。その姿は、中学生になったいつもの恰好に戻っていた。どうやら、私までもが元に戻ってしまったらしい。ともかく、私はスマートフォンをとり、桜に事態が落ち着いたことを連絡した。これなら、明日から学校に通えそうである。私は、桜との通話を終えてソファーに腰かけ一息ついた。その様子を見た千歳が、私に尋ねる。
「結局、元に戻っちゃったね。ごめんね……」
「千歳が気にすることはないさ。とりあえず、明日から学校に通えそうだな。」
全てが、元通りになってしまったものの、再び平穏な日常を送ることが出来そうだ。私は、そう安心しきっていた。
【2】
次の日、私は再び学校に登校した。教室に入ると上野が私に声をかけてきた。
「北沢、なんで昨日休んだんだよ!!水上も休んでたし……。さては、学校さぼってデートしてただろ……って痛ってー!!!!」
上野は、背後に居た千歳に頭をひっぱたかれた。私は、その様子を見てどことなく安心感を感じた。彼らと過ごすのも、あと数週間。そう思うと、こんな些細なやり取りすら、切なくなるものだ。そうやって思いにふけながら、1年間過ごしてきた教室を見回し、思い出に浸ってみた……そのとき、違和感に気づいたのだ。
座席が1つなくなっている……。
私は、その異変に気付き、教卓に置かれている座席表を確認した。間違いない。クラスの座席表から大崎の名前が消えている。私は、慌てて上野に確認する。
「上野、大崎はどうしたんだ?」
すると、上野はとんでもないことを口にした。
「大崎?誰だそいつ?」
………!!!?
どうやら、とんでもないことが起こっている。私は、すかさず職員室にある出席簿を確認したが、やはりそこに、大崎という文字はなくなっていた。私は、廊下に千歳を連れ出して確認する。
「千歳、大崎が居ないのに気付いているだろ?」
「うん……なんか元々存在していないみたいになってるけど、一体どうなってるの?飛田先生も学校に来なくなっちゃったし……。」
私は、千歳のその言葉に血の気が引くのを感じた。
「まさか……。」
私は千歳の手を引っ張り、職員室の扉に張られている先生の座席表を確認した。そこには、私の恐れていた事態が現実のものとなって表れていた。座席表から、飛田の名前が消えている。それも、始めから存在しなかったかのように。そのありえない出来事に、私の視界はグラグラと歪んだ。恐る恐る、スマートフォンに登録していた飛田の電話番号に電話をかけると……。
「もしもし、北沢さん?どうしたんですか、電話なんかかけて?」
お前、居るんかい!!!!!
……とツッコミを入れたいところではあったが、私は飛田に質問した。
「飛田先生、今どこに居るんですか?」
「え?どこって、普通に仕事場で仕事していますよ?」
「…………………………………。」
私は、その言葉を聞き、スマートフォンを切った。どうやら、事態は面倒な方向に進んでいるようだ。私のただならぬ様子を見て、千歳が話しかけてきた。
「飛田先生とは連絡取れたの?」
「ああ。連絡はとれたが……。どこにいるかさっぱりわからない。俺たちは、元の姿に戻ったが、まだ解決してないみたいだ。なんとかしないと!」
私は、千歳にそう言い残し、ある場所に向かって走り始めた。
「ちょっと!北沢、どこに行くの!?」
【3】
私が急いで向かった先は、例の神社だった。私は、リュックから財布を取り出し、小銭を賽銭箱にいれ、目をつむり拝んだ。しかし、非常なことに何も起こらない。それでも、私はめげずに、小銭を賽銭箱に入れて再び拝む。何回同じことを繰り返しただろうか。しまいには、小銭がなくなりお札を賽銭箱に入れ、必死に拝んだ。
私のことは、どうなってもいい。だが、大崎は……彼だけはせめて、戻ってきてほしい。彼は、今まで散々な目に遭ってきた。ようやく、前向きに人生を歩めるはずだった。だというのに、この仕打ちはあまりにも残酷すぎる!私は、必死に拝んだが、その願いは一向に届くことがなかった。私は、神の非情さに腹を立て、賽銭箱を思わず蹴とばしてしまった。すると、後ろから声が聞こえてきた。
「北沢……。」
私が振り向くと、千歳が呆然と立ち尽くしていた。今の私には、彼女に気を使っている余裕などなく、新たな手掛かりを探すために、何も言わずその場を立ち去ろうとした。だが、慌てていたことが原因だろう、石に躓き派手に転んでしまった。そんな私を見て、千歳が近寄って声をかける。
「北沢!!大丈夫!!」
千歳は、私が落としてしまった財布を拾い手渡しながら言った。私は、財布を受け取り千歳に言った。
「すまない……千歳。ありがとう」
そのとき、私は財布から1枚の紙きれがはみ出ていることに気が付いた。それは、修学旅行の時に引いたおみくじだった。私は、なんとなくそのおみくじの内容を改めて見ることにした。
…過去の行いを振り返るべし。
おみくじに書かれていたその記述を読み、ある場所に向かうことを決意した。そのときだった。千歳が私の袖をつかみ言った。
「私も連れてって。」
「……いいのか?面倒なことに巻き込まれるかもしれないぞ?」
「私は…大丈夫だから。」
「わかった。一緒に行こう」
私と千歳は、神社の近くでタクシーを捕まえ、目的の場所へと向かった。そのタクシーの中で、千歳は私のおみくじを見ながら言った。
「過去の行い……だってさ。これからどこに行くの?」
「年に1回、必ず行く場所があるんだ。自分が、かつてしてしまった過ちを忘れないために。」
「過ち?」
「そうだ。俺は、かつて取り返しのつかないことをしてしまったんだ。」
突然、タクシーが止まり、運転手が目的の場所に着いたことを私たちに告げた。私は、運転手に運賃を支払うと、千歳を車の外に連れ出して言った。
「詳しいことは、歩きながら話す。ついてきてくれ。」
報告122の選択肢でAを選んだ場合、こちらの章になります。Bを選んだ場合の結末は終章Bをご覧ください。