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報告124 複雑な状況

【1】


 静かに目を開くと、そこにはさっきまで居た神社の賽銭箱が目に映った。すぐに私は、自身の体を見回し確認する。その体は、すっかり成人男性のものに戻っていた。しかも今回は、リクルートスーツのおまけつきだ。私は、自分の手のひらを見つめながら、今後どうするかを考えていると、背後から声が聞こえてくる。


「きたざわぁ~~~。」


その声は、聞き覚えのある声だった。それにしても、なぜか困っているような様子の声である。私はその声の主を確認するため振り向くと、その意味不明な状況に思わず声が漏れた。


「・・・・・・・・え?・・・誰?」


そこには、見覚えがあるようでない大人の女性が立っていた。そして、私と同様にリクルートスーツを身に着けている。その女性は、私に言った。


「誰ってひどくない!?わたしだよ・・・・・。」


「え・・・・!?千歳!!?」


やはり、この神社の神様は性格が悪いらしい。



どうすんだよこれ!!!




 色々と考えた結果、ひとまず弟に迎えに来てもらうことにした。しばらくして、神社に弟が姿を現す。弟は、元の姿に戻った私を見るなり駆け寄ってきて言った。


「兄さん!!元の姿に戻ったんだね!?」


「ああ・・・それはいいんだが・・・。」


私が、千歳の方に目線を送ると、弟は私に質問した。


「で、兄さん。こちらの方は?」


千歳は、弟に言った。


「北沢のお父さん。こんにちは。」


「え!?な・・・何を言ってるんですか。」


「いや、実は私が大人の姿に戻ったと同時に、今度は千歳が大人の姿になってしまったんだ。」


「え!?千歳ちゃんなの!?」


「とにかく、場所を移動しよう。落ち着いたところで話がしたい。それに腹も減ったしな。」


「わかったよ。それじゃ、行こうか。」



【2】


 時刻はとっくに夕刻を迎えていた。私たちは、弟が用意したタクシーに乗ってとある飲食店に向かった。私たち3人は、食事をしながら今後のことについて話していた。弟が私に言った。


「それにしても、今度は千歳ちゃんが大人の姿になるだなんて。」


「まったくだ。というか、あの神様は何なんだ!?本当に飛田みたいなやつだな!!!」


「確かに・・・・。」


一方で千歳は、私たち兄弟が愚痴をこぼしている隣で、もしゃもしゃと料理を口に放り込んでいた。


「ナニコレ!?おいしい!!!」


私は、あきれた顔で千歳に言った。


「お前な~。大人になったんだから、もう少しゆっくり食べろよ!!」


「は~い。そういえば、あなたは北沢のお父さんじゃないんだよね?」


「ああ。そういえば言ってなかったね。弟だよ。」


「弟!?でも・・・・。」


千歳は、私と弟の顔を見比べながら言った。


「お兄さんの方が、見た目若くないですか?」


千歳のこの言葉に、私と弟は気づかされた。


「兄さん・・・。確かに言われてみれば、そうだよ大人の姿ではあるけど、20代くらいの外見してるよ!!」


「そうか、まだ鏡で姿を確認していないから、気づかなかったが・・・中途半端なことをしてくれたものだな。」


「・・・で、兄さん。これからどうするのさ。」


「私はともかく、千歳を元の姿に戻してあげないと。だがその前に、このややこしい状況を何とかしないといけないな。彼女には連絡したのか?」


「うん。もうすぐ来ると思うよ。」


弟が言った。その直後だった。桜が個室に入ってきた。


「北沢先生!!元の姿に戻ったんですか。」


「ええ、この通り。」


桜は、うれしそうな顔をして私に言った。


「おめでとうございます。良かったじゃないですか~。」


「いや・・・それが・・・・・。」


私は、千歳の方に目線をそらした。すると桜は、この状況を一瞬で察した。


「え!?千歳!?大人になっちゃったの?その姿、素敵じゃない。」



「順応早くない!?」



 その後、桜に事のいきさつと今後の相談をした。桜は、私に言った。


「とにかく、千歳をこの状態で家に連れて帰ることは、出来ないと思います。今日の所は、私の方で誤魔化しますが。2・3日も持たないと思います。」


「だよな~。私の時みたいに、行方不明にしてしまうのも気が引けますし・・・。」


「とにかく、この服だけだと不便なので、一緒に洋服を買ってきます。」


「わかりました。お金を渡しておきましょう。ひとまず、買い物を終えたら私の家まで千歳を連れて行ってあげてください。」


「はい。任せてください。千歳、行くよ。」


「わかった。」


桜と千歳は、一足先に店を出て行った。私と弟は、解決の糸口を話し合ったが、話せば話すほど絶望するばかりだった。



【3】


 弟と今後の戦略を考えた私は、自宅に戻り千歳の帰りを待った。しばらく待っていると、桜と千歳が扉の前に姿を現した。洋服の好みが、桜のものによっているのは致し方ないだろう。私は、桜に言った。


「本当に助かりました。ちょっと上がっていきませんか?飲み物くらい出しますよ。」


「え?本当ですか!?」


 私は、二人を部屋に迎え入れ、飲み物を差し出した。桜は、私に尋ねた。


「それで、千歳をもとに戻す手立ては、見つかったんですか?」


「いや・・・かなり厳しい。とにかく、明日、知り合いの所に訪ねてみようと思っている。」


「そうですか・・・それにしても。先生の家に来たの初めてです。」


「そうですね。卒業生だとあなたが初めてです。」


私と桜が会話を弾ませていると、千歳が不機嫌そうな顔で割り込んできた。


「ねぇ!北沢!!私の服!!感想とかないの!?」


「ああ、すまん。何というかその・・・・。」


「まんま、お姉ちゃんだな。」


「もう!!」


桜はくすっと笑って言った。


「フフッ・・・なんか夫婦みたいですね。」


「は!?おねえちゃん!!!何言ってるの!!!」


千歳は、姉にツッコミを入れたが、その表情は明らかにまんざらでもない様子だった。やめてくれ、こっちが照れてしまうだろ。



【4】


 桜が家に帰宅した後、私はソファーに毛布を敷き、寝る準備をした。千歳は私に質問した。


「え?わたしここで寝るの!?」


私は、準備しながら答えた。


「いや、俺がここで寝るんだ。千歳は、ベッドを使ってくれ。」


「え?でも・・・。」


「いいんだよ。ソファーで寝ることもあるから慣れてるんだ。」


「わかった・・・ありがとう。」


就寝準備を終えた私たちは、電気を消した。私が、ソファーに体を横たえて休んでいると、千歳の声が聞こえてくる。


「北沢・・・起きてる?」


「なんだ・・・?」


「私ね・・・神社で北沢に別れを告げたときに、つい思っちゃったんだ。もっと一緒に居たいって。だから、こんなことになっちゃったのかな?」


「・・・・・・・・・・・・・。千歳はどうしたいんだ?元の姿に戻りたいのか?」


「・・・うん。でもちょっと複雑な気分。」


「そうか。まあ、いずれにしろやれることをやってみよう。」


「ごめんね・・・私が巻き込んだようなものだよね。」


「何言ってんだ。気にするなよ。それよりも、明日は朝早いぞ。早く寝た方がいい。」


「わかった・・・おやすみ・・・北沢。」




いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。


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