報告123 別れ
報告122の選択肢でAを選んだ場合、こちらの章になります。Bを選んだ場合の結末は終章Bをご覧ください。
【1】
「それでは、始めてください!」
その合図と同時に教室のあちこちで問題冊子を、パラパラとめくる音が聞こえる。今日は、青葉学園の一般入試最終日、私はかつての職場であったこの学校の入試を受けている。周囲の受験生には、申し訳ないが、私にとっては消化試合のようなものだ。心配することなど何もなかった。それよりも、隣の教室で受験をしている千歳の方がはるかに私の合否のことなんかより気がかりだった。
試験を終え、千歳と合流すると、何とも言えない複雑な表情をしていた。私は、千歳に今日の試験の出来を聞いてみた。
「どうだ、出来たか?」
「・・・・・半分くらいしかできていないかも。」
私は、彼女を安心させるために言った。
「前にも言ったが、この学校にはたくさんのコースがある。そして、入試問題は上のコースの受験生でも差が付くような難易度に設定されている。だから、この学校の合格最低点は低い。半分もできたのなら上出来だと思うぞ。」
「でも・・・やっぱり心配・・・。」
「やれることは、すべてやったんだ。早く大塚と大崎の所に合流しよう。あいつらも今日で受験がすべて終わりだからな。」
「うん。塚ちゃんに連絡とってみるね。」
【2】
次の日から、再び学校に登校すると、クラスの全員が異変に気が付いた。
飛田が・・・学校に来ないのだ・・・・・・・。
私たちは、代わりの先生から、朝の会で飛田がしばらく休むことを告げられた。しかし、生徒たちの様子は、大変落ち着いており、私はその落ち着き方に違和感を感じた。私が戸惑っている中、朝の会が終わると、千歳が私に話しかけてきた。
「ねえ、北沢。放課後、立ち寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
その日の授業は、いつものように入試の対策が中心に行われていた。それもそのはずで、私立入試は終わったものの、まだ都立の一般入試が控えているからである。むしろ、ここからが最後の追い込みである生徒も多い。私も授業は集中を切らさずに心がけてはいたものの、飛田のことが気がかりで仕方がなかった。千歳と放課後、出かけることも忘れるくらいに・・・。
その日の放課後、私と千歳は急いで家に帰り、着替えを済ませてから駅の前に集合した。いつもは、私が千歳のことを待っているのだが、この日は、彼女が先に駅の改札前で私のことを待っていた。
「すまん、待たせたな。」
「ううん。私もさっき来たばかりだよ。ねぇ、早く行こうよ。」
私たちは、電車に乗り3駅先の駅に向かった。その道中で、千歳は私に尋ねた。
「ねぇ、北沢はさ。もう一度、学校の先生になりたいの?」
「・・・そうだな。もう一回、一から出直したいな。」
「そっか。じゃぁ、元の姿には戻りたいと思ってるの?」
「そうだな・・・。別にこの姿になったことは気にしていないが、戻れたら早く教育現場に復帰出来るだろうから、ありがたいかもしれないな。で、どこに行くんだよ?」
「まだナイショ!」
千歳は、私をからかうような顔でそう言った。とはいっても、目的の駅を言われた時点でどこに連れていかれるかは、想像がついていた。
【3】
私が、千歳に連れてこられたのは、例の神社だった。この間も飛田と来たばかりだというのに、まったく・・・この神社には、相当な縁が私にはあるらしい。私は、千歳に質問する。
「どうしたんだ、こんなところに連れてきて?今更、合格祈願か?」
「ちがうよ。」
千歳は、そう否定し、ここに来た目的を私に伝えてきた。そしてそれは、私の予想の斜め上を行くものだった。
「北沢を元の姿に戻すの」
「な・・・!?お前、それはどういう意味なんだ?」
「え?そのままの意味だけど。というか、嫌なの?」
「もしかして、私をこんな姿にした神様って・・・・。」
「そう!私だよ!!」
私の、頭の中はパニックになってしまった。そんな様子を見た千歳は、にやりと笑って言った。
「なんてね!そんなわけないじゃん!」
「なんだよ!もしさっきのが本当だったら、説教と尋問を行うところだったぞ!!!!」
「え~ひどいな~。・・・・でもね。」
「元の姿に戻しにつれてきたのは本当だよ。」
私の頭の中は、再び疑問で満たされてしまった。そんな私を納得させるかのように千歳は話を進める。
「北沢は、この神社でお祈りをしてから、子供の姿になったんでしょ?そして、とうとうやるべきことを全て終えたと思うの。だから、ここで同じようにお願い事をしたら、元に戻るんじゃないかなって思ったの。」
「なるほどな。科学的な根拠はないが、確かに可能性は高いだろうな。でも・・・・。」
私は、言葉が出なくなってしまった。もし仮に元の姿に戻れたら、それは千歳や上野や大塚や・・・彼らとのお別れを意味することになるからだ。私は、かろうじて言葉を絞り出した。
「千歳は・・・それでいいのか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
千歳は、うつむいたまま黙ってしまった。しばらく、お互いに黙ったまま向かい合っていると、千歳の方から私に言葉を投げかけてきた。
「本当はね、北沢の彼女になりたい。あなたの本当の年齢なんて関係ない!もっともっと北沢と一緒に居たい!!!・・・でも。
・・・・あなたには、きっと戻らないといけない居場所がある。
私はそう思うの。」
千歳は、そう告げると顔を上げた。その顔は、涙にぬれ、頬は真っ赤に染まっていた。ここで、私が迷っていたら、それこそ千歳の想いを踏みにじることになってしまう。私は、意を決し千歳に言った。
「わかったよ。・・・ありがとうな、千歳。」
「うん・・・。最後にお願いしてもいいかな?」
「なんだ?」
「最後に、キス・・・してほしい。」
「・・・わかった。」
私は、そっと自分の唇を彼女の唇に重ねた。その時だった、私の視界は突然真っ白になった、まさしくあの時と同じだ。
ああ・・・終わってしまうのだな・・・・・・・。
私は、真っ白な空間の中で目を閉じ、今までの生活を振り返った。この1年はつらいこともたくさんあった、たくさん戦った・・・でも・・・ただ、楽しかったんだな・・・・・・・。
私の視界は、少しづつ正常に戻りつつあった。体の感覚も、大分今までと異なる。ああ・・・・これは、去年までの体の感覚だ。そして、感覚が正常に戻った期を見計らって、私はゆっくり目を開いた・・・・。
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