報告119 正月の休暇報告
【1】
「明けましておめでとうございます!」
グラスをぶつける音が部屋の中に響く。学校も冬休みに入り、去年分の冬期講習をすべて終えた、私と弟は、父・母が居る実家に帰省していた。私は、絵にかいたような田舎の出身で、実家は広い平屋で、畳の大広間に親戚が集結していた。事前に父から、「親戚全員に事情を話すのは面倒だから弟の養子縁組になってるという設定で乗り切ろう。」と言われていた。「だったら、呼ぶなよ。」とも思ったが仕方がない。弟は私の紹介をし、私も親戚たちの前で簡単に自己紹介をした。そういえば・・・親戚は、私が行方不明のままだと思っているのだが・・・。
あいつらさっき“献杯”じゃなくて“乾杯”しなかったか!?
そう心の中で思っていると、親戚の一人が声をかけてきた。
「明くんっていうんだね。今年、受験なんだろ?受験勉強は順調なのかい?」
よりにもよって、一番面倒くさい親戚に声をかけられてしまった。彼は、私の従弟にあたる。私が、学生だった頃にもよく学歴の話やらなにやらをしてきた人物だ。私は、彼がどうも苦手だった。そのため、軽くあしらうように言った。
「まぁ、ぼちぼちです。」
「そうか。どの高校に進学するかも大事だからな!!とにかく頑張りなさい!!」
(元高校教師に言うセリフじゃないんだよなぁ~。)
「そうだ、うちの子も今年受験生でな。ほら、あいさつしなさい!!」
従弟が、手招きをすると彼の息子が私の前に現れた。(・・・去年も見た気がするが。)叔父は、自慢げに私に向かって言った。
「実は、地元の国立大学を受ける予定でな。明くんもうちの子ぐらい勉強ができるように頑張りなさい。」
(その大学、私の母校なんだよな~・・・。)
すると、従弟の子供が従弟に向かって言った。
「そろそろ、勉強したいから席外していいかな。」
「おお。そうだったな。勉強してこい!そうだ、明くん!君も勉強したらどうだ?ほら!行ってきなさい!!」
「え?ちょっと!?」
私は、半ば強引に部屋を追い出されてしまった。
【2】
私とその子は、隣の部屋に移動させられた。抵抗することもできたのだが、親戚の目もある、弟も後で親戚に何か言われてしまうかもしれない。そう思った私は、指示に従うことにしたのだ。部屋を移って一息ついている私に対して、一方の彼はちゃぶ台の上でガリガリと勉強を始めた。どうしよう、そもそも問題集など持ってきていない。私は、仕方なく部屋の引き出しから紙とペンを取り出し、その子と対面するような形で座った。そして、スマホを取り出して、大学入試の過去問をあさりそれを解くことにした。
しばらく、過去問演習に取り組んでいると、親戚の子供が声をかけてきた。
「それ、大学入試じゃん。中3なんだよな!?」
「そうですよ。」
「バケモンじゃん。・・・ちなみにこの問題ってわかる?最大値を求めろって言ってるから、関数の問題だと思うんだけど・・・。」
彼は、私に数学の問題を見せてきた。私はその問題を見て即答する。
「ああ・・・そうじゃなくて、相加相乗の関係を使わないと解けないよ。結構みんな見落とすんだよね。」
「あ・・・本当だ、こんなの思いつかないだろ!!どうやって気づいた?」
「2つの数を掛けたら、明らかに約分されて消えるからね。それで気づいた。」
「それじゃ、この問題は?」
「これはね・・・。」
数時間たち、空腹になった私たちは、再び親戚が宴会をしている広間へと戻った。私たちが戻ると、あの従弟が息子に話しかけた。
「おお、お疲れ様。話し声が聞こえたけどもしかしてあの子に勉強を教えてたのか?」
従弟はそう言って、勝ち誇ったような目で弟の方を見た。一方の弟は、面倒くさそうにしながら目線をそらしビールを飲んでいる。すると、従弟の息子が喜んだ様子で言った。
「いや、あの子に勉強教えてもらってた。塾も休みで先生に聞けなかったから本当に助かったよ!!」
「な・・・なんだと!!?彼は中学生なんだろ!?」
従弟の肩身が一気に狭くなった。弟もそれを聞いて満足そうな顔をして、料理を頬張っていた。
【3】
親戚たちが解散し後片付けを終えた後、広間の片づけを済ませ、私と弟、父、母で改めて乾杯した。今度は人目を気にせず、お酒が飲める。
「それじゃ、今日はお疲れ様。」
父がそう言うと、私たちはグラスを合わせ乾杯した。数か月ぶりのお酒は、やはりたまらなくうまい。しばらく、4人で飲み食いをしていると、父が私に尋ねた。
「ところで、明は中学校卒業したらどうするんだ?」
「とりあえず、受ける学校は決めてるんだ。」
「どこに進学するんだ?」
「・・・青葉」
「青葉だって!?前の職場じゃないか!!」
「自分が抜けた後、あの学校がどうなったのかこの目で見てみたいんだ。」
「そうか・・・それでその後の進路は決めているのか?」
「飛び級で大学に進学しようと思ってる。」
「そんな制度、日本にあるのか!?・・・いや、明が言うからには、あるんだろうな。」
そんな、将来の話をしていると、母が話に割り込んできた。
「ねえ、それより明!中学校生活はどうなの?彼女できたの!?」
父が顔にしわを寄せながら言った。
「いや、いくら何でもそれはないだろ・・・・。」
「いや、一人告白した。」
私が即答すると、父は口に含んでいるビールを吹き出しむせてしまった。一方で母は、うれしそうな顔で言った。
「あら!いいじゃない!!今まで明からそんな話聞いたことなかったし!でも、大丈夫?明が本当は、大人だってこと知らないんじゃないの?」
「いや、この間そのことは説明した。」
今度は弟がビールを吹き出して私に言った。
「え!?兄さん!!千歳ちゃんに言っちゃったの!?」
「ああ。いつか言うって約束しちゃったしな。」
「まあ!千歳ちゃんっていうのね。可愛い名前じゃない!それで、永は彼女作らないの?」
「・・・・・いいんだ~・・。僕は強く生きるんだ~・・・。」
弟が意気消沈していると、今までフェードアウトしていた父が割り込んできた。
「とにかく、明・・・節度を持ってな・・・。」
「アラフォーの人間に言うセリフかい?父さん・・・。」
久々の家族水入らずに会話の弾んだ私たちであった。正月休みが明ければ、いよいよ受験直前になる。1年間の戦いもいよいよ最終局面だ。
いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。




