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報告118 思い出の場所

【1】


 遊園地で変な事に巻き込まれた私たちだったが、その後は千歳の機嫌もよくなり、少し早い時間に外に出て電車に乗った。千歳は、私に尋ねた。


「ねえ北沢。外に出るの早くない?あの遊園地のライトアップとか、きれいなのに」


私は、千歳に言った。


「確かに綺麗らしいな。すまないな、どうしても一緒に行きたい場所があるんだ」


千歳は、ちょっと期待した顔になって私に言った。


「そうなの?どんなところ?」


「ライトアップに負けないくらい、綺麗なものが見える場所。ちょっと遠いけどな」


「そうなんだ、ちょっと楽しみ」


「ちょっとだけかい!」



千歳は、少し間をおいてから私に言った。



「私ね、最近同じ夢を見るの」


「夢?」


「小学生の頃に天体観測に行った時の夢」


「ああ。千歳の姉ちゃんと一緒に行ったっていうあれか?」


「そう。それでね、お姉ちゃんの学校の先生に星のことを教えてもらうの。眼鏡をかけた男の先生に」


「その先生のことが気になるのか?」


「……うん。あれだけ、思い出に残っているはずなのに、どうしてかな……。顔が思い出せないの。今、あの先生どうしているんだろう」


「……………。」


長いこと電車に揺られ、日が沈み始めていた。大分遠くに来たためだろうか、建物の高さも次第に低くなり数もまばらになってきた。そろそろ、目的の駅だ。



 私たちが降りた目的の駅は、午前中に降りた駅とは打って変わって、閑散としていた。千歳は、


「ここは、どこなの?どこに向かっているの?」


と質問してきたが、一方の私は、


「行ってみればわかるさ」


とだけ言って、千歳と一緒に目的地まで話しながら歩いて向かった。


「千歳、前に言ったな。俺には秘密があること。そしていつかそのことを話すって」


「うん」



「今日の最後に、そのことを話そうと思ったんだ」



「え?」


「その前に、千歳の姉ちゃんの担任だった先生の話をしようか」


「え?お姉ちゃんの?」


「ああ。千歳が天体観測の時に出会ったっていう先生の話だ」


「あの先生のこと、知ってるの!?」


「俺が、初めて千歳の姉ちゃんと会ったときのことを覚えているか?」


「えっと……たしか神社で会ったんだっけ?」


「あの時、姉ちゃんが何をお願いしていたか、覚えているか?」


「えっと……失踪している先生が見つかりますようにって……」


「千歳……なんで、お前に姉ちゃんが担任のことを言わなかったのか、考えなかったのか?」


「まさか……」


「ああ……現在は、行方不明者ということになっている……」


「……そんな」



千歳の歩く足は止まってしまった。私は、彼女の手を引っ張って言った。



「安心していい。この話には続きがある」


「続き?」


「そうだ。それから数か月後、今年の夏ごろだ。お前の姉ちゃんは、その先生を見つけたんだ。変わり果てた姿だったけどな」


「変わり果てた?もしかして……しん……」


「死んでないぞ!!」



千歳は安心したのか再び歩き始めた。すっかり日も落ち、星が見え始めていた。辺りには、人っ子ひとり居なかった。私は、一度話を中断して千歳に言った。



「さて、目的地に着いたぞ」




【2】


 山道のような道をひたすら歩いてたどり着いた場所は、丘の上の原っぱだった。周囲には何もなく、一面の星空と、町の夜景を一度に見ることができる。まるで、町の光が夜空に反射しているかのようだ。私は、原っぱの中心に千歳を連れて行くと質問した。


「千歳……。ここがどこかわかるか?」


「…………え?私来たことあるの?」


「もちろん。もう5年も前になるけどな。」


「……北沢、あんた何を言ってるの?」


「この時期は、天の川が見れないのが残念だな。あのときは、大迫力の天の川を見れたのだがな。」


「……北沢?」


私は、カバンの中から一冊のアルバムを取り出した。それは、桜の持っているものと同じ卒業アルバムだった。私は、そこの教員のページを開き千歳に見せながら言った。


「ここに、写っている先生がお前の姉ちゃん……いや、桜の中学校での担任の先生だ。」


千歳は、スマホのライトでアルバムを照らしながら、私が指さしている顔写真と名前を見て言った。


「……北沢明!?それに、老けてるけど、この顔って」


「……そう。俺が、失踪した桜の元担任だ。いままで、黙っててすまなかった!!いや、騙していたと言ってもいいかもしれない」


私は、千歳に頭を下げた。千歳は、何も言わずその場で固まっていた。私は、話をつづけた。


「こんな見た目だが、もう年齢は40近い。そんな人間が、中学生と友達になるなんて……ましてや、恋人を作るなんて……本当に悩んだよ。自分でもどうするべきか分からなかった。だから、千歳のことも傷つけたこともあったし、迷惑もたくさんかけた……それから………」



「そっか……そういうことだったんだ。だから、あんな先生みたいなことをしてたんだね」


「ああ……。おとなしくしてようとも思ったが。見てられなかった。無難に1年間過ごすはずだった。でも、そんな自分を変えたのは、こんな自分を慕ってくれるクラスメイトが居たからだ。そしてなにより、千歳……一生懸命に頑張る千歳の姿を見ていたら、助けずには居られなかった。結果として、俺はいろいろなものを取り戻せた気がする。だから本当に千歳に出会えてよかったと思ってる」


「……あんたでもそんなこと言うんだ。ちょっとうれしい」


「体が突然子供になったんだ。今後、俺はどうなるか分からない。もしかしたら、すぐに寿命が来てしまうかもしれないし、ある日突然、元の姿に戻ってしまうかもしれない。そうなったら、また迷惑をかけてしまうかもしれない。それでも俺は……千歳と一緒に居たい。」


「…………うん」


「今まで、散々、千歳に待たせてしまったんだ。すぐに返事をしなくていい。今度は俺が待つ番だ」


「…………わかった。」


千歳は、ただ一言そう言った。



 その後、しばらくの間、私たちは満天の星空をただ見つめていた。星は、1時間に15°ほど動くと言われている。しかし、その動きは私たちの肉眼では、まず確認できない、あまりにも“星の見かけの速さ”がゆっくりだからだ。この時の私は、千歳と星を眺めているこの時間が、その速さと同じくらいゆっくりなものだと感じていた。そのまま、数分間見続け、千歳に声をかけようと思ったその時、千歳が私に言った。



「北沢。あんたと付き合うかどうかは、もう少し考えさせて。……でも、今日一日は、北沢の彼女でいさせてもらうね」



千歳は、そう言い終わると、私の左腕に自分の両腕を巻き付けた。




【3】


 その後、帰宅中の電車の中で、千歳が私に質問した。


「ところで、北沢。もしかして、飛田先生ってあんたの正体知ってるの?」


「ああ。もちろん知ってる。最初に俺の正体に気が付いたのも、飛田先生だった」


「確かに、北沢と飛田先生、前から怪しかったんだよね」


「なんだよ、怪しいって。俺のことで相談したいなら、飛田先生に相談してもいいと思うぞ」


「う~ん。飛田先生か~」


千歳は、天井を見上げて少し考えてから言った。


「いや……ちょっとやめておく」


「あっ、信頼ないのね……」







いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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