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報告117 茶番についての考察

【1】


 私と千歳がソフトクリームを食べ終えたころ、フードコートの前方にあるステージが騒がしくなった。千歳はその様子が気になるようで、


「ねぇ、見に行こうよ!」


と言ってきた。私はその提案をしぶしぶ受け入れ、一緒にステージの方へ向かうと、怪人の着ぐるみを来た親玉らしき人物がステージの中心に鎮座し、数名の全身白タイツ戦闘員が親玉を取り囲んでいた。怪人はともかく、私にはその白タイツの集団がどう考えても不審者にしか見えなかった。これは、おそらく遊園地で定番の特撮ヒーローショーという奴だろう。私の幼少のころにも、存在していたような気がする。



「キエェェェェェェェェ!!!!」



戦闘員たちが、返事とは到底思えない叫び声をあげる。それにしても戦闘員のセンスがヤバすぎる。私は、千歳に質問してみた。


「なぁ、あんなのが日曜日の朝に放送されているのか?」


「そうだよ。化学戦隊バケレンジャーっていうの。っていうか見たことないの!?」


「……世も末だな。もう少しカッコいいのあるだろ」


「……私もそう思う。今年のやつは、確かにヤバい。でも、それが話題になって人気らしいよ。でも、ちびっこの人気は過去最低らしいけどね」


「だから、小さい子が少ないのか。それに、いろんな年齢層の大人が混じっている気がする。で、あの真ん中に居る親玉はなんていうんだ?」


「あれ?あれは、クメン男爵だよ」


クメン!?もしかしてクメン法か!?ネーミングがひどすぎる。私が心の中で、ツッコミを入れていると、そのクメン男爵とやらが声を上げた。


「お前たち、バケレンジャーを倒すために、戦闘員を増やすのだ!!そこにいる観客をさらってくるのだ!!」



「キエェェェェェェェェェ!!!!」



すろと、戦闘員がステージから観客席に降りて、数名の児童をステージに連れて行った。彼らもプロだ、子供たちを泣かせないように、配慮しながらステージに連れて行ったのだが……。その全員が号泣してしまっている。私は、その様子に我慢できず、笑ってしまった。その様子を見て千歳が私に言った。


「ね?面白いでしょ?」


「ああ。せっかくだからもう少しだけ見てみよう」


悪の限りを尽くすはずのクメン男爵は、子供たちをなだめようと必死に説得しているが、それも叶わずしまいには。


「みんなごめんね。この、特別握手券あげるね。あとでバケレンジャーと握手できるから。本当にごめんね。お前たち!この子たちを優しく親御さんのもとに返してあげて!」


「はい!わかりました!」


戦闘員たちは、奇声を上げずに普通の返事をした。彼らの奇声も子供たちに恐怖を与えてしまうからだ。私と千歳は、その様子を見て爆笑していた。中の人も大変そうだな……。クメン男爵たちは、子供たちを親御さんの元に返すと……。


「さて、気を取りなおして!別の子をさらって来い!!」


「キェェェェェェェェェェェェ!!!!」


戦闘員たちが、奇声を上げたその時だった。ちびっ子全員が親御さんと一緒に逃げ出してしまった。その様子を見て、戦闘員たちは、ただただフリーズしていた。周囲には、もう子供らしき影はない。その時、私とクメン男爵の目が一瞬合った。その直後、私たちに向かって指をさして言った。


「仕方ない!あの女の子さらって来い!!」


「キェェェェェェェェェェェェ!!!!」



 今度は千歳が、戦闘員に連れていかれてしまった。ステージに上がるのは、さすがに恥ずかしかったらしく、明らかに不機嫌な顔をしている。クメン男爵は、何とか千歳の機嫌を取ろうと必死だった。


「お嬢ちゃん、協力してくれたらこの握手券あげるから!!」


クメン男爵は、必死になって千歳に言ったが、


「普通にいらないです」


千歳が不機嫌そうに答えた。


「じゃぁ!!このクレープ無料券あげるから!!」


「わかりました。それなら協力します」


必死だな、おい!!っていうか、千歳も千歳だな!!そんなやり取りをしていたその時だった、派手な爆発音とともに、ヒーローたちが登場し始めた。定番の赤色のリーダーの左胸にはLiと書かれていた。……なるほど炎色反応の色か!!よく考えてあるじゃないか(ダサいけど)。私は、感心しながら様子を見ていると、赤色のリーダーがクメン男爵に向かって言った。


「クメン男爵!その子を解放するんだ!!」


「愚かな、もうこの子は、我々の部下だ。つまり、お前の敵なんだよ!!」


クメン男爵はそう言って、ボールのようなものを千歳に渡した。千歳は、そのボールをバケレンジャーたちに投げ始めた。バケレンジャーたちは、それに苦しんでいる素振そぶりを見せる。クメン男爵は、マイクが拾う限界なのではないかという小さい声で言った。


「……この子、怖いんだけど」



ああ……だめだ……おもしろすぎる………。



その時、突然レンジャー側のリーダーが言った。


「やめるんだ!!君には、大切な人がいるのだろう!?今日も誰かと来てたんじゃないのか!?今も観客席から見てるんじゃないのか!?どこにいる!?」


彼がそう言うと、千歳は私の方を指さした。すると、全身タイツのレンジャーたちが一斉にこっちを見てきた。え!?そういう展開!?私は、レンジャーたちにステージまで連れていかれ、千歳と対峙することになった。すると、クメン男爵が余計なことを聞き始めた。


「お嬢ちゃん。彼はもしかして彼氏さん?」


「……。」


千歳は、恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。千歳は、ボールを突然私の方に投げ始め、八つ当たりし始めた。するとクメン男爵が言った。


「もしかして、デート中だった!?申し訳ない。もうちょっとだけお願いします!!」


悪の組織の面影は、すでに完全消失していた。一方で、レンジャー側は私の方に声をかける。


「さぁ!君の手で、彼女を取り戻すんだ!!」


やめろ!!!やめてくれ!!!!これ以上、私たちを晒さないでくれ!!!というか、いつの間にか観客がめちゃくちゃ増えている。こうなれば、早く終わらせるしかない!私は、赤色のリーダーに尋ねた。


「で?どうすればいいんですか!?」


「このボールをクメン男爵に投げつけるんだ!!」


私は、O2と書かれたボールをクメン男爵に向かって投げつけたのだが……。


「……あ」


私のボールは、手元が狂い千歳に当たってしまった。千歳は、ボールを持ちながら私に言った。


「北沢!!!なにすんのよ!!!」


「いや、すまん。手元が狂った」


私が言った次の瞬間、千歳は私の顔めがけてボールを投げてきた。私は、千歳に言った。


「何すんだよ!」


「ごめんね。手元が狂った!」


「いや、わざとだろ!?」


すると、突然クメン男爵が仲裁に入った。


「2人とも、喧嘩はやめて!!!」


「うるさいわね!!」


千歳は、そう言うと、ステージに落ちていたボールを拾い上げ、クメン男爵に投げつけた。彼は、とっさの出来事にもかかわらず、やられたふりをして退場した。


…………プロってすげぇ。



ヒーローショーが終わりやっとステージから降りることができた私たちに、レンジャーの人たちが駆け寄り声をかけてきた。


「今日は出演ありがとう!!この後、記念撮影できるけどどうかな?」



「そういうの、いらないです!!」



私と千歳は、声をそろえてその場から立ち去った。









いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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