報告115 桜と千歳
【1】
その日の放課後、千歳は帰り支度を整えて、いつものように私に話しかけた。
「北沢、帰ろ?」
私は、千歳に手を合わせて言った。
「すまん!!今日は、家の人とすぐに会わないといけないんだ。悪いが、大塚さんと帰ってくれ」
千歳は、ちょっと寂しそうな顔で私に言った。
「わかった……。そうする」
私は、千歳が帰った事を確認すると、猛ダッシュでスクールに向かった。
私は、慌ててスクールの事務室の扉を開けると、弟が驚いた様子で言った。
「え!?兄さん!?今日はめちゃくちゃ早いじゃん。どうしたの?」
私は今日、千歳に質問されたことや彼女が姉にも、その事を聞き回っていることを弟に伝えた。弟は、慌てている私に対して、冷静に返答した。
「でも、その話を聞く限り、水上先生は上手く誤魔化したんじゃないかな?」
「いや、そうとは限らない。あの子は嘘が結構下手で、顔に出る事があるんだ。そういうところは、姉妹揃って不器用なんだよ」
「へー。お姉さんは、しっかり者って感じするけど……。とにかく、彼女からその時の状況を聞かなきゃだよね」
私たちが、そんな話をしているとちょうどいいタイミングで桜が事務室に入ってきた。彼女は、少し大きめのトートバックを肩にかけながら、私に言った。
「北沢先生!ちょっと面倒な事が……」
「千歳があなたの中学時代の担任についての質問をした事ですか?」
「どうしてそれを!?」
「あの子が学校で私に言ってきたんです。姉に質問したら逃げられたって」
「はい、ちょっと嘘が思いつきませんでした」
「うーん。それにしても、厄介です。私の名前と水上さんの担任だった人物の名前が完全に一致する訳ですから」
「それで、気休めなんですけど……」
桜は、トートバックから卒業アルバムを取り出して私に差し出しながら言った。
「万が一、千歳にこれを見られたらマズイと思って回収しました。このスクールの鍵のかかる場所に保管すれば良いかと……」
「水上さん、それはファインプレーですよ。よくやりました!」
私が、卒業アルバムを受け取り、鍵付きのロッカーに保管しようとしたその時、弟が私に言った。
「ねえ、兄さん。せっかくだし、ちょっとアルバム見てみたいな」
弟は、興味津々な顔でこちらを見ていた。私は、少し呆れた顔で言った。
「あのなぁ…。卒業アルバムだぞ?ずいぶん昔のものならまだしも、今年の3月に配ったやつだぞ。まぁ、水上さんがいいと言うのであれば、見ていいんじゃないか?水上さん、構いませんか?」
「はい。いいですよ」
「ホント?ありがとう、水上先生!」
弟は、そう言うと私の持っていた卒業アルバムを取り上げ、パラパラとページをめくった。最初に弟の手が止まったのは、教員の顔写真が掲載されているページだった。
「うわー。兄さんのこの顔懐かしいなー!」
そこには、当たり前ではあるが、大人だった頃の私の顔写真が掲載されていた。桜も、弟に合わせるように言った。
「本当だ。懐かしいです。もう、この顔を二度と見ることは無いんですね!」
「ちょっと!!言い方がひどくないですか!?」
「でも、今の方が可愛くて良いですよ」
「……一体、貴方の目には、去年までの私は、どう写っていたのですか!?」
「陰険で鬼畜な眼鏡さんです」
「辛辣だな!!!!」
弟は、さらにページをめくり、ある写真を見て手を止め言った。
「ねえ、2人が言ってた、天体観測の話ってこの写真のこと?」
そこには、まだ中学生だった桜とその頃担任をしていた私が一緒に写っている写真が掲載されていた。これは、4、5年前のものになるため、さすがに懐かしさを覚える。
「うわ~懐かしいですね」
桜が言った。中学生の彼女は、性格こそ違うもののその外見は、今の千歳にそっくりだった。そして、その写真には、小学生の千歳の姿も一緒に写っていた。
「ああ、この小さいのが千歳か。それにしても、このころの水上さんは、妹によく似ていますね」
「こうして見ると、似てますね」
「本当にこの時期は、いたずら好きの手のかかる子でしたね全く!!」
「え~。北沢先生も相変わらずでしたよ~」
その時だった、弟は物音に気付いたのかアルバムを閉じ、とっさに隠した。その直後、事務室の扉が勢いよく開いた。
「お姉ちゃん、北沢居るの?」
扉の先に居たのは千歳だった。私と桜はとっさのことに固まってしまった。千歳は、さらに質問をした。
「お姉ちゃん。いま、北沢のこと北沢先生って言ってなかった?」
「え!?さて……どうだったかな……」
その時だった、弟が機転を利かせて千歳に言った。
「ああ。それは僕のことだよ」
「ああ、北沢のお父さん….…そう言うことですか。それより、北沢!授業の時間だよ。早く行こうよ」
「そ……そうだな。今行く」
私は、何とかこの場を切り抜けることができた。
【2】
授業が終わった後、千歳は桜に直接話しかけた。
「お姉ちゃん。お母さんが買い物してから帰ってきてって言ってたよ」
千歳は、そう言ってメモを渡した。桜はそのメモの内容を確認して言った。
「うわ……いっぱい買うじゃん!!千歳、荷物持つの手伝ってよ」
「……わかった。北沢、今日は一緒に帰れないみたい」
「構わないさ。手伝って来いよ」
「うん。じゃぁ、お姉ちゃん。ここで待ってるから、帰る準備してきて」
桜は帰り支度を済ませると、千歳と一緒に教室を飛び出した。
「……重い。お姉ちゃんもう少し持てないの?」
「無理……。千歳頑張って!運動部でしょ!」
「……その考えひどくない?」
桜と千歳は、買い物袋を持ちながら、帰路についていた。千歳は、思いついたように桜に言った。
「そういえば、お姉ちゃん。北沢がね、前に言ってたんだよ、「俺には、秘密がある」って。もしかして、お姉ちゃんさ・・・。北沢の秘密、知ってるんじゃないの?」
桜は、千歳の質問に思わずハッとしてしまった。その様子を見て千歳は言った。
「やっぱり、知ってるんだ」
「…………」
桜は何も言えなかった。千歳も、それ以上何も言わず、ただ帰り道を歩いていた。しばらく、無言で歩いていると、桜が千歳に言った。
「その秘密ってやつ、きっと本人が言ってくれると思うよ。……いつかね」
「そういえば、北沢のやつもそんな事言ってた。でも、本当に言ってくれるのかな?」
「うん。あの人は、すごい真面目だもん」
「確かに……」
千歳は、この時あえて桜に質問はしなかったものの、桜の言い放った“あの人は”という言葉に違和感を覚えた。
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