報告114 面倒事が連鎖することの例
【1】
「ねえねえせんせい!!なんで、あっちにはお星さまがたくさんあるの?」
満天の星空の下で、少女は一人の男に質問していた。その男は、少女と目線を合わせるよう、しゃがみ込み天の川を指さしながら答えた。
「いいかい?私たちが住んでいる地球は、銀河という星の集団の中に居るのです。銀河は中心に近づけば近づくほど星の数も増えます。つまり、星が多いあっちの方角は、この銀河の中心なんです。」
「へー。そうなんだー。」
それから、その男は別の星を指さしながら言った。
「ほら、あの星をみてごらん。とっても明るいんだよ。」
「あ!ほんとだ!!きれ~い・・・。」
少女が、その星を見ながらそう言った次の瞬間だった。その星が、強く光り始めた。
「うわ!まぶしい!!」
そして、その光は、周囲を飲み込み目の前が真っ白になったところで・・・千歳は、ベットに横たわっていた体をゆっくりと起こしつぶやいた。
「・・・・この夢、久しぶりにみた・・・。そういえば、あの人はまだお姉ちゃんの学校で先生をしてるのかな・・・・・。」
千歳は、時計を見て時刻を確認する。時刻は6時20分、思ったよりも早起きをしてしまったが、二度寝をすることなく、身支度をするため洗面所へと向かった。
千歳が身支度を終え、朝食を摂るためにダイニングへ向かうと、桜がダイニングテーブルでコーヒーを飲みながらスマホをいじっていた。千歳は、桜に話しかけた。
「お姉ちゃん、早いじゃん。いつもこんな時間に起きていないのに。」
桜は、上機嫌で答えた。
「今日はね、友達と映画を見に行くんだよ。」
「ふーん。大学生は自由でいいね。」
「まあね!!!」
桜は、千歳の嫌味をあっさり跳ね返した。
「ところで、おねえちゃん。聞いていい?」
「なに?」
「北沢とけっこう仲いいよね?何というか、昔からの知り合いみたいな感じっていうか・・・。もしかして過去に会ったことあるの?」
桜は慌てた様子で言った。
「ふぇ!?(全く!!こういうところは鋭いんだから・・・。)いや・・・スクールで担当した初めての生徒だからかな~。そういう風に見えるのは・・・・・。」
「なんか怪しいんだけど・・・まぁいいや。後さもう一つ聞きたいんだけど。」
「うん。何?」
「お姉ちゃん、中学生の頃に天体観測に行ったことあったよね?」
「ああ、千歳もついていったやつ?」
「そう、その時私にいろいろ教えてくれた先生いたじゃん。あの人って今もお姉ちゃんの学校で先生してるの?」
「え!?・・・・えっと・・卒業してから母校に行ってないから分かんないな。でも、なんでいきなりそんな事を聞いたの?」
「別にいいでしょ!その先生ってお姉ちゃんの担任だった先生だよね。名前なんて言うの?」
桜は、この時焦っていた。千歳が聞きたがっている人物の名前が“北沢明”なのだから・・・。桜はしどろもどろになって言った。
「な・・・名前!!!えっと・・・忘れた・・・。」
「いや!!さすがに噓でしょ!!!」
「・・・あ!もうこんな時間!!ごめん千歳、もう行かなきゃ!!」
桜は、そう言うと慌てて階段を駆け上がり逃げ出した。
(卒業アルバムも回収しないと!!!!)
桜は自室に戻ると、学校の卒業アルバムを回収しカバンの中に詰め、家を飛び出したのだった。
【2】
姉に逃げられた千歳は、そのまま朝食を済ませいつもりかなり早めに登校した。ただでさえ寒い季節だ、早朝の通学路の寒さが普段よりも数段厳しいものに千歳は感じていた。寒さに耐えきれなくなった千歳は、学校まで走っていくことにした。
数分後、千歳は少し息切れをしながら下駄箱でうわばきに履き替えた。家を出た時間がそもそも早いのに加えて、学校まで走ってきてしまったのだ。時計を確認すると、朝の会が始まるまであと1時間もあるではないか。千歳は、どうせ教室には誰もいないだろうと、少し憂鬱になりながら扉を開けた。しかし、彼女の予想に反して、1名生徒が登校していた。千歳はその生徒に声をかける。
「・・・・・・・・・北沢?早くない?」
その生徒とは、私のことだった。私は、千歳に言った。
「千歳こそ今日は早いな。前は、朝早く起きて家で勉強してたんだけどな。最近は、早く学校に来て、教室で勉強することにしたんだよ。で、千歳は勉強するために早く来たのか?」
「いや、別に・・今日は早く起きたから。」
「そうか・・・。」
私はそう言うと、再びペンを動かしガリガリと問題を解き始めた。千歳は、私の邪魔をするわけでもなく、私の様子をじっと見ていた。しばらくそうしていると、千歳は私に言った。
「ねえ、北沢。私ね、都立以外にも私立を一般で受けようと思ってるの。」
私は、ペンを止めて質問した。
「ん?それは初耳だな。どこを受けたいんだ?」
「・・・・・お姉ちゃんと同じところ。」
「・・・・・・青葉か・・・。どうして、そこを受けたいんだ?」
「会いたい先生が居るんだ。」
「ほう・・・。どんな先生なんだ?」
「前にね、青葉の天体観測会に連れて行ってもらったことがあったの。修学旅行の時に話したよね。それでね、その先生に会ってみたいなって・・・。」
「・・・・・・・・・!!!」
私は、これが厄介ごとの火種であることを確信し、千歳に考え直してもらうように質問した。
「・・・そうだな。確かに先生ってのも、学校を考えるうえで大事だとは思うが、その先生は、今もその学校にいるのか?確認した方がよくないか?」
すると、千歳はさらに続けた。
「うん。それでお姉ちゃんにその先生のこと聞いたら逃げちゃった。」
「は!?」
「・・・なんで、あんたが驚いてんのよ。」
「あ・・・いや、なんでもない。」
私は、落ち着いたようにゆっくりと椅子に座った。しかしこの時、私はまったく気が気ではなかった。どうして、面倒事は尽きないのだろうか・・・。
いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。