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報告113 水上桜の指導に関する記録

【1】


 次の日から、私と桜の猿芝居が始まった。この時期は、講師の大学生たちの授業がなくなり始めるため、私も授業を持たなくてよくなっていた。そのため、千歳と一緒の授業を受ける時間は十分にあったのだが・・・。


なんで、俺は教え子の授業を受けさせられているのだろうか・・・。


「はい、それじゃ2人とも問題を解いてみてね。解き終わったら丸付けしてあげるから。」


そして、なんで数学の問題を解かされているのだろうか・・・。はぁ・・・こんな簡単な回転体の体積の計算よりも、積分を使った回転体の体積を練習したいものだ。そう思いながら、黙々と掛け算をつづけ、桜に解答を提出した。彼女が丸付けをしている間に、私は千歳の様子を見ていた。確かに、以前に比べて、集中して取り組んでいる。確かに、桜の思惑はうまい方向に進んでいるようだった。しばらくして、桜は丸付けを終えて私に解答を渡しながら言った。


「北沢くんよくできてるね。でも、2~3問間違えてるから、直してね。」


彼女にそういわれたが、全く間違えた覚えはない。私は、


「馬鹿な・・・・そんなはずはない!」


と声を漏らし、慌てて問題集を見た。すると、そこには間違いは一つもなく、全ての解答に丸が付いていた。そして、解答欄の一番下に赤いフェルトペンで一文が書かれていた。



“先生、千歳のためです。話合わせてください”



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


私は、その文を確認した後、無言で問題集を直すふりをしながら問題集を再提出した。その直後に、千歳も問題が解けたようで、解答を提出してきた。桜が、千歳の解答を点検している間、千歳が私に話しかけてきた。


「北沢でも、間違えるんだね。しかも、けっこう×ついてるじゃん。」


「そうだな・・・っていうか人の見るなよ。」


「いつも、テストの点数とか堂々と見せるくせに何言ってんの。というか、スランプ?そんなに間違えてるの見たことないよ?」


「・・・・・・・普段の勉強なんていつもこんなもんだぞ。」


「そうなの!?」


「そりゃそうさ。だって、勉強は”出来ない”のだから取り組むんじゃないか。だから、間違えることに落ち込む必要なんてないさ。ましてや、これは入試問題だしな。出来ることを一つずつ増やしていけばそれでいいんじゃないか?」


「1つずつか・・・。そうだよね。」


その時、千歳の表情がいつも以上に明るくなったような気がした。



【2】


 授業を終えて、私は事務室に戻り事務作業をしていた。しばらくして桜が部屋に入ってきた。


「先生、授業お疲れさまでした。」


「まったく・・・私を変なことに巻き込んで・・・。」


「でも、千歳もいい顔してましたよ。いつもより、集中もできていたのではないですか?」


「そうですね、確かにモチベーションは上がったと思いますよ。でも、ほかにも方法はあったんじゃないですか?」


「まあまあ、うまくいったんですから。良かったじゃないですか~」


「まったく、4年前あなたの担任だったころを思い出しましたよ!そういえば、中学生の頃はいたずらっ子でしたね!!今回の作戦も若干イタズラしたい気持ちあったでしょ!?」


「え?バレちゃいました?」


桜は無邪気な笑顔でそう言った。その笑顔を見た瞬間、私はかつてこの子の担任をしていた時の記憶が、頭の中にまるで走馬灯のように駆け巡った。わたしは、その走馬灯をただ読み上げたかのように桜に言った。


「そういえば、掃除用具箱に隠れていきなり飛び出してきたこともありましたね!」


「あ・・・確かに!なつかしいです~。」


「それにあれでしょ!!バレンタインデーの日、私の机の上にアポ○チョコ1万粒分がラッピングされていたものが置かれていた事もありましたね。あれ、あなたでしょ!?」


「え!?私が犯人って気が付いていたんですか~!?」


「当時、そんなくだらないことを考えていたのは、あなたしかいませんよ!!」


「あれですよ!感謝の一万粒です!!」


「おい!コラ!!」


そんな話をしながら、懐かしい思い出にお互い浸っていると、扉が突然開いた。私たちが扉の方を見ると、そこには千歳が立っていた。


「北沢!授業終わったから帰ろうよ。」


その時の千歳の顔は、どこか不機嫌そうだった。



【3】


 家に帰る途中、一緒に歩いている千歳が突然私に質問してきた。


「ねえ北沢。北沢ってさ、お姉ちゃんと仲いいよね。」


その質問に、私は少し困ってしまった。仲がいいもなにも、元々教え子だったなんて口が裂けても言えるわけがないし、そもそも、一緒に居た時間は、圧倒的に桜の方が長いんだよな~・・・。私は、とりあえず誤魔化しながら千歳に言った。


「担当の先生だから・・・かな・・・。」


「ふーん。」


千歳は、人を疑う目で私のことを見ていた。私は、とっさに話題を変えた。


「ところで、今日の数学の授業は調子よかったのか?ほとんど間違えがなかったんだろ?」


「うん・・・。調子よかった。ところでさ、北沢間違えてた時に言ってたよね、「馬鹿な・・!!そんなはずは!!」って、そんなこと言っちゃってさ、ダサっ!!!」


「う・・・うむ。」


私が硬直していると、千歳は私に向かって笑顔を向けてきた。その時の表情が、イタズラをした時の桜の顔と重なり、思わずマジマジと見てしまった。千歳は、そんな私の様子を見て勘違いをしたのか、さらに意地悪なことを言ってきた。


「何?やっぱり悔しいの?」


「いや・・・間違えたことは事実だし、出来ることを淡々とやっていけばいいんじゃないか?」


私は、真顔で千歳に言った。千歳は、あきれ顔で私に言った。


「そういうの、少しは悔しがりなよ。ほんと、言ってることがうちのお父さんみたいだよ。」



千歳のその言葉が、今日一で心に突き刺さった・・・いや、貫通したのだった。




いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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