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報告112 受験前の燃え尽き症候群の原因と対処法

【1】


 本格的な志望校対策が始まり数日後、モチベーションを保ち続けている生徒もいれば、ここにきて冷めてしまっている受験生を何人か見られるようになった。このように受験前に燃え尽きてしまうケースは結構あるのだ。これには、いくつか原因がある。その中でも大きな要因になっているのは、取り組んでいる問題の難易度が上がり正答率が一気に下がることや、1問解くために必要な時間が増加することなどがあげられる。ここで、冷めてしまった受験生のモチベーションをもう一度上げさせることが、指導者には求められる。私は、スクールの様々なブースを見て回り、受験生たちの様子を注意深く観察しつづけた。そして、その状況を弟に報告し、弟が講師に伝え、生徒に声かけをするという、七面倒くさい伝言ゲームを行うのだ。この日、私は事務室に桜を呼び出した。


「水上さん。前にも言いましたが、何名かの生徒のモチベーションが下がっています。この子たちのケアをお願いします」


「わかりました。それで、そのケアっていうのは具体的に何をすればいいですか?」


「まずは、声掛けだけで構いません。もちろん、叱る必要はありません。褒めつつ共感してあげてください。例えば、


『半分くらい正解できてるね、いいじゃん!先生は中学生のころ、英語の長文って読むの大変だし、正解できななくて何度も投げ出しそうになったよ。それなのに、よく続けられてるね』


こんな感じです。そうしたら、モチベーションが下がっている生徒は、やる気を取り戻すか、気持ちが折れそうになっていることを訴えてきます。訴えてきたら、さらに共感してあげてください。初動で、この声掛けをするだけで、今後のモチベーション継続に大きくかかわります。もちろん、相手は人間ですから、必ず上手く行くとは限りません。しかし、その場合は別の手を打てばいいだけですし、次の手を打った時の成功率も上がります」


「わかりました。やってみます。それから、一つ聞いておきたいのですが。」


「はい、なんでしょう?」


「千歳の、受験勉強は順調ですか?」


私は、頭を抱えながら桜に言った。


「そうですね……。残念ながら、順調とは言えないです。モチベーションが下がっています。あの子は良くも悪くもまじめな性格です。過去問演習で今までより正答率が下がっていることに対して、ストレスが溜まっているようです。もちろん、スランプに陥っているわけではありません。過去問をやっているわけですから、全問正解がそもそもありえないのです」


「それで、千歳には声掛けを?」


「ええ。ですが、彼女も頑固ですからね。講師の先生が、声をかけてもあまり効果がありませんでした。なので……」


「……なので?」


「次は、私が話をしてみます。とはいえ、何かやる気になってくれる、きっかけがあればいいのですがね」


私がそう言うと、桜は真顔で私の方を指差して即答した。


「なんだ。それなら簡単じゃないですか。」


「………?」


私が首をかしげると、桜は少し悪い顔をして口を開いた。何か嫌な予感がする。


「とりあえず、千歳と話してきて構いませんか?」


「ええ……構いませんが………」



 桜は、事務室を飛び出して、自習ブースで課題を解いていた千歳を別室に連れていった。千歳は部屋に入ると、桜に向かって文句を言った。


「いきなり何?早く課題を終わらせたいんだけど!」


「ねえ、千歳。今ね、北沢くんと話してたんだけど。北沢くんのね……勉強のペースが落ちてるの」


「ああ……。そういえば、お姉ちゃん、北沢の担当だったっけ?」


「それでね、北沢くんが受ける授業を一緒に受けてほしいの。」


「は!?」


千歳は、思わず声が出てしまった。桜はそんな妹の様子などお構いなしで話をつづける。


「北沢くんも千歳が近くに居れば、気を抜かずに勉強すると思うんだよね~」


「なんで、そうなるのよ!?」


「男の子って単純だから、好きな人が近くにいると、張り切るんだよ」


桜がそう言うと、


「北沢がぁ!?そうは、思えないけど。」


千歳は私を見下すような顔で言った。桜は、さらに、腰に手をあて偉そうな姿勢で千歳に言った。


「それに、お姉ちゃんは妹のためにご褒美も用意してます!!」


「え?なに?ケーキ?」


「なんでいつも食べ物なのよ。まず、塾長に交渉して、12月24日にあなたと北沢くんの授業を入れないようにします。北沢くんにもこのことは伝えておくから……この意味わかるよね?」


「わかった。その話乗った」


千歳は、ぼそっと桜の提案に乗っかった。



 千歳との話を終えた、桜は私のもとに戻ってから、千歳と結んだ約束について私に説明した。私は、渋い顔をしながら言った。


「……うむ。確かに、現状一番彼女のモチベーションが上がりそうですが……。それにしても、ずいぶん勝手な交渉をしてくれましたね!」


「先生、いつも言ってるじゃないですか。生徒の成績を上げるためなら、なんだって利用するって。私も、先生の考えをそのまま行動に移したまでですよ」


私は、頭を抱えながら、ため息をつき桜に言った。


「……まぁ、いいでしょう。一肌脱ぎましょう」


「それから、12月24日まであと少しですから、そっちの準備もきちんとしてくださいね」



「それが、一番大変なんだけど!!!!」







いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー等頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

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