報告11 北沢、身元がバレる?(地方公務員法34条一項に違反する服務事故に関する報告)
前章のあらまし
高校教師として働いていた北沢明は、ある日突然、中学生の姿に戻ってしまう。彼の取った行動は、とある中学校の中学3年生として2度目の中学校生活を送ることだった。
そこで北沢は、上野、水上、大塚と出会い彼らの悩みを解決していった。そんなある日、北沢は担任の北野と些細なことからトラブルになり、教師になったばかりの頃の自分を思い出す。
北沢先生の法令解説
地方公務員法34条一項
職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。
教師の場合、職務上知り得た秘密とは、生徒の個人情報などがこれに該当します。教員の皆さん、生徒の住所などを気軽に教えては行けません!!
【1】
扉を開けると、大塚と水上が立っていた。
「何しに来たんだよ?」私は尋ねた。すると、水上が答えた。
「北沢、早退したでしょ。今日は大事なプリントとか連絡があったから持ってきた。」
「そうか、それはすまなかったな。…ちょっと待て、何で俺の家知ってるんだよ!?」
水上は答えた。
「北野先生が教えてくれたけど。」
あいつやりやがったな!!!!そもそも、やっちゃいけないだろ!それ!!
と言っても、あの教師のことだ仕方ないだろう。弟経由でクレームを入れてもよかったが、別にいいか。私は、話を本題に戻す事にした。
「で、連絡の内容は?」
「まず、これね。修学旅行のプリント。あと、修学旅行の行動班を決めたからその班を伝えとくね。北沢は、私たちと上野を入れた4人班になるからよろしくね。」
私の悪い癖、いや教師の悪い癖と言っていいだろう。この連絡からクラス人間関係を条件反射で考察してしまった。私は、転校してまだ一ヶ月そこらしか立っていない。交友関係もない、というか作っていない。となると、私の班は余り物を寄せ集めたメンバーになるか、面倒見の良い生徒の班に入れられる形になる。この2人は、面倒見が良いタイプとは言い難い。という事は…。
(男子生徒との仲、良くないんだな…。かわいそうに…。特に、水上は無愛想だし。)
私が、そのような事を考えていると、水上は気づいたように私に言った。
「なに?その哀れみの目は?」
私には、もう一つ気になる点があった。修学旅行は6月の中旬に行われる予定だ。だが、今は5月の中旬、少し準備が遅いのではないだろうか?おそらく、修学旅行には自由行動というのがあって、班ごとにコースを決めたりするはずだ。公立中学校の場合それらは週に一度の総合の時間などを使うが…。時間が足りなすぎる。道徳の時間を使うという不正行為を使っても足りない。私は2人に聞いた。「もしかして、自由行動とかあったりするのか?」
その質問に大塚が答える。
「あるみたいだよ。来週の水曜日までに、放課後とか使って計画書を作って提出だって。」
これはひどいwww
【2】
2人が帰ってから、私は部屋の整理を始めた。明日の放課後、修学旅行の行動班のメンバーを自宅に呼び、コースを考える事にしたのだ。学校でやっても良いのだが、学校のパソコンは使いづらい。その為、自宅のパソコンとタブレットを使った方が早いだろうと考えたからである。私は、念のため仕事で使っていた書類などを見つからないようにしまった。
次の日の放課後、上野、水上、大塚の3人がやってきた。私は部屋に招き入れ、リビングのソファーに座ってもらった。
「このソファー、凄く高いやつじゃない?革製だよ。」
大塚が水上に言った。彼女の言った通り、かなり値がする代物だ。中学生に言われても意外と嬉しいものだ。少し機嫌を良くした私は、買ってきた菓子と飲み物を持ってきた。上野が私に言った。
「なんか悪りぃな。お菓子まで。」
「いいんだ。親が張り切って買ってきちゃって困ってたんだ。(嘘だけどな!)そういえば、聞いてなかったんだけど、この班の班長って誰なんだ?」
水上が即答した。
「え?北沢だけど。」
「はい!?休んでたやつを班長にするか普通!?」
しばらく談笑した後、私たちは本題に入る事にした。まず、私は自室から大きな模造紙を取り出し、ソファーの前のテーブルに置いた。その上に正方形の付箋紙とフェルトペンを並べた。大塚が私に尋ねた。
「北沢くん。これは何に使うの?」
「この付箋紙に行きたいところや、やりたい事を書いて模造紙に貼って行くんだ。そうして、情報を整理していくんだ。この方法ならテーマも決まりやすいぞ。」
これは、ワークショップと呼ばれる手法で、アイデアを出すのに用いられる代物だ。私も授業の探求活動などで生徒に取り組ませたことがあるが、一度、学校行事でこの手法を試してみたかったのだ。ある公立学校では、プロの旅行会社の指導のもと、生徒に旅行のプランを考えさせ、実際に修学旅行でその場所に行き、最後にプレゼンテーションを行い審査してもらう学校もある。私もそれくらいの企画をいつかはやってみたいものだ。私は、さらに話を続けた。
「それからみんなに見せたい画像とか、ホームページがあったら、このタブレットを使って。そうすると…」
私はそう言いながら、おもむろにリモコンのスイッチを入れた。すると、ソファーの前の天井からスクリーンが降りてくる。
「ここのスクリーンに投影されるから。」
「…………。」
3人は、驚きの余りしばらく固まってしまった。
「…いや、これ…。」
「やりすぎでしょ…。」
「北沢くん、張り切ってるね。」
【3】
1時間くらいだろうか、自由行動の内容も決まり、計画書も完成した。まだ、解散まで少し時間があり、飲み物を飲みながら雑談をしていた。すると、大塚が北沢に尋ねた。
「そういえば、北沢くん。この間、勉強法とか、勉強の環境について教えてくれたじゃない?参考までに北沢くんの勉強部屋って見てもいいかな?」
彼女の提案に上野も便乗した。
「確かに、俺も気になる。お前、どんな勉強してるんだ?」
「見ても構わないぞ。」
そう言って私は、3人を勉強部屋(正確には仕事部屋なのだが)に案内する事にした。その部屋はシンプルな作りになっており、本や資料が保管されている棚と机が二台置かれている部屋だ。水上が言った。
「なんか、安そうな机と椅子ね。」
私は自信満々に答えた。
「机や椅子は快適すぎると集中を阻害するんだ。だから、シンプルなものがいいんだ。立ちながら作業をした方が勉強効率が良い何ていう心理学者もいるくらいだからな。」
「何で二台もあるんだ。」
「勉強用とパソコンで作業する用で机を分けてるんだ。」
水上と上野は私の話を聞きながら、机周りやパソコンを見ていたが、大塚は本棚に入っている本をチェックしていた。おそらく、参考書や問題集などを使っていないか気になっているのだろう。しばらくして大塚が私に尋ねた。
「北沢くん。見慣れない参考書と問題集しかないんだけど、これどこの塾のやつなの?」
「ああ。それは、高校の問題集と参考書だよ。普通に本屋に売ってるぞ。」
水上がそれを聞いて口を開いた。
「げ!北沢、高校の勉強してるの?っていうかこの部屋、学校の教科書が見当たらないんだけど、」
「必要のない教科書は全部学校に置きっぱなしだな。」
上野が呆れた顔で言った。
「北沢、ちなみに高校の勉強ってどこまで終わってるんだ?」
「ああ、一通り全部終わってるぞ。(10年以上前の話だけどな。)」
「気持ち悪っ。どうりで塚ちゃんがテストで勝てないわけだよ。」
水上が言った。しかし、気持ち悪いはいくらなんでもひどくないか?そんなやり取りをしていると大塚が再び私に尋ねた。
「北沢くん、他にも気になることがあるんだけど聞いていい?」
「何だ?」
「北沢くんって一人暮らしなの?」
「……!!?どうした急に?」
「この部屋に、ベッドがないでしょ。そうすると後、私たちが見ていない部屋は、一つだけになるよね。その部屋って寝室じゃないの?中学生で両親と一緒の部屋で寝てるとも考えにくいし…。」
しまった。調子に乗って色々見せすぎた様だ。しばらく私は沈黙して言い訳を探してみたが、良い答えが見つからない。私は適当な事を言ってごまかす事にした。
「最近、親戚に引き取られたばかりでベッドとか届いていないんだ。今は、リビングのソファーで寝てるよ。」
「……………。」
気まずい!!たまらず、私は無理やり話題を変える事にした。
「そういえば、進路希望調査って来週提出だったよな?あれ、みんな書いた?」
上野が私に気遣って返事をしてくれた。
「あ…ああまだ考えてないや。とりあえず、近くの都立高受ければいいって思ってるよ。」
「私は、親が偏差値を見て学校を選んでくれてるから、特には考えていないかな。」
大塚が言った。私は、2人の発言を聞いてどうしても血が騒いで仕方なくなり、つい話してしまった。
「その考えだと、進路選択失敗するぞ。せっかくだから、高校選びの落とし穴を教えるよ!!」
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