報告106 凶悪な難易度のテストに向けての対策とは
【1】
合唱祭が終わって、数週間が過ぎた。この時期になると、ガリガリと勉強に取り組む生徒たちもチラホラみられるようになった。特に顕著なのは……。
「北沢・・・ここはどうやって解くんだ?答えが合わないんだよな~」
「ああ、これは2行目の計算が間違ってるぞ。それから、この問題は解の公式でも解けるけど、平方
完成した方がはるかに楽だからな」
「あ・・・本当だ。サンキュー北沢!」
私に声をかけているのは、上野だった。最近は、勉強に対するモチベーションが非常に高く、成績も伸びてきている。英語の成績がひどくて居残りをさせられていたなんてことは、微塵も感じさせない豹変ぶりである。もちろん、上野だけではない。クラスのほとんどの生徒が、勉強に気持ちが向いていた。それもそのはずで、あと数週間で期末テストを迎えるからである。本来、このテストは調査書の内申点に大きくかかわるため、比較的難易度が下がるのだが・・・。私には一つ懸念があった。
放課後になり、私は飛田に呼び出された。飛田は応接室に私を迎え入れ、封筒を差し出してきた。
「それじゃ、これが試験範囲表と試験対策についてのレポートになります。生徒へのフォローをよろしくお願いします。」
本来、学習塾は学校の定期テスト対策に過去問を用いる。これは、通っている生徒にテストを塾に持ってきてもらいコピーをして保管するのだ。しかし、これにはいくらか問題点がある。そもそも、1年前のテストの作成者と今回のテストの作成者が同じになることは、そこまであることではないのだ。特に、今年度は理科を新任の長沼が担当しているため、確実に過去問の効果は薄れてしまう。
しかし、私が設置したスクールは、あくまでも学校と連携をしている施設なので、学校から詳細な情報をもらえるというわけだ。言ってしまえばほかの塾にはないチート能力である。もちろん、これは区から認可されていることと、飛田が私を信頼しているからこそ出来る芸当である。だが、それが今回、裏目に出てしまいそうなのだ。私は、飛田にそのことを確認した。
「それで、飛田先生。今回のテストの難易度なのですが……。」
飛田は、残念そうな顔で私の質問に答える。
「ええ……。前回の中間テストで、全員が点数を取りすぎました。管理職の先生からも、もう少し平均点を下げるために、期末の難易度を上げるように言われています。詳細は、その封筒の中に書かれていますが、都立入試レベルの問題が大半を占めると思ってください。」
「やはり、そうでしたか……。これは、厳しい戦いになりそうですね。」
【2】
私は、帰宅後例の封筒を持ってスクールへと向かった。スクールの事務室に入ると、私は封筒の中身を広げ弟と一緒に内容を確認した。その内容を見て弟は若干引き気味になりながら言った。
「兄さん……これキツくない?」
「ああ……こんなん。普通の中学校だったらクレームものだろ……。」
内容は簡単にまとめると以下のような内容であった。
国語
授業内で扱った作品を出題するが、200字の意見文を出題する。
数学
大問1~3は都立高校の入試に準じて出題する。試験範囲は、今まで学習した内容のすべてである。
社会
今回の学習範囲から50点分 地理と歴史の全範囲からそれぞれ25点づつ出題する。
理科
中学理科すべての範囲から出題する。
英語
教科書本文からの出題以外に、初見の長文読解を50点分出題する。
前回の中間テストでよっぽど点数を荒稼ぎしてしまったとはいえ、あまりにも厳しい難易度に私たちは頭を抱えた。
「兄さん……これ時間、間に合わなくない?」
「ああ。試験範囲のすべてを網羅することは不可能に近い。だから、一番コストパフォーマンスの良い分野を短期間に詰め込むしかないだろう。幸いなことに、計算や漢字、意見文は学校の朝の時間に毎回解いているし、このスクールでもほとんどの生徒が中学1・2年の復習を終えている。生徒たちを信じるしかない!」
「そうだね。僕たちは、僕たちで出来ることをやっていこう」
こうして、私たちの闘いが始まった。
この日から、さっそく手を打った。私は、弟に言った。
「それじゃ、とりあえず英語から行くぞ。講師の先生たちに、現在行っている入試問題集について、試験で出題されない文法を飛ばして、全員読解を授業で扱うように指示してくれ。まず、絶対的に読解の練習が足りてない。付け焼刃になるが、読解を練習させよう。授業の前半で読解を行い、後半はテスト対策をしてくれ」
「数学は、入試問題集の文字式の計算、一次関数、二次関数を必ずやってくれ。あとは、テスト範囲の復習で構わない。計算問題が不安な生徒は、夏休みに復習した基本問題集を使って復習してくれ」
「問題は……社会だが……情報量があまりにも膨大すぎる。とにかく、試験範囲の復習と入試問題集を使って地理と歴史を復習するしかないだろうな」
「兄さん……理科は大丈夫?」
「何言ってるんだ?理科は本業だぞ、明日までに準備をしておく。心配は無用だ」
ああ……今日は徹夜になってしまうかもしれないな。私は、そう心の中で嘆くのだった。
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