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報告105 チュートリアルを活用したアウトプット型授業

【1】


 私と長沼は、そのまま生徒の待つ、集団ブースへと向かった。そこには、何人かの生徒が問題集やノートなどを開いて待機しており、その中には、大塚の姿もあった。長沼は、この授業を受講している生徒の共通点に気づいたようで、私に小声で尋ねた。


「北沢先生……この生徒たちって、成績優秀者ばっかりじゃないですか?」


私は、長沼に小声で返した。


「気づくのが早いですね。このクラスは、難関私立や自校作都立の検討をしている生徒たちです。……というか長沼先生、生徒たちの前なので、先生っていうのはやめてください」


「そうだよね。ごめん」


そんなやり取りをしていると、大塚が私に質問してきた。


「北沢くん。どうして長沼先生が居るの?」


「スクールの授業の視察だってさ。どんな授業をしてるのか見てこいって校長先生に言われたみたい。そうですよね?長沼先生?」


「え!?……うん。そんなところだよ」


「さて、そんなことより授業始めるぞ。今日は、一次関数の応用問題だったな。まずは基本事項の確認から行っていくぞ」



 私は、基本事項を10分程度確認した後に、さらに10分ほど例題を解いた。そしてそのあと、私はホワイトボードに書くことをやめて椅子に座った。


「それじゃ、今日の説明はこれで終わり。今日はちょっと長かったな。じゃ、いつも通り作業していこうか」


私がそういったその直後だった。生徒たちが、一斉に問題を解き始める。長沼はその見慣れていない光景について質問した。


「北沢くん……これはどういうことだい?授業は90分間なんだろ?説明終わりって……?」


私は、長沼の質問に答える。


「ええ。もう説明はしません。問題演習の時間です。」


「確かに数学の授業なら問題演習の時間があるだろうけど、解説をやるよね?」


「解説ですか?そんなものを全体でやってどうするんですか?」


「え!?解説をしない!?」


「まぁ、見ててください」


私が言ったその直後だった。大塚がノートを開いたまま持ってきた。


「はい、北沢くん。丸付けお願い」


「あいよ」


私は、大塚の解答を確認して丸を付けノートを返却した。


「うん。完璧だよ。それじゃ、次の問題ね」


私がそう言うと、大塚は席に戻り、再び問題を解き始めた。長沼がその一連の動きを見た後、私は長沼に説明した。


「これが私の授業です。先生がイメージしている授業は、50分間教師が説明し、生徒がその情報をインプットする形式だと思います。そうですね?」


「はい」


「たしかに、先生の授業は、指導内容も大変細かく抜け漏れがありません。それは素晴らしいことですが、圧倒的に生徒のアウトプットが足りない」


「アウトプットですか?」


「はい。例えば、発言をするとか、レポートを書くとか、問題を解くとかです。私の授業は、アウトプット重視ですから、説明は極限まで省きます」


「でもそれだと、学習内容を理解できない生徒も出てくるのでは?」


「確かに、問題を間違える生徒もいるでしょうね。ですが……。」


私がそう言うと、今度は別の生徒が、私のもとにやってきた。私は、大塚の時と同様に丸付けをした後、その生徒に言った。


「(2)の解き方だけど、2直線の交点の座標は、2つの一次関数の式を連立したら求まるよ。やってごらん」


「わかった!」


そう言って、その生徒は再び問題を解き始めた。


「長沼先生、わかりますか?何も、全員に同じ解説をする必要なんてないんですよ。その子にあった、最小限の解説で十分なんです。これが、私がよく使う授業手法“チュートリアル”です」


「なるほど、確かに学習効果はありそうです。でも、これは数学でしょう?これを学校現場で、ましてや理科の授業で行うことは可能なんですか?時間が足りない気がします」


「いいえ、十分可能ですよ。工夫は必要ですけどね。まず、授業をプリント授業にしてください。また、プリントをプロジェクターや電子黒板に投影しそこに書き込みをしてください。これをやるだけで、教師の板書時間と生徒の写す時間が大幅に削減できます。削減した時間をこのチュートリアルに回せばいいんです」


「でも、そんなスピードで授業をして、学習内容が定着しますか?」


「問題ありません。なぜならば、ノートを写す、話を聞くというインプット学習よりもアウトプット学習の方が学習効果が高いのです。特に、勉強のできる子には、ほかの子に教えさせてもいいでしょう。その場合、学習効果はインプット学習の30倍にもなるともいわれています」


「30倍ですか!?」


「まぁ、これについては、私もあんまり信じていませんけどね。でも、効果が高いということは間違いないと思いますよ。どうですか?少しは参考になりましたか?」


「そうですね……。ちょっと試してみます。でも、この子たちみたいに全員が丸付けに来てくれますかね?」


「ええ。来ますよ。なぜならば、一人ひとりに目の前で丸を付けているのですから」


「本当にそれだけで生徒は来るのですか?」


「きちんと丸を付けてあげればね。たかが丸付け、されど丸付けです。口で言っても、ぱっとしないと思いますので、ぜひ授業で試してみてください。ただし、最初は全員が正解できる基本的な問題から導入することをオススメします」


「わかりました!試してみます!!」





いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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