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報告104 教員の育成制度

【1】


「へー。それじゃあの新人くんは、兄さんの正体にほぼほぼ気づいていたんだね。」


スクールの事務室で、弟が私に言った。


「ああ、大したものだよ。」


「それで、彼は弟子にしてくれって言ったんでしょ?兄さんどうするの?」


「引き受けたぞ。実際、そうやって若手を育てるのも自分にとっていい経験になるだろうしな。教育業界ってのは、きちんとしたメンター制度が整っていないし、指導者を見つけるというのは、いいことだと思うぞ。」


「そうだね、会社だと教育係が居ることが多いし、研修以外にもOJT(On the Job Trainingの略)がしっかり整備されているからね。学校の教師ってそこのところは整備されているの?」


「どうだろうな・・・。確かに昔に比べて公立は、研修制度が充実したことは事実だな。ただ、ほとんどの私立については公立より充実はしていないだろうし、OJTについてもせいぜい授業をほかの先生に見てもらって指導を受けるくらいだからな。手取り足取りというわけにはいかないな。そもそも、即戦力前提で人を雇うからな、現に長沼くんは1年目で担任なわけだしな。」


「そう考えると、教師って大変だよね。でもそれ以上に、周りから指導を受けないと、個人商店になりやすいよね。」


「その通りだ。だから、とんでもない人間を生み出してしまうことだってあるのだと俺は思う。」


「話を戻すけど、兄さんは長沼先生には何を教えるんだい?」


「とりあえず、明日からここに来てもらうことになった。そろそろ、受験に向けての対策と期末テストの対策が始まるからな。彼には働きながら覚えてもらうとしよう。」


「さっきまで偉そうなこと言っておいて、兄さんも教えるって名目で人をこき使うんじゃん。」


「え?バレた?」



【2】


 次の日の夜、スクールの教室に長沼がやってきた。私は、彼を迎え入れ、誰もいない事務室へと案内した。彼をソファーに座らせ、私はその反対側に座り口を開いた。


「今日、私がお話しするのは、この時期の生徒たちの学習支援についてです。長沼先生、合唱祭も終わり10月も終盤ですが、この時期に学習塾ではどんな事をしているか分かりますか?」


「まだこの時期であれば、学校の予習と復習がメインでは無いですか?」


「いいえ、ちがいます。この時期は、入試に向けた問題集を解くのが一般的です。先生の授業でも、6月ごろから入試問題を少しづつ扱うよう飛田先生から指導を受けましたよね?」


「はい…飛田先生から都立理科で頻出の問題をプリントにして頂きました…ってもしかして、そのプリント作ってたのって。」


「ええ。もちろん私です。さてと、本題に戻りましょう。学習塾が中学3年生にどんなスケジュールでカリキュラムを組んでいるのか。これが今回のテーマです。」


「あの、ひとついいですか?」


「何でしょう?」


「それは、学校現場で役に立つのでしょうか?確かに塾だろうが学校だろうが学習をさせる事には、変わりありません。しかし、全くの別物だと私は思いますし、そうおっしゃる先輩の先生方も多いです。」


「そうですね。確かに、塾と学校では、学習の性質は異なります。しかし、私たちは学校のプロではなく、教育のプロを目指すべきです。」


「教育のプロ?」


「はい。三者面談をすれば、保護者から塾に子どもを通わせるべきか?などの質問は来るでしょう。そこで、『私たちは学校の専門家ですので、何とも言えません。』とか、『学校の勉強だけで受験は十分なんです。』と言ってしまうのは、余りにもお粗末です。後者の場合は、せめてきちんとした根拠を説明してあげるべきです。

いいですか?もっと塾のことも勉強して下さい。あなたは、あなたは教師である以前に教育・学習支援業に携わっているのですから。」


「そうですね。納得が行きました。」


「では、本題に移りましょう。まず、中学3年生の受験勉強のスケジュールの一例を見てみましょう。このようになっています。」



7月(期末テスト終了後)から夏休み期間

中学校3年間の基礎事項の復習を開始、8月までにおおむねの基礎(特に英語と数学)を完成させる。


9月〜11月

学校授業の復習 + 入試用問題集(中学校の内容全て)

もちろん、中間テスト前は、一度入試対策を中断してテスト対策に集中する。


二学期期末テスト前

調査書に関わる最後のテスト。もちろん、内申点に関わるため、全力でテスト対策に取り組む。


12月(テスト後)から受験まで

入試用問題集が完成次第、過去問などの実践的な問題集に取り組む。



「もちろん、これは一般的な例です。難関高校だったり、中1・2年の学習内容があまりにも定着していなければ、もっと早めに手をつけなくてはいけません。」


「なるほど……意外と夏からで間に合うんですね。」


「多くの中学校では、3年生になると授業の中で1・2年の復習を行うことが多いです。中には、テストに組み込む先生もいます。学習塾もこの事は把握していますので、それ前提のスケジュールですね。」


「ちなみに、夏休みの復習で国語、理科、社会の復習がないのはどうしてですか?」


「ええ。これは、生徒の学習効果……というよりも大人の事情があります。」


「大人の事情?」


「はい、まず理社を塾で取り扱いにくい理由としては、塾の授業料が跳ね上がることが挙げられます。もちろん、学習塾では理社の授業も夏期講習に組み込まないか提案するでしょう。しかし、そこまで経済的に余裕のある家庭は、多くはないという事です。」


「それじゃ、国語は?」


「学習効果が見えにくいからです。なんとなくわかるでしょう?」


「あ〜確かに。」


「本来、国語の力は、作品を通して言葉に触れること、漢字の書き取りなどを通じて語彙ボキャブラリーを増やす事、文などを書く事などで身についた総合力が試されます。これらは、学校での授業の積み重ねによって、数値化はできないものの、確実に身についていくものです。しかし、学習塾では、短期間での結果が求められます。だから、塾の実績として見てもらいづらく、あまり国語を推さない塾もあるのだと思います。」


「なるほど……。」


「でも、安心して下さい。私たちの運営しているスクールは、非営利の団体です。生徒からはお金をとっていませんし、学校との連携も密ですから、5教科みっちりとサポートしてますよ。」


「キッチリ宣伝もしていくぅ!」


「さて、そうして夏に基礎工事を終わらせたので、今の時期は、入試用の問題集を解かせ実践的な力が、身につくように準備をしているというわけです。これについては、授業の様子をよく見てみて下さい。そして、どんな事に気を配っているのかをぜひ当てて下さい。それでは、私も授業がありますのでこの辺で失礼します。」



「え!?北沢先生も授業を受けているのですか?そんな必要ありますか!?」



「何言ってるんですか?授業しに行くんですよ。もしよかったら見学しますか?そんなに面白いものではありませんが。」



「はい。お願いします!」





いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言]  はじめまして。  鍵かっこに鍵かっこを入れ子するなら二重鍵かっこにするほうがいいですよ。あと、三点リーダー(これ→「……」)は二個単位で使うほうがいいです。ついでに言うとオレンジ電池先生は…
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