表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/135

報告101 長沼との密談記録

【1】


 私と千歳が向かったのは、街の中にある工務店の倉庫だった。その近くで一人の男性が私のことを待っていた。私は、その男性に近づき声をかけた。


「お待たせしました。私が北沢です。」


すると、その男は、明るい顔で私に話しかけた。


「こんにちは。君が北沢くんか。それじゃ早速案内するよ。」


私たちは、中の倉庫へと案内された。倉庫の中には、プラスチックやら合成繊維やらで出来ているであろう、大量のボードが並べられていた。千歳は、私に尋ねる。


「ねえ、北沢…。何しに来たの?」


「合唱祭を体育館でやるからな。音の反響を良くするために、反響板を買おうと思ってさ。」


「は!?」


「わかばスクールを作るときに、この工務店から防音剤やら資材やらを大量購入したんだよ。で、今回の合唱祭のことを相談したら、余ってる反響板を格安で売ってくれるってさ。」


「いくら安くても、学校は買ってくれないでしょ。」


「だから、うちの会社で買うんだよ。使い終わったら、会社で保有してる別の施設に流用する予定だしな。」


「ねぇ…あなた本当に中学生なの?」


「さてと、どの反響板が良いのか、千歳わかるか?」


そう言って私は、千歳に音叉を渡した。千歳は音叉を受け取りながら言った。


「こんなんで、反響板の性能分かるわけないじゃん!」


千歳の当然の返しに私は答えた。


「勘で構わない。千歳を信じるよ。」


私の答えに、千歳は少し戸惑いながら言った。



「北沢って、そんなこと言うやつだったっけ?ちょっと恥ずかしいんだけど。」



少し彼女をからかうつもりで言ってみたが…ちょっと意地悪だっただろうか?



【2】


 それからしばらくして、ようやく合唱祭前日となった。この日は、数名が残り会場準備にあたる事になっていた。私は、生徒たちに会場設営の指示を次々と飛ばしていった。その時だった。一人の生徒が私に声をかけてきた。


「なあ、北沢。俺たちにも手伝わせてくれよ。」


私にそう声をかけたのは、上野だった。彼は、いつものメンバーである、大塚や千歳だけでなく神田や大崎までも連れてきた。人手は多い方が助かる。私は、二つ返事で、まず千歳と大塚に指示をした。


「それじゃ、2人は椅子を並べるのを手伝ってくれ。」


「わかった。」


次に、私は上野たちを体育館の外へ案内した。外には、先日取り寄せた反響板が大量に置かれていた。


「俺たちは、これを体育館に運び、壁に設置していくぞ。」


「よっしゃ!!やるか!!」


その後、私と何人かの生徒で、放送機材の準備やら装飾準備、看板の設置などをテキパキとこなしていった。長沼は、私たちの作業を手伝いながらも終始浮かない顔をしているようだった。



【3】


 次の日、いよいよ私たちは、合唱祭本番を迎えた。この日は、かなり早めに登校して、放送機材を片っ端から点検して回った。その作業の途中、ちょうど一人で狭い放送室の中で機材を点検していた時だ。打ち合わせを終え、点検するためにやってきた長沼に声をかけられた。


「北沢くんおはよう。何をしているんだい?」


私は、作業をしながら返事をした。


「おはようございます。見ての通りです。放送機材の点検と操作を確認しています。」


長沼は、少し悲しそうな顔をして私に言った。


「そっか…。僕の代わりにやってくれたんだね…。ところで、その機材の操作は、一体どこで覚えたんだい?」


「前の学校で覚えました。放送担当だったので。」


「そうなんだね。もう一つ聞いて良いかな?」


「何でしょう?」


私が放送機材をいじりながら、そう返事するとしばらく間を置いてから、長沼は口を開いた。


「前の学校ってのは嘘だよね。だって、君は中学校に通ってなかったって、書類に書いてあるよ。北沢くん、プライベートな事だから、答えたくなければ答えなくて構わないんだ。君は…いや、あなたは一体何者なのですか?」


「…………。」


私は、しばらく沈黙した後に、体を長沼の方に向けて言った。


「なるほど、生徒の書類をちゃんとチェックしてるじゃないですか。まぁ、生徒の家庭事情を担任に相談もせず直接生徒に聞くのはよくないですが、初任者にしては、上出来です。」


「……え!?どうして、僕が初任者だって…。そもそも、初任者なんて言葉をどうして…。」


長沼が驚くのも無理はなかった。初任者とは、教員に始めてなった者の事を言い、世間一般には浸透していない言葉だからだ。私は、長沼の質問にさらに答えた。


「長沼先生、あなたの机の上に初任者研修のテキストが置いてありますよね。それで気がついたんです。もうお分かりだとは思いますが、私はただの中学生ではありません。信じられないとは思いますがね。」


「いいえ…。私は、あなたの事を信じますよ。だから、教えてくれませんか?」


「構いませんが、その前に、なぜ私にそんなことを聞こうと思ったのですか。」


「それは…。北沢くん…あなたに、相談したいことがあるからです。」


「相談…ですか。私は、いくらでも相談に乗りますが、今は時間がありません。ひとまずこの行事を成功させましょう。話はそれからです。」


私は、そう言って長沼にファイルを手渡した。


「これは?」


「今日の放送機材の操作についてまとめてあります。この手順通りに放送機材を操作すれば大丈夫です。私は、これからクラスに戻ります。後はよろしくお願いします。」


私は、そう言ってその場を立ち去った。



いつも、最後まで読んでいただきありがとうございます。

感想がありましたらお待ちしております。ブックマーク、レビュー、評価等、頂けましたら嬉しいです。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ