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長篠会戦③

武田軍の攻撃は左翼から始まった。

山県昌景率いる赤備え衆2000騎が織田徳川軍の作戦境界部にうちかかっていく。本来なら織田徳川軍を一撃で粉砕したであろう攻撃。しかし、信長は防衛線の弱点をカバーするため、すでに十分な量の戦略守備兵力を手配していた。

突入した赤備え衆はたちまち猛烈な防御砲火にさらされ、バタバタとなぎ倒されていく。


「死にたくなければ前進を止めるなっ!早く着けばそれだけ犠牲は減るっ!」


射撃に怯んで前進速度が落ちれば、その分敵が再射撃を行うリスクが高まる。

昌景に言われるまでもなく、赤備え衆は味方の遺体を踏み越え阿修羅のように突撃を敢行した。

一斉射撃をもろに食らった後にも関わらず、全く歩みを止めない武田兵に織田兵は狼狽した。

丹羽隊前衛は鎧袖一触蹴散らされ、武田兵は第二線陣地に飛び込んでいく。


しかし、丹羽長秀は第二線陣地に第一線以上に分厚い火点網を配置していた。さらに後続の羽柴隊、本陣鉄砲衆も丹羽隊の援護にかけつけ、赤備えに猛射を浴びせる。

さすがの赤備え衆も射すくめられてしまい、これ以上の突撃はとてもできなかった。赤備えに呼応して原昌胤隊、内藤昌豊隊も徳川軍への突撃を繰り返していたが、状況は似たりよったりで第二線陣地で釘づけにされていた。

武田軍左翼の猛攻は織田軍右翼を若干へこませてはいたが、想像を絶するほど強力な防衛陣地群を前に、全面的突破など問題にならないことを思い知らされた。


「犠牲が大きすぎる…。一度、お館様に状況を報告した方が良い」


山県昌景の命を受けた百足衆(伝令兵)は即座に本陣へ駆けつける。

快速の伝令衆を活かした情報共有の速さも武田の大きな強みだった。


「敵は全く不意を突かれていません。この方面の攻撃は完全に読まれています。我が軍の犠牲は甚大で物頭の全員を失った部隊も少なくありません。敵砲火の威力は言語に絶します」


前線からの報告に本陣からは動揺の声が上がる。

将領級だけで三浦伊予守、依田駿河守、菅沼次郎、朝比奈保忠、倉賀野康景の戦死が確認された。

損害と敵右翼戦力の詳細が明らかになるにつれ、左翼の突破行動を危険視する声が高まっていく。

しかし、勝頼は敵の強力な抵抗と膨大な損失を最初から計算に入れていた。戦況は楽観はできないが絶望的でもなかった。織田軍は右翼及び中央部の境目に重点を置いている。左翼にはたいした兵力を置いていない。

これがわかっただけでも大きな成果だと勝頼は考えていた。あとは敵主力を右翼にとどめておけばいい。

勝頼はあらためて左翼に攻撃続行を命じる。

命令を受けた左翼部隊の将領たちは自分達が捨て石であることを理解し、覚悟を決めた。

自身諸共、陣地を粉砕するかのような攻撃が左翼戦線全体で繰り返された。

山県昌景は前衛歩兵の全てを使い潰して、丹羽長秀隊に肉薄。一時的にその抵抗を打ち崩し第二線陣地への突入に成功する。凄惨な白兵戦の末、丹羽隊は第三線陣地へと追い散らされた。

原隊も内藤隊も赤備えに負けじと突っ込み、徳川軍の本田忠勝隊を第三線陣地まで追い込んだ。


決死の攻撃は一定の成果を挙げたが、これ以上の前進はかなわなかった。

再攻撃は攻撃参加部隊の実に30%が死傷するという悲惨な結果に終わった。

しかも、これだけの犠牲を払ったにも関わらず織田軍右翼(徳川軍を含める)の縦深陣は健在だった。その守備体制は微塵も揺るいでいなかった。

一方で武田軍左翼の猛攻は織田軍の意識を右翼方面に完全にひきつけた。境界部への執拗な攻撃は陽動役としての役目を十分に果たしていた。



左翼部隊が悲壮な突撃を敢行していた頃、勝頼は中央部隊に前進を命じていた。

武田信廉隊、一条信龍隊、典厩信豊隊、土屋昌続隊が織田軍中央へ殺到していく。

中央部隊の果敢な強襲は第一線陣地を容易に食い破り、第二線陣地にまで達していた。

しかし、織田軍は右翼同様、中央にも十分な備えを施していた。

武田軍が第二線陣地を突き抜けた所に織田軍中央部隊の抱える全ての砲火がむけられた。三方から猛射を浴びた中央部隊は戦列の大半を砕かれてしまう。

第一線陣地で削り、第二線陣地でつんのめらせ、第三戦陣地で仕留める。織田軍中央部の防衛線は最初から二線まで抜かれることを前提に作られていた。

中央部隊もまた左翼部隊同様に愚直で自爆的な攻撃を繰り返し、陽動役としての任務を立派にはたすことになる。


本命の右翼部隊も中央部隊に連動する形で攻勢に参加した。

右翼だけいつまでも動かないのは目に見えて不自然であり、勝頼は形だけの攻勢を右翼に命じた。

右翼部隊主将の馬場信春は本命突撃用の騎兵を後方に集結させつつ、歩兵による散発的な波状攻撃を繰り返した。あえて攻撃ポイントを絞らず、織田軍左翼の守備兵力を分散させることに全力を注いだ。

攻撃自体は短時間で撃退されたので、織田軍の諸将は誰も左翼に注意を払わなかった。

すでに右翼と中央の戦闘は織田軍が制しつつあり、武田軍は敗北寸前まで追い詰められている。武田軍右翼の攻勢はやけくその攻勢としか受け取られなかった。

信長は武田軍にとどめをさすべく、右翼と中央に集めた主兵力に総反撃を命じた。

織田軍が反撃のため右半身に力を入れたまさにその瞬間、武田軍右翼に集結した騎兵部隊が戦史に残る大突撃を敢行した。

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